オムニバスドラマ「息をひそめて」を見て。~コロナ禍の学校~
この連休、当然のごとく遠出などできず、家で動画三昧の毎日でした。少々目が疲れ気味です。そんな日々の中、Huluで配信されている「息をひそめて」というオムニバスドラマを視聴しました。中川龍太郎さんの脚本・監督で全8話の作品です。
多摩川沿いの町を舞台に、コロナ禍で変化を余儀なくされた人々の暮らしをオムニバス形式で綴っています。食堂を営むも緊急事態宣言の影響で客が激減してしまった女性、マッチングアプリで出会った年の離れた男女、在宅勤務で24時間顔を合わせることになる夫婦、最後の合唱コンクールが中止になった高校生など、多摩川沿いで生きる人々の日常をリアルに切り取り、優しく映し出しています。
長いこと教師をやって来た私にとって、合唱部の高校生たちを描いた最後の2つの話が心に染み入りました。昨年度、私の学校でも部活動の大会等の中止が伝えられ、体育祭や文化祭も中止になりました。それまでの学校は当たり前のように行事が行われ、その中で生徒たちは互いに語り合いながら、楽しくまた時には涙を見せながらも、私たち教師と一緒にやってきたものです。私もこれまでの様々な場面が頭の中をよぎってきます。
昨年度は高校3年生の担任でした。高校3年生は体育祭のリーダーとして毎年活躍し、苦労しながらもその中で学ぶことが多かったと思います。ところがコロナ禍で中止となり、残念な思いをした生徒も多くいたはずです。そのことを考えると、私の口から慰めの言葉を発することも出来ませんでした。 いつもの年よりも休校のため遅く始まった新学期には、生徒自身の目標を受験だけに置き換え、共に3月に笑顔で卒業を迎えようと話したものです。
私の学校では恒例行事としてクリスマスの時期にキャンドルサービスを行い、その中で高校3年生が聖歌・クリスマスソングを披露します。受験を控えた時期ながら原則全員参加で、練習時間もきちんと決め、勉強に支障がないよう配慮して行っています。このとき、この行事を中止すべきかどうか話し合うことになりました。合唱部のクラスター等のニュースも伝えられる中、迷いましたが学年の教師の総意として、保護者の承諾を得た希望者のみの参加、不織布マスクを付けて歌う、個々の距離を十分にとる、いつもの年より曲数を減らす等の工夫をして、生徒たちに最後の行事を経験させようとなり、学校で承認されました。講堂での披露のときも限られた学年だけが入場し、他の学年は教室のモニターを使いライブ中継を流しました。高校3年生希望者のみが歌うことになっていましたが、実際には8割の生徒が参加して、この後、感染が広がることもありませんでした。
ドラマでは、合唱コンクールが中止となり、揺れ動く生徒の気持ちが繊細に描写され、また顧問教師の心の動きも語られます。そして、最終話。コロナ禍が落ち着きを見せた時期の設定でしょう。生徒たちはマスクを外し、合唱の練習が普通に行われています。ラストシーンは学校横の河原で、昨年の合唱コンクールで歌うはずだった曲を、卒業生も交えて合唱することになり、楽しそうに準備する生徒たちを描いたシーンに、私は自分の経験したこれまでの様々な場面が頭の中をよぎっていきました。ドラマは、その前の第7話の主人公が屋上で独唱していた「君のうた」が、夕暮れ時に地元の人たちを招いて合唱されます。おもわず涙腺が緩むラストシーンです。いいドラマでした。機会があれば見ていただきたい。
学校は、コロナ禍で多くの課題を抱えています。学びを止めてはいけないとPCやタブレットを使った遠隔授業が行われている学校も増えています。けれどまだまだ課題が多いことは良くご存じだと思います。授業は何とかなるにしても、学校行事が中止となれば生徒の学びの場が失われることになります。行事の中で社会性や協調性を学んだ生徒の成長を、私たち教師は実感し、やり甲斐を感じるものです。感染状況が都市部を中心に悪化している中、今年の行事はどうなるのか心配でなりません。(終)