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透明

君はよく泣くね 静かに涙を流すときも
息ができないほど苦しそうに泣くときも
いつも命を燃やすように 全身がすごく熱くなる
君は気づいているだろうか
何がそんなに哀しいの? 何がそんなに苦しいの?
君は何に囚われているの? 君は何に怯えているの?
僕はこんなに近くにいるのに 君の瞳は透明で何も映っていない
その瞳の奥には出口のない籠と永遠に続く闇が浮かんでいた

君は籠から出ようとしていたんだね
きれいな羽をぼろぼろに傷つけてまで 白い手足を血に染めてまで
君は闇に飲まれる恐怖と戦っていたんだね
声すらも出なくなるまで 命を削ってまで
ねえ 僕なら籠から出してあげられるよ
闇を追い払ってあげられるよ
だからもう自分を傷付けないで だからもう怯えないで
君の瞳に初めて僕が映った時 僕は初めて透明でない君の瞳を見た
それは驚いたような 戸惑ったような
希望のような 絶望のような
様々な色を含んだものだった

傷付けるって何? 君の初めての言葉 君の手足を見てごらん
怯えるって何? その次の言葉 怯えながら言われてもなぁ
僕は君の手をそっと引いた
君は手を引かれるまま ふらふらと歩きだした
もう籠なんか見えていないというように
今 君の瞳は何色なんだろう 君は何を想っているのだろう
今 君の瞳に僕はどんなふうに映っているのだろう
もう哀しくないだろうか もう苦しくないだろうか
もう自由になれたのだろうか 幸せだと感じられるだろうか
まだわからないけど
近くにいる僕が君の瞳に映ったことだけは確かだった
今はそれで充分だね
君の傷が癒えるまで もう泣かないでよくなるまで
君の手を引いて歩き続けよう

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