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夜桜
君は素顔を見せないままで行ってしまった
残る香りが見せる夢で あの日のままの君が笑った
もう一度君に会えるなら
その時は 本当の君に会えるだろうか
夜桜を見に誘ったあの日
白く舞う花びらの中でつぶやく君
聞き逃した僕は目を伏せたその横顔に
聞き直すことができなかった
でも それは きっと 逃してはいけなかった言葉
でも それは きっと 君が見せた素顔の欠片
その笑顔は少し淋しげで 僕の胸を締め付けた
僕らを結ぶものは何だったんだろう
その白い花びらに触れて 君想う
君を失いまた独り
それでも生きなくちゃいけないなんて苦しいね
あの日の君へ送る言葉
今もなんていうべきかわからないけど
でも これは きっと 君への償い 僕への罰
でも これは きっと 僕が果たせる君への想い
あの時の目は凛としていて物悲しく
僕の鼓動を早くさせる
僕らの関係はなんて儚いんだろう
その澄んだ涙に触れて 君想う
伝えたいことはありすぎるほどあるのに
言葉にならないまま何も紡ぐことができないまま
伝えるべきことを見失っていく
この身が枯れるまで咲き乱れる春の色
実をつけることもないままに幾年も繰り返す
忘れることもできないで いつまでも同じ景色に夢を見る
でも あれは きっと 断ち切れない未練の色
でも あれは きっと 僕を縛る自分への呪い
繋いでいた指先は解かれていて 温もりさえ思い出せない
僕らの時間はもうないのだろう
淡い光の中 まだ冷たい夜の空気が香る
君は同じ色のワンピースをはためかせ 微笑んだ またね
今年もまた 白く舞う桜の中に君を幻(み)る