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栄養士の母親と妹からアイデアを着想した "Food as Medicine" サービス! “Fay” のシリーズA資金調達【5/15発表: 米国デジタルヘルスニュース】

今のところ毎週投稿している、米国デジタルヘルススタートアップの資金調達ニュースですが、前回は健康格差の解消を目指す“Soda Health” のシリーズA-II 資金調達のニュースをご紹介しました。

今回ご紹介する米国スタートアップ "Fay"は、栄養士、患者さん、保険会社を繋げて健康問題の解決を試みるソフトウェアプラットフォームの提供を行っています。このサービスを通じて、米国における"Food as Medicine"の推進をしています。

Fayのウェブサイトのトップ画面

CEOのSammy Faycurry(以下、Sam氏)の母親と妹(または姉。"sister"とだけ記載があったので詳細不明)はRegistered Dietitian(以下、栄養士)だそうです。彼は、日々彼女たちから、多くのアメリカ人の食生活がいかに悪いか、そして栄養士として栄養指導を行う際の苦労について長年聞いていたそうです。

そんなSam氏は、ハーバード・ビジネス・スクールのMBAの学生だった2021年に同社を設立しました。その後しばらくして、Mark氏をCTOに迎えます。そして、この二人でSam氏の母親と妹のために、まずはプロダクト開発を行ったのだそうです。

右がCEOのSammy Faycurryさん、左がCTOのMark Stefanskiさん。爽やかですね。
出典:テッククランチのニュース記事

今回の資金調達はシリーズAラウンドに相当し、$20Mの資金調達を行いました。このラウンドでは米国有力VCでもあるForerunner VenturesやGeneral Catalystが参加しています。また、このシリーズAの資金調達のアナウンスを出すまでは同社はステルスモードで事業を運営しておりました。

また、前回ラウンドの2022年のシードラウンドでは、今回ラウンドでも出資をしているGeneral Catalystが出資($5M)しており、2ラウンド継続して同社をサポ―トしていることはポジティブなシグナルの一つかと思います。



About "Fay"

:米国
創立年:2021年
資金調達ラウンド:シリーズA
主な投資家:Forerunner VenturesやGeneral Catalyst
総調達金額:約 $25M
サービス:栄養士、患者さん、民間保険会社を繋げて、バーチャルまたは対面式の栄養指導の実施を推進するサービス
事業モデル:B2B2C - 民間保険会社、雇用主を介して個人にサービスを届けるモデル

米国における栄養指導の課題

米国の成人の半数以上が不健康な食生活に関連した慢性疾患(糖尿病、高血圧、心疾患など)に苦しんでいると言われています。

また、栄養指導の介入の必要性が広く認識されているにもかかわらず、多くの民間健康保険ではそのネットワーク内の栄養士の数が不足しており、この不足が要因で、患者さんが必要な栄養指導を受ける機会を減らしてしまっています。

また、この栄養士の数だけではなく、栄養指導が保険でかばーされるという認知度の低さも問題です。多くの民間健康保険のプランでは栄養指導をカバーしており、患者の自己負担費用はほとんどない場合が多いのです。例えば、保険のカバー範囲外の場合、栄養士との相談には1回150ドル程度かかることがあります。ですが、保険があれば多くの場合、自己負担はありません。しかし、この保険はほとんど利用されていません。この利用率の低さの原因は、特定の診断を受けることや医師の紹介が必要だという誤解が影響しているようです。

これら課題解決を行おうとしているのが同社サービスです。

サービス概要

主にプロダクトは患者さん向けと栄養士向けの二つがあります。

まずは患者さん向けから見ていきましょう。

同社の提携している栄養士の数は1,000名を超えています。この数は、今回調達した資金で2025年までに2,000名まで増やす目標を、同社は掲げています。

栄養士は自ら採用するのではなく、フランチャイズビジネス的に個々の栄養士の方の個人事業を支援するという位置づけで栄養士と提携しています。この栄養士の方々が提供する栄養指導の専門分野は30を超えています。例えば、摂食障害、糖尿病、腎臓病、体重管理、拒食症、アレルギー、消化器疾患に特化した栄養指導です。

また、これらサービスは、チャットやビデオ電話でのバーチャルケア形式と従来型の対面形式の両方で提供されています。なお、栄養指導のサービス内容は、食事・献立の計画のサポート、患者さんがかかっている他の医療従事者との連携支援、そして食事配達サービス(近日リリース予定)などです。

サービスの一部

一方、栄養士向けのサービスとしては、AI等のテクノロジーを駆使して、新規患者の獲得のためのマーケティング支援や保険会社への保険請求作業などの煩雑な管理業務、を行います。これにより、栄養士が病院で個人事業主的に仕事をしている場合よりも、5-8倍の収入の増加が見込めるそうです。なお、栄養士は同社プラットフォームへの参加登録は無料です。

このビジネスモデルは、最近取り上げた他のメンタルヘルス系のスタートアップと非常に類似していることに気づいた方が、もしかしたらいらっしゃるかもしれません。

その会社とは、Grow Therapyです。詳細は以下の記事に記載したので割愛しますが、このGrow社が同社を支援しているとプレスリリースに記載がありました(支援の形の詳細は不明)。Grow社は同社よりも1-2年早く創業した会社であり、同社の12倍の12,000名のセラピストと提携中です。Grow社のラーニングを共有してもらいながら事業を加速化させられるのは非常に大きいアドバンテージですね。

なお、最後に民間保険会社が同社と提携する利点ですが、既に提供しているがあまり利用されていない栄養指導サービスを、同社のビジネスを通じて利用率を伸ばせること、その結果、被保険者さんの栄養状態・健康状態が改善されて医療費が削減できることを期待していると考えられます。

最近話題の肥満所治療薬(GLP-1)との組み合わせ

世界的にも大きなニュースになっており、日本でも2024年2月に販売開始となった肥満症治療薬(GLP-1)薬を多くの方が利用していくことが予想されています。

このトレンドは、より一層、栄養士のサポートの必要性が高まっていると同社は考えているそうです。実際、多くの医師は、薬と組み合わせた持続可能な生活習慣の改善をすることが有益であると考えています。このため、GLP-1を処方する際、患者に健康的な生活習慣を学んでもらうために栄養士の指導を受けるよう患者さんに伝える医師が増えているそうです。

興味深いことに、同社の患者さんの多くが、この奇跡の減量薬として注目されているこの薬剤を使用している方だそうです。同社によれば、この薬剤で減量に成功した患者さんは多くいるのは事実だが、食生活を十分に改善させず薬だけに頼って、毎食ベーコンを食べているために依然として高コレステロールの問題を抱えている患者さんもいる、と述べています。このように、薬だけではなく、適切な栄養指導が不可欠であることがわかります。

事業の現在地

同社は大手のAetna等を含む700を超える民間保険会社と提携中である上、GoogleやAccentureといった多くの従業員を抱える雇用主とも契約を既に締結済なのは驚くべき事業成長スピードですね。

多くの保険会社で同社サービスが保険の対象になる。しかも患者負担は0円になることが多い。

最後に

同社は、栄養指導の普及をミッションにビジネスを展開するスタートアップですが、他にも以前紹介したNourishなどと競合する形となります。

市場が非常に大きいこととやGLP-1の出現という大きな時流により、今後も類似企業が出てくるとは思いますが、これらスタートアップの出現により米国の医療環境が益々改善されることを願っています。

おしまい。

※このブログ記事は、個人的な趣味で書いているものであり、あくまでも情報シェアのみを目的としています。

参考記事・リンク


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