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地方の構造エンジニアの自邸建築日記⑦


またもや4か月も空いてしまいました。自邸の実施設計はほぼほぼ終盤を迎え,着工まであと一押しといったところです。

見積調整と建て方計画

現在,見積用の図面(構造に関しては殆ど実施レベルの図面)を書き終えて,概算見積もりがあがってきたところです。特殊な建物ですから,工務店に相見積もりをとってという感じではありません。この建築は1社特命で設計施工二人三脚で作り上げていくべき。施工に関しては,元請けは以前構造設計させていただいたVOXEL APARTMENT(意匠設計:藤村龍至/RFA)

などでお世話になった河井建設工業(株)にお願いすることにし,木工事については(有)アルフに入っていただくことになりました。設計も施工もALL広島のドリームチームです。

設計施工合同打ち合わせの様子

作成した見積図を基に,設計施工一体で打ち合わせを重ねていますが,木造のレシプロカル構造部分の作り方について,設計と施工の想定が異なる部分がありました。設計側の意図としては,まず大前提として

  • 3.5寸(105角)の広島県産材のみを使用したレシプロカルトラスとする

  • 鉄骨トラスと絡む箇所以外の全ての接合部はボルトとビスだけで構成することで金物のコストを節約

  • クレーンも横付けできるほど十分広い前面道路があるのを生かし,レシプロカルトラスはユニットごとに地組みしたものをクレーンで吊り上げて施工することで施工手間を短縮

といったところを工夫していて,ユニットごとに落とし込み施工ができるように鉛直材を2重構造にしたりだとか,繊維方向に確実に力が伝達できるように斜材は90角の2本束ねとしていたりだとか,とにかく大工の手による在来軸組工法の延長でつくれるように意識した設計としていました。

レシプロトラスの詳細図群の一例

詳細図もガシガシ書いていたのですが,設計施工打ち合わせにおいて,

  • 全部がけ地に総足場で支保工も組みながら上から1段ずつ組んでいくつもり

  • その前提なら,金物代はかかるけど全て鋼板挿入ドリフトピン接合でやってもらったほうが現場が楽なので手間賃入れたら逆転すると思うからそっちにしたい

といった意見が出てきてしまい,ちょっと待ってくれ~~となりました。確かにその方法なら確実につくれるんだけど,あの高低差のがけ地に総足場+支保工って恐ろしい値段がかかりそうだし,せっかくビスとボルトだけでいかにしてトラスを組むかを考えたのに金物だらけにしてしまうのは抵抗がありました。汎用性の高い手法ではあるけれど,何もこの崖地でやる必要はないし,レシプロカル構造で組んでいるメリットもなくなってしまう。
構造家のエゴと言われてしまえばそれまでなんですが,やはりこちらとしてはこのがけ地+レシプロトラスだからこそのつくりかたでつくりたい。
自身の座右の銘の一つでもある,故・川口衛先生の言葉
「構造計算は、仕事のごく一部であり、つくり方をデザインするのがエンジニアの本分。そこに立てば、この仕事は、最高に面白い」
が脳裏に浮かびました。
施工者に,この木材はレシプロカル構造と呼ばれる特殊な繰り返し構造によってできており,ユニット単位で落とし込み施工が可能となるようにディテールが工夫されていることを力説しました。

盛り上がる打ち合わせ。気づけば卓上には図面の切れ端で作ったレシプロ構造が・・・

施工者としては,ユニットで組むということはハナから頭になかった様子で,そういうつくりかたも可能性がありそうだから再度検討してみるとの返答を引き出せました。私の頭の中では,まず鉄骨トラスを架けて,それを頼りにレシプロトラスを鉄骨と絡む部分は1構面単位,そうでない個所については4構面単位で落とし込んでいくことでじわじわと片持たせてあげれば(足場はさすがに必要かもしれないけれど少なくとも)支保工はゼロで行けるだろうという確信がありました。実際1ステップごとに建て方時の構造解析を行うことで十分な安全性を実証できました。
ただ,口で説明しても施工者にはなかなか伝わりづらい部分がありますので,施工順序を可視化した動画を作成しました。

概算見積もりは7700万円ほどで出てきているのですが,この金額はあくまで上限で,もろもろ安全と余裕をみた数値とのこと。
上記の建て方の工夫や,その他もろもろのVEをかければ,なんとか6000万程度までは落とせそうなので,あと一息といったところです。
まあ…最初は4000万で建てようと思っていたんですが…
昨今の異常な物価高でそれはきっぱり諦めて,何とか住宅ローンを引っ張ってこれるギリギリの額まで頑張ることにしました(向こう30年働き虫になりますw)。ただまあ,6000万と言っても,土地はほとんどタダみたいなものです。隣の敷地は200平米で4630万円といったオーダーで売りに出されていることを考えれば,十分投資する価値はあるのかなと考えています。

構造模型ギャラリー 【 ENCODE 】

そんなこんなで設計の終盤戦に差し掛かっている自邸ですが,先日成功裏に閉会をした感覚する構造展に引き続いて,設計のプロセスをオープンにする機会に恵まれました。
今年の春に,構造家の木下洋介さんが中心となり,横浜みなとみらいにあるブカツドーというシェアオフィス構内において構造模型ギャラリーENCODEがオープンしました(InstagramFacebookX)。

7名の構造家が初期メンバーとして関わっており,各自が代表作を2作品選び,構造模型とプレゼンボードを展示しています。来場無料の常設展示ですので是非足を運び頂ければと思いますが,私の展示作品の1つが自邸になっています。感覚する構造展に出展した模型よりはやや小ぶりですが,1/70スケールの模型を展示中です。このギャラリーの構造模型は,NOVASと呼ばれる構造模型の3Dプリントサービスを利用して製作されています。光造形による精巧な模型を比較的安価に作成できる画期的なサービスですので是非利用頂ければと思います。

ENCODEギャラリーに展示中の自邸模型(1/70) 作成:株式会社ラムダデジタルエンジニアリング

8/30には,ENCODEギャラリーのオープニングイベントが実施されました。私と平岩良之さんが登壇しクロストークをするというものですが,そこでも自邸の設計の話をさせて頂きました。
その時に使用したスライドもしばらくこちらに公開しておきます。
ENCODE初のトークイベントということで不安もありましたが,蓋を開けてみれば満席で立ち見が出るほどの大盛況で,2次会から打ち上げまで非常に盛り上がりました。

多くの皆様から自邸楽しみにしていますとお声がけ頂き,良い励みになりました。
次に日記を更新する頃には着工に向けて動き出していたいと思います。

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