エビデンスに基づいた重度障害をもつ子ども達との関わり方って?ー生理心理学の視点からー
2022年10月21日、信州大学の宮地准教授をゲストに迎えデジリハセミナーを開催しました!今回はその様子を一部レポートとしてお届けいたします。
生理心理学の視点から人の関わりと活動を評価する
今回のテーマで、宮地先生の専門である「生理心理学」。実際にどんなことがわかるのか?まずは宮地先生の過去の研究結果をご紹介します。
麻雀という同一の遊びを、対面・オンライン対戦・コンピューターと対戦という3種の環境で実施した際に、心理的な変化を反映する心拍変動が環境により大きく異なったとのこと。対面でプレイした際の心拍数はコンピューター対戦と比べて明らかに心拍数が高く、同じ遊びであっても人との関わりが与える影響が大きいことが示唆されています。
重度障害をもつ子ども達に必要な刺激とは?
では実際に重度障害をもつ子ども達に必要な「関わり」「刺激」とはどういったものなのでしょうか?宮地先生は反応を”育てる”という視点が重要だと指摘しています。
一般的に子どもは身体機能の発達に伴い刺激に対する過敏性が低下するなど、脳の機能全般も発達していきます。一方重度障害をもつ子ども達の場合は発達が不十分なことにより表出が少なくなりやすく、結果として周囲から「この子は見えていない、わかっていない」と思われるというループが生じやすい状態です。
上記を踏まえ、子ども達の反応を見出す以上に、引き出す・育てるという視点での関わりが必要になります。
子ども目線の関わりで反応を育てるために
刺激に対する反応と心拍変動についてご紹介します。
上の図にあるように、人間は刺激に対し3段階の反応をするとされています。
びっくり!(驚愕・防御反射)
おやなんだ?(定位反射、受動注意)
予期・期待(能動注意)
上記それぞれの刺激に対して、心拍は異なる変化を見せます。驚愕刺激の場合には、心拍数が多くなり、おやなんだ?と注意を静かに向ける際には心拍数が低下。さらにワクワクと次の反応を待つ際には心拍数が上がるというパターンです。
事例の紹介
心拍変動を使って実際に刺激と反応を評価した事例を紹介しながら、より理解を深めていきましょう。下図のAさんは、検査結果上も、また周囲の支援職からも「見えていない」と判断されていました。
(※セミナー内では動画を見ながら説明がありましたが、個人情報の保護のため割愛しております)
そこで、前述した一過性心拍変動を測定することで、Aさんの刺激に対する反応を評価してみた結果が以下の図で示されています。
視覚刺激を提示した際の結果を見ると、一貫して刺激後に心拍数が減少していることがわかります。ここから、Aさんが視覚刺激に反応している≒見えている、と評価できます。
一方で、聴覚刺激については声掛け後に心拍数が増加しており、その後の活動を予期していることが伺えます。このことから、Aさんは視覚刺激・聴覚刺激双方を感じていつつ、視覚刺激への理解が不十分であると考察できます。
上記の評価結果を担当の先生へ伝達し、2年後に再評価をした結果が以下です。
「見えているんだ」という情報を得た先生方の関わり方に変化が生じていることがわかります。今までは声掛け(聴覚刺激)を重視した関わりだったところ、物を提示する、視覚刺激を利用した関わりが増加しています。それに伴いAさんの視覚刺激に対する心拍変動も変化し、その後におこる活動を予期していることがわかります。
日々の関わり方が少し変わるだけで、重度障害をもつ子ども達の反応も応じて変化していきます。「大人が見せる、聴かせる」という視点から「本人が見えているかな?聴こえているかな?」と注意しながら刺激を提示することの重要性がここからわかります。
関わりの際に気を付けるポイント
重度障害をもつ子ども達の場合は、刺激の長さや間といった条件の違いで、認識できる精度が変わるということがわかってきています。
短い間で関わる場合と比較し、長い間(1呼吸分)を空けて関わる場合には明らかな心拍変動が生じることがわかります。短い間隔で異なる刺激を次々に提示してしまうと、子ども達が処理を仕切れない可能性が高いことがここからわかります。
提示する刺激の種類だけでなく、タイミング・間隔も重視しながら関わることが重要といえます。
宮地先生にあれこれ聞いてみた!
ここからはセミナー内で司会のデジリハスタッフ・タコスや参加者の方から宮地先生に行った質疑応答を抜粋してお届けします。
日常的にどういった点を観察するのが良い?
まず、障害が重度で随意的な運動が見られない場合には、不随意運動でも運動が発生しているか?が大切です。まずは動きの有無を丁寧に見つけ、長期的に随意運動に繋げていくよう関わっていきましょう。
前述した定位反射、つまり「おや、なんだ?」という反応が出るときには心拍が遅くなります。これは、運動等も抑制される状態です。そこで、「新たな動きが出現するか」だけでなく、今まで出ていた動きが止まるかどうか、というのも重要な情報として観察してください。そのためには、ずっと刺激を与え続ける(声をかけ続ける等)のではなく、刺激と刺激の間に何も刺激を与えない「間」を作ることが大切です。
重度障害をもつ子ども達への声掛け方法・関わりのコツは?
アセスメント視点で関わることが大切です。例えば単語数や声掛けの時間を意識して行い、その後間を置き反応の違いを見る等ですね。試行錯誤をしすぎないことが重要です。重度障害をもつ子ども達は新しい刺激は受け入れきれず防御反射が出ることが多いため、試行錯誤を繰り返し新しい刺激を与え続けると、いつまでも刺激になれず反応出来ないということが起きてしまいます。しばらく同じ刺激・声掛けを続けてみて、反応の変化を見ていってください。1回で無理と判断しないことですね。
また、脳の易刺激性が高い方が多いので、見る・聞くという情報を一度に処理しきれないこともあります。アセスメントの際には刺激を1種類ずつ順番に示す等して、反応をしっかり評価してみてください。
宮地先生との共同研究を実施中!
デジリハは、重度障害をもつ子ども達により効果のあるアプリ開発のため、宮地先生と共同研究を実施しています。
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