Hahnemühleと、戯れた。
本記事は昨年九月に投稿したこちらの記事の
結果報告のようなもの。
これは!と思った紙のご報告のほか、水彩紙に関するあれやこれやを綴ってみようと思います。言及しておきたい紙は作品と共にご紹介しますが、ほとんどの作品は連載小説と共にnoteに掲載済みのものです。
ご興味を持たれた方に目を通していただければ幸いです。
これは!と思った紙
簡単に九月の記事をおさらいしておきますと、お気に入りのドイツの紙の製造元Hahnemühle(普段は主にMixed Media用のBambooを愛用)がWatercolour Selectionと銘打って自社の様々な水彩紙を一枚ずつ、全部で14枚の紙のサンプルセットを売っているのを偶然発見、17 x 24 cmのサイズのものを購入して順に試してみることにしました、という内容でした。
先日最後の一枚まで試してみましたが、絵自体が良くない、もしくは紙との相性が良くなかった、といった理由で14枚全部はスキャンしていません。
この項目では「良かった・感動した紙」をご紹介したいと思います。
このセットで最初に心動かされたのは七枚目に入っていたHarmony 300gm2 (cold pressed)。
とは言え、「Bambooと似た使い方ができるかもな」という感覚で、次に試した同じHarmonyのroughは
色の入れ抜きにどこまでも耐えてくれ、更に背景を塗り込んだ時に出てきたテクスチャに大満足でした。
お次は、このお試しセットで一番「今までに体験したことのない感覚」を味わわせてくれたExpression 300gm2 (cold pressed)。
小説の挿絵で登場させた時も言及したのですが、絵の具が紙に「吸いつく」感触があります。Bambooなどと違って一度乾いてしまうと抜きは効かないのですが、逆に「乾かないうちに滲みを表現しておこう」という発想に繋がり、今までの作品とは全体的に違った印象の作品ができそう、と期待できる紙です。
この項で最後にご紹介するのはnote初登場の絵です。印刷用の新年ご挨拶画として制作しました。
この紙はTorchon 275gm2。お試しセットの13枚目に入っていて、こちらは試してみる前からかなり期待していた紙です。
というのも、具体的にどちらのブランドから発売されているものなのかは分かりませんが、画風は好みではないものの色の乗せ方が良いなあと思っているイラストレーターさんがTorchonを使ってらっしゃると目にしたから。
最終的に、この紙に一番感動したのではないかと思います。
ちなみにtorchonはフランス語で雑巾とか布巾とかいった意味だそう。表面加工のゴワツキがたまりません。ふふ。
Hot Pressed問題
ここまで何の解説もなくcold pressedだ、roughだ、と書いてきましたが、「何のこっちゃ?」という方もいらっしゃるかと思いますので、簡単に解説してみます。
水彩用紙で同じ商品名で同じ厚さ(gm2)なのにhot pressed, cold pressed, roughと更に種類が枝分かれしているのは、製造工程の違いにより表面のテクスチャが異なっていることを指しています。
Hot pressedは熱い金属ローラーで製造され、表面が滑らかな紙。
Cold pressedは冷たい金属ローラーで製造され、表面が粗い紙。
Roughはフェルトで押さえて製造されるためcold pressedよりも更に表面が粗い紙。
今回のセットでもHarmonyとBritanniaはこの三種がすべて揃っていました。
しかし前項の感動した紙に、hot pressedが一切含まれていないことにお気付きでしょうか。
その理由は、特にBambooを愛用し始めてから、表面加工が滑らかな高品質水彩紙を使う意味合いを見出せなくなっていて、敬遠している存在だから。Hot pressedほど滑らかだと、絵の具の引っ掛かりがなく「流れてしまう」感覚に陥ります。そして、こんなに表面が滑らかならイラスト用のBristolなどを使っても同じではないかと思ってしまうのです(私もBristolは主にペン画や、ペンと水彩を併用するマンガ・イラストに使っています)。
Hot pressedは私には不要だ、という思い込みからか、案の定Harmonyのhot pressedは「?」な絵が仕上がりました。
もう一つの三種揃ってサンプルが入っていたBritanniaシリーズは、実はcold pressedだけ何年か前に購入したことがあり、noteでお披露目したものの中では橘鶫さんの大長篇『物語の欠片』のエンジュのイメージ画(2022)に使用しています。
今回のお試しセットのBritannia cold pressedは桃負荷に使用しました。
同じ紙のcold pressedが良いものだということは認識しているのだから、hot pressedに嫌な顔をするのもおかしいだろう、とBritanniaのhot pressedは素直な気持ちで……ニシコクマルガラスを描きました。
描き味は、やはり全然違いますね。色が留まってくれない感じなのですが、それでも乗せていく、そして不自然に筆跡が残らないよう努めるとこのような絵になるようです。
これから先も自発的にhot pressedを買うことはないとは思いますが、この一枚は気に入っています。
g/㎡問題
冒頭に埋め込んだ九月の記事の扉絵を飾ったのはThe Collection Watercolour mould-made (rough)という紙なのですが、640gm2あります(㎡の「2」があまりに小さくて見えないかも?と心配で、記事内では「g/㎡」の代わりに「gm2」と表記しています)。九月にも書きましたが、ここまでくると本当に感覚は「まるで板!」です。
このお試しセットの最後にはCornwall (cold pressed)という紙が入っていましたが、これがこのセットで二番目に厚い紙で、450gm2。
その紙に描いてみたのがこちらです。
これ、実は正真正銘のファンアートだったりするのですが、分かります?
……いや、分かんないよ、クイズにもなんねえや。
えっとこちら、やはり鶫さんの『物語の欠片』のアイリスにインスピレーションを得て描いたものなのです。既に落書きでも描いて本描きも番外篇で使っていただいているというのに、しつこくアイリス。だって好きなんだもん。
で、このCornwall、なかなかに良い印象の紙なのですが、これから自分で使っていくかっていうと、ちょっと躊躇してしまいます。なぜって、あまりに厚いから。私は普段から描きたいと思う絵の大きさよりも大きく紙を用意しておいて、完成してから絵の座り具合に合わせて四辺を裁断しています。450gm2などという厚い紙を私の裁断機は素直に切り落としてくれるだろうか、と不安になってしまうのです。
これから何を使っていくの?
先日、Hahnemühleなどのドイツの画材をチェコに一番手広く卸している会社に勤めている方とお会いする機会があり、迷うことなくCafé Clementinaにご案内したのですが(私だってそのくらいの図々しさはあります笑)、私の絵を見ながらどんな紙を使っているのかと聞かれるので「主にHahnemühleのBambooです」と答えたら「そんな安物を?」と反応され……のけぞりました。え、だってHahnemühleの商品だっていうだけで高級品の部類じゃないですか。高ければ高いほどいいというものでもなし。その方も即座に「ご自分に合っているのなら」とおっしゃいましたが、今回Watercolour Selectionを一通り試してみて、Bambooの使用を完全にストップして他を使いたいか、と自問してみても答えは否。
今家にBambooのストックがまだまだある、ということもありますが、当面は今回出会って感動した紙と併用でいきたいと思っています。今回いいなと思った紙もこれから使い続けたらまた新たな発見があるでしょうし、Bambooでできていた表現が再現できないことを不満に思うことがあるかもしれません。
今回のお試しセットは17 x 24 cmとミニサイズだったこともあり、大きい作品を描きたいときはBambooや他の紙を使っていたため、全種通るのに約半年かかりましたが、収穫の多い経験でした。
案の定簡潔な記事にはなりませんでしたが、最後までお付き合いくださった皆様、ありがとうございました。