『物語の欠片』のカケラの裏話②
夏に橘鶫さんの大長編連載『物語の欠片』のキャラクターの絵をご依頼いただき、現在『朱鷺色の黎明篇』に挿絵として掲載していただいています。
裏話①はこちら↓
裏話①のあと登場した二人のキャラクターについて今回は書いていこうと思います。
今回も作品のほうは鶫さんの記事のリンクを載せますので、ぜひそちらでご覧ください。お話の終わりに全体像を載せてくださっています。
ローゼル
今回の一人目はローゼルです。
前回、ネリネのところで「今回描いたキャラたちは『描きたい』と『描ける』に分けられる」と書きましたが、ローゼルは両方。
描きたいし、描けるだろう、といった感じでした。
それは私の頭の中で彼の明確なイメージがあったから。
光の戦士として選抜され、実際すごく強いんだけど、自分の感情の取り扱いについてはいまいち分かっていないローゼル。
姫に求められ王族に入り王配になるも、中身は変わらず朴訥とした戦士。
こんなキャラこそ私のためのモチーフ!描かせてローゼル!
っていうくらいの制作意欲だったのですが、最初に描いたローゼルをお見せしたときの鶫さんのお返事は
「ローゼルは短髪なんですが…」
え、そうなんですか。
私が最初に鶫さんにお見せしたのはワンレンおかっぱで剣を振りかざす戦士。私の中ではローゼルが剣を振るたびにこのワンレンおかっぱがファッサファッサ揺れ動いていたんですが…。
しかし、作者ご本人からそう言われると、確かにローゼルだったら「戦うのに邪魔だ」とか言って長い前髪とか嫌うだろうな、とすぐに納得。
そこでちょっと、頭の中で私も物語の登場人物になりきってみました。
名づけて「アグィ―ラの下町でアジュガ親子が昔から通っている床屋を経営するワカメ」
…どうでもいいですな。失礼しました。
髪を短くしたローゼルで描きたくなった構図は、最初の一枚とは全く違いました。
剣を振りかざしているのではなく、剣と対話しているローゼル。
夜中に目が覚めてしまって、王配となった自分への疑問がまたぶり返し、そっと寝室を抜け出し月光の下で剣を見つめる…そんな一枚でした。
(ということで描かれているのは夜着です。笑)
描き直したおかげで生まれたローゼルの絵。
今回のご依頼で描いた絵の中で一番気に入っています。
実は今まで具体的にどんなシーンを描いたのかは鶫さんにお伝えしていなかったのですが、ローゼルのお話を読んでびっくりしました。
出てくるんです、ローゼルが月光の下で剣を見つめる場面が。
伝わっていたんだ、とすごく感動しました。
ちなみに今回ローゼルのお話を読んで驚き、というか新たな発見だったのが「未だに寝るとき以外は鎧を身につけている」という事実。
私はてっきり王配になった瞬間から訓練のとき以外は鎧は外しているのだと思っていましたよ。
エリカ
そして第13話の挿絵として登場したのがエリカ。
水の豊かなエルアグア地方に住むワイ族の族長。
今まで『物語の欠片』では二回大きく舞台になっている土地ですが、エリカが俄然本性をさらけ出したのはシリーズの八つ目のお話『青碧の泉篇』。
その序章のような感じでカリンとのやり取りがその二つ前のお話『天色の風篇』に登場し、「この人、怖い」との印象が強くなりました。
私が他者の人格に対して「怖い」と思う時はだいたい二種に分けられます。
一つはマッチョでブイブイ腕力に物言わせてくるタイプ。これは物理的に身を守るための本能が反応して「怖い」と思うのでしょう。分かりやすいですね。
もう一つは、口調も強くて何でもこなせて自分に自信があって、要領よくできないヤツに対して理解のないタイプ。その上本心は隠してて外見がキレッキレの美人だったら私は恐れおののいて逃げ出すでしょう。
…『物語の欠片』の愛読者の皆様、いかがです?
これ、エリカじゃありません?
おかしなことに、「描く」となると私にとってこのタイプ、すごく描きやすいんです。
鶫さんに「ぜひこの作風で」と言っていただいた私の水彩画、普段は性別も国籍も年齢も排除した作品を意識しているため、どうしても感情の読み取れない表情に仕上がります。
ですから内側に何を隠しているのか分からない美人エリカは私の格好のモチーフで、鶫さんにも真っ先に「エリカは描けます」と宣言していました。
スグリの裏話をしたときに「最初に取りかかったキャラクター」と言っていたのがまさにこのエリカ。
あれ?失敗してやり直したんじゃなかったっけ?
そうなんです。
なぜか「描ける」と思ったキャラにことごとく裏切られております。
エリカの一枚目は何だかイヂワルな年増女みたいになっちゃって「こんなの、鶫さんに見せられない!」と破棄。
やり直したもう一枚も、疲れた花魁のようになってしまい即行ゴミ箱へ。
気分を入れ替えるため推しキャラ・スグリをサクッと仕上げ、再度エリカに取りかかり仕上がったのが今回の絵です。
失敗の原因は色にもあったと思います。
彼女はもともと水の化身で水の豊かな土地に住むワイ族の族長。
そこで水、というか青を基本色にして最初の二枚を描いたのですが、どうもうまくいかない。
三枚目を描き始める前に目をつぶって、もう一度自分の中のエリカを観察してみました。
そういえば、彼女は私の中でいつも緑のドレスを着ている。緑はカリンに取っておきたかったけど、ここで使ってみるか、とエリカの色合いがやっと決定した、という流れがありました。
今回鶫さんがエリカ視点でお話を書かれ、彼女の印象がにわかに変わりました。
今まで「国王に横恋慕し、自らの夫をないがしろにした残酷な人」というイメージが濃かったのですが、彼女には彼女なりの夫への思いがあったのだなぁ、と。
でもやっぱり私にとってエリカは「怖い人」なんですけどね。
カリンがエリカに黒い胸の内を聞かされ泣き出した時、エリカが「貴女にはきっと理解できないでしょうね。ふふ。泣くことはないじゃない」って言い放つシーンがすごい名場面として、未だに私の中に刻み込まれているのですよ。
ね、怖いでしょ?このお方。
以上、『物語の欠片』のカケラの裏話第二弾でした。
引き続き、鶫さんの物語に私の絵が登場しましたら裏話のほうも続けていきたいと思います。
物語の絵を描くまでの経緯や画材のお話はこちら↓