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Monthly Mu & New Caledonia『Prologos』レビュー。明るいフィーリングを投げかける1st EP

Monthly Mu & New Caledoniaの『Prologos』をレビュー。※このレビューはDIGLE MAGAZINEに2020.12.05掲載されたものです。

Writer:黒田隆太朗
平成元年生まれ、千葉県出身。ライター/編集。MUSICA編集部→DIGLE編集部。

 軽やかなステップで歩き出すようなバースと、閃きを信じて駆け出すようなテンポのブリッジ、そしてパッと視界が開けるコーラス。そこで歌われる<先の見えない未来はきっと素晴らしい世界だ>という歌詞と、泣きはらした後に見る朝陽のような光を感じる音色…冒頭曲「おどけて」は、その言葉と音で穏やかなバイブスを投げかける。不安が蔓延する時代にMonthly Mu & New Caledoniaは、明るいフィーリングをシェアしようとしているのだろう。彼らの1st EP『Prologos』のテーマは、「混沌に侵食される日々や人たちに対してのアンセム・賛美歌」。この音楽は間違いなく、他者と未来を希求している。

 荒い感触を残してミックスされたシングル群に比べると、丸みや柔らかさを感じる音でまとめられている。恐らく、初めてエンジニアを招いたという経緯も、本作のサウンド・デザインには関係しているはず。これまで5人の力だけですべての制作過程をこなしてきた彼らが、次なるステップとして外部の声を取り入れたのは想像に難くない。無論サウンドの質感は、本作のテーマを念頭に置いたものでもあるのだろう。4者4様のカラーを持った楽曲が、共通のビジョンの元に結びつけられたような作品だ。

 「おどけて」はトラップのアイデアも盛り込んだサウンドで、いくつもの場面展開が行われる。つまり、ストーリーのある1曲である。移り変わっていく展開は、変わっていく未来を期待するものだろう。見えずとも前へ、嘘でも前へ、彼らのそんな思いが爽やかな音に乗って迫ってくる。2曲目の「U&F」はスタジオでジャムる5人の姿が思い浮かぶ、楽器の応酬を楽しむ1曲である。いわば彼らの雑食性を象徴する楽曲で、煌めくミラーボールの下で踊るようなアレンジには、失われた時と来るべき明日を想起させられるだろう。

 「台風が去った夜に」に見られる熱と湿り気は、このバンドの大事な魅力である。「Jamaica」で確信したが、Monthly Mu & New Caledoniaにはロックが良く似合う。それはきっと門口夢大(Vo)の声質によるところが大きく、声を荒げる事はないが内側で焔が燃えているような、そんなボーカリストだと思う。<大事なものに気づいた頃には 大抵失っているよな>、<何もできないと気づいた時には 前を向くしかないよな>というリリックからは、彼が抱える期待と後悔、飢えと憂いが透けて見える。

 最後の1曲「Pawn Fawn」は武亮介(Dr)の叩く平熱のスネアが気持ち良い、緩やかなナンバーである。抒情的なギターと、沈む夕日を思わせるベースに誘われて、ゆったりとした風景が浮かんでくる。一人の時間の静けさを感じさせる楽曲で、<光ってる景色に変わったんだ 夢じゃないよ>というフレーズに癒されるだろう。

 彼らに初めて取材した時、鈴木龍行(G)はこんなことを言っていた。「いいことがあったり、頑張らなきゃいけない時、その後ろで僕達の音楽が流れてくれたら素敵だなって思う」と。つまるところ、本作が果たそうとしている役割もこれに尽きるのではないだろうか。明日が不透明な時代に、ちょっとだけ景色が変わるような歌を届けること、それがこのEPに込められたメッセージなんだと思う。

 誠実だが、抜けもある。「肩の力抜いていいぜ」と、飾らない笑顔で伝えるような音楽だ。それは若さを残して大人になっていった、彼らならではの表現なのかもしれない。無力感にさいなまれた2020年、彼らはこんなにさり気ない音楽で語りかけてきた。

掲載元:DIGLE MAGAZINE
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【Monthly Mu & New Caledonia】                  2019年に結成した5ピースバンド。
インターネットで知り合い、
顔合わせのジャムで意気投合して、
その日に結成。
ジャンルや音楽性などの、
決めつけられた「括り」は、
彼らの中には存在しない。
あらゆる音楽を同線上で食らっていく、
軽やかな音楽旅行。
それが『Monthly Mu & New Caledonia』。


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