昔コンビニで、焼き鳥20本を一気に売った時の話
むかし某コンビニでアルバイトをしていた時期がありました。今となってはそのコンビニは統合され、もうこの世に名前はありません。話は10年ほど前に遡ります。
夜、会社勤めの人が家に帰り始める時間帯。コンビニに良くありがちな店内放送を聴きながら、いつも通り淡々とレジで接客をしていました。ふと顔を上げると、店内にある焼き鳥の垂れ幕を凝視しているクールな外見のお客様がいました。焼き鳥を注文したいのかなとぼんやりそのお客様を見ていると、笑顔で素早くレジに近づいてきました。そして思いもよらない一言が発せられました。
「焼き鳥を2本焼いてくれ、今それを食べて美味しかったら20本追加で注文したい」
その言葉を聞いた途端、私の頭が軽いパニックを起こすと同時に、これに勝算はあるのかと、不安になりました。
そもそもここは焼き鳥屋ではなく、コンビニエンスストア。本部の方が、一生懸命考えて、生み出してくれた焼き鳥とはいえ、炭火焼きではなく、ホットプレート焼き。そして料理に関して私は素人。救いと言えば、電子レンジで温めるだけの焼き鳥ではないこと。つまりただのコンビニの焼き鳥ではない。
ちなみに私の勤めていたコンビニの焼き鳥は、焼き鳥のタレと串に刺さった鶏肉が別々になっており、こんがりと鶏肉をホットプレートで焼いた後、タレを絡ませ出来上がる仕組み。そして鶏肉にはあらかじめ炭火で焼いたような匂いが付けられている。つまりお客様に提供するまで非常に手間がかかる商品。
いつもは面倒に思えていたこの手間。しかしこの手間のおかげで、頑張れば炭火で焼いた焼き鳥に匹敵するものができるかもしれない。そう思うと少しだけ光が見えてきた。心の中の不安を必死にかき消しながら、お客様の提案を笑顔で承諾しました。
まず私は、ホットプレートの温度を、鶏肉に軽く焦げ目が付く温度に設定。鶏肉の外側に適度な焦げ目をつけながら、中身の柔らかさは損なわないように真剣に鶏肉を焼きました。最後にタレを鶏肉に絡ませ、タレがホットプレートの上で少し蒸発し、焼き鳥の良い匂いがしてきた所でホットプレートの電源を切る。最後に食べやすいように袋で持ち手を包み、渾身のホットプレート焼きの焼き鳥をお客様へ。
お客様が焼き鳥を食べている間、私は心臓が口から飛び出さんばかりでした。
そして鶏肉がなくなった串を持ったまま、お客様が静かに、そして表情もクールなまま、
「20本追加で注文したい」
この言葉を聞いた時、肩の力が抜けたと同時に、ふと頭に浮かんだ事が。。。「今うちに20本も焼き鳥の在庫あったっけ?」
私は慌ててバックヤードに行き冷蔵庫をみると奇跡的に20本の焼き鳥の在庫が。安心して20本の焼き鳥を抱え、再びホットプレートの前に。
お客様へ焼き終わるまでしばらく時間がかかる旨を説明。レジ打ちは他のアルバイトの方に任せ、ひたすら焼き鳥を焼き続けました。無事20本の焼き鳥を渡し終えると、私の肩に乗っていた巨大な岩が取り払われたように、身体が楽になりました。
後日、本部の人やオーナーにこの話をすると、笑顔でうちの焼き鳥は美味しいんだと、商品に自信を持ってくれたのは良い思い出です。
コンビニのアルバイトをしていた時、不思議な出会いや、色々なドラマがあったような気がします。また機会があれば別のコンビニ話を書いてみたいと思います。
ここまで読んでいただいた方、ありがとうございました。
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