『アメリカとは何か 自画像と世界観をめぐる相剋』 渡辺靖[著]
アメリカ大統領選挙の投票日11月5日がまさに目前に迫って来ました。
トランプ氏の再登板となるか、はたまたハリス氏がそれを阻むのか。
世界的な選挙イヤーの取りの一番を前に、積読中だったアメリカ関連本、渡辺靖『アメリカとは何か 自画像と世界観をめぐる相剋』(岩波新書 2022年)を読む。
抽象的なアメリカ論を思わせるタイトルですが、トランプ以降のアメリカの政治的状況について概説した本です。
著者の渡辺靖氏は、『リバタリアニズム』(中公新書 2019年)や『白人ナショナリズム』(中公新書 2020年)など、アメリカの現在について複数の本を書いています。
アメリカ全体を俯瞰して概説した著作もあり、『アメリカン・デモクラシーの逆説』(岩波新書 2010年)ではオバマ政権登場までを扱い、『アメリカのジレンマ』(NHK出版 2015年)ではオバマ時代を取り上げました。(アメリカの日本観にも一章が割かれている)
(いずれも好著で、21世紀のアメリカを理解するには一度目を通しておいて損はないと思います。
後者は、(2024年11月4日現在)kindle unlimited の対象にもなっているので、気になった方はこちらで様子を見てみるのもいいかと思います)
今回読んだ『アメリカとは何か』は、これらの続編にあたり、トランプ登場以降のアメリカ全体を概観した本になっています。
2022年8月の出版で、ウクライナ侵攻も内容には折り込まれ済み。
イスラエル非難の潮流を除けば、2024年11月現在でも過不足なく通用する内容ではないかと思われます。
本書は、アメリカの国内政治を扱った第1章と第2章、国際政治や外交を扱った第3章と第4章、今後のありうる展望を取り上げた第5章の、全5章で構成されています。
第1章ではアメリカの政治対立軸、党派の構図を歴史的にたどり、現在それがどうなっているかを概観。
第2章では、コロナ対応、キャンセルカルチャー、ブラックライブズマターなど、具体的な例を取り上げています。
そして、第1章で整理した国内の各党派が、これらの問題に対してどのような立場を取ったかを解説しています。
第3章では、アメリカの国際政治での立ち位置、外交方針の歴史、近年の動向を概観。
第4章では、第1章で整理した各党派が、国際政治の現状やアメリカのあるべき立ち位置についてどう考えているかを説明していきます。
第5章は、今後の展望について、楽観的なものから悲観的なものまで、いくつか考えられるシナリオを述べています。
各シナリオは、人口動態や世代的な政治嗜好の変化、近年のテクノロジーの発展による影響、過去の類似政治状況からの類推などを考慮したものになっていました。
本書の(特に第1章の)解説はとてもスッキリしていて、今後アメリカ関連のニュースを見る際にも役に立ちそうで勉強になりました。
基本となる分類は、アメリカのリバタリアン党創設者の用いた「ノーラン・チャート」を流用しています。
しかし、アメリカの具体的な党派、その歴史的推移とからめると、ここまで状況の見通しがよくなるのかと思えました。
今回の新書を過去作の『アメリカン・デモクラシーの逆説』や『アメリカのジレンマ』でのアメリカ政治の構図と読み比べると、ここ十数年でもかなり状況が変わっていることがわかります。
比較して読むと、かなり読み応えがありました。
(トランプ支持層をペイリオコンに分類するのはいいとしても、トランプ自身はそんな枠に収まらずそれ以上に好き勝手しそうなイメージはありますが……)
しかし、ネオコンやネオリベも、政治勢力としてはだいぶ後退してるんですね…
私が大学の教養科目で学んでいた時代からすると、隔世の感があります…
『アメリカとは何か』での党派分類の元となった「ノーラン・チャート」については、大田比路『政治的に無価値なキミたちへ』が丸ごと1冊を使って、具体的に説明しています。
具体的な複数の政治的イシューへの賛否を自分で選ぶことで、ノーラン・チャートによる分類のどこに自分の(無意識の)政治的立場があるのか、無理矢理に位置づけ自覚させようとする、啓蒙的と言えば啓蒙的な怪書です。
「フツー」で「政治と無関係な」自分が、社会の問題にどのような嗜好を持っているか、つまり「政治的な」自分を自覚することからまず始めようというわけです。
『政治的に無価値なキミたちへ』は、もともと大学の政治学入門講義の内容を書籍化したもので、ほぼ同じ内容の、講義コンテンツ版(電子書籍のみ)と書籍版の2種類が存在します。
講義コンテンツ版の方は、ずっとkindle unlimited の対象になっているようなので、気になった方はこちらで試してみるといいかと思います。
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