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「月またぎ入院」はダメ!知らないと損する医療費のお話〈介護幸福論 #13〉

「介護幸福論」第13回。がん手術を終えた母。手術は無事に成功。だが、入院にかかるお金のところで失敗をしてしまった。「月またぎ入院」を選んでしまい2倍の金額を負担する羽目になったのだ。

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■「月またぎの入院」という失敗

 父の在宅介護にひと区切りがつき、当面の心配は母の病状だ。

 肺炎の完治からしばらく静養した後、母は肺がんの切除手術を受けた。病気に対して素人ができることは何もない。手術室へ送り出すとき、ベッドに乗せられた母がやけにがっしりとぼくの手を握りしめ、緊張した表情をこちらへ向けた。

 ちょっと待ってよ、まるで今生の別れみたいな握手をされたら、まともにあなたの目を直視できないじゃないですかとドキっとしたが、手術は無事に成功。1週間もすれば、退院できるという。

 ただし、この時にぼくはひとつ、お金の面で失敗をした。損になると知らず、わざわざ「月またぎの入院」の日程を選んでしまったのである。

 月またぎの入院がなぜ損なのか。知っている人には初歩レベルの常識らしいが、病院と縁のない生活を送ってきた同類の人たちのために説明しておこう。

 医療費は、高額療養費制度によって負担が軽減される。

 高額療養費制度とは、1ヶ月の医療費が自己負担限度額を超えた場合、その超えた分のお金を払い戻してくれるという、ありがたい仕組みだ。自己負担の限度額は、年齢や所得に応じて決められている。

 うちの母の場合、自己負担の金額は月に4万4400円だった。つまり、医療費がいくらかさんでも1ヶ月の支払いはこの金額におさまる。がんの手術+入院ともなれば費用は高額になり、本来なら80万円以上の医療費がかかるところも、とりあえずの支払いは健康保険の1割負担(当時)で8万円少々。後日、限度額を超えた分が戻ってきて、4万4400円で済む。

 ただし、この制度は月単位で計算される。

 入院が月をまたぐと、もともとの医療費80万円が、2月分の70万円+3月分の10万円というふうに分かれてしまうため、高額療養費制度が適用されても、2月の支払いは4万4400円、3月の支払いも4万4400円。結果的に倍の費用がかかってしまう。たった1日でも月をまたぐと、その分が負担になる。

 ぼくはこの仕組みを知らず、母の手術の際に「いつ入院しますか。急ぐ手術ではないです」と医者に言われたのに、少しでも早いほうがいいだろうと焦り、すぐに入院の手続きをとった。そしたら、それがたまたま月末で、月またぎの入院になった。

■結婚し、出産を経験していれば…

 お金の損得を計算した上で、親の入院のタイミングをはかるものではないだろうけど、あとになって、おのれの無知を知った次第だ。ネットで調べてみたら、この「月またぎの入院は損」という医療知識は、出産の時に知る人が多いみたいである。

 ああ、こんなところにも、妻や子供を持ったことがないロンリー独身男のハンデがあったとは!

 それにしても、どれだけ医療費がかかっても月4万円台で済むのは、驚きでしかなかった。おまけにうちの両親は教職員の共済組合に加入していて、ここからも後日、お金が支給された。

 至れり尽くせりの保険制度、医療制度のありがたみを知ると同時に、いくらなんでも手厚すぎるんじゃないか、国に負担させすぎじゃないかと思わなくもなかった。が、そこはぼく個人が今まで支払ってきたバカ高い健康保険の納付金が使われているのだろうと、納得することにした。

 自由業者の健康保険料は高い。医者にかかったこともないのに、何十年も納めてきた健康保険や介護保険のお金は、自分の親が病気になった時のために積み立てられていたのだ。そう考えれば割り切れる。

■特養にかかる費用

 お金の話ついでに、よく質問される特養の費用についても記しておこう。「特養に入るにはどのくらいのお金がかかるんですか」という質問は本当に多い。

 特別養護老人ホームの料金は、平成27年8月に大きな改定がされて、所得や資産に応じた負担軽減制の基準が変わった。

 ざっくり言うと、それ以前は「そこそこ所得のある世帯以外は負担軽減されて安かった」のが、改定後は「少しでも所得のある世帯は負担軽減してもらえなくなったため、以前ほど安くない」に変わった。

 具体的な金額は、専門のサイトを調べるか、ご自身の市町村やお近くの特養にお尋ねくださいという役に立たない話しか書けない。

 しかし、こんな答えをすると「いや、正確な金額や仕組みを聞きたいわけじゃなくて、いつかの将来のために、おおまかな目安を知りたいだけです」と食い下がられる。
 いつかの将来にはまた制度が変わっていると思いますよと答えたいところをぐっとこらえて、父が入所した特養を例に、だいたいの金額を記しておこう。

 居住費+食費+介護サービス利用料。これが特養の費用の基本的な内訳だ。民間の有料老人ホームと違って、入所費や保証金は必要ない。
・所得の少ない人は、月額合計が6万円から9万円くらい。
・それ以外の人は、月額合計が15万円から18万円くらい。

 現時点ではざっとこのくらいの相場だろうか。要介護度が変われば、料金も数千円の範囲で変わる。部屋が立派な個室なのか、相部屋なのかという違いによっても、料金は変わる。
 うむ。こんなガイドブックみたいな話は退屈で面白くないですね。

 こうして「月またぎの入院をして損した!」などとセコい反省をしていたら、母の身に、もっと深刻な診断がくだされることになる。

*プロフィール
田端到(たばたいたる)。1962年、新潟県生まれ。大学を中退後、フリーライターに。競馬や野球を中心に著書は50冊以上。競馬の分野では「王様」の愛称で知られる。ほかにテレビドラマや映画のセリフ研究家、アスリートの名言コレクターの肩書きを持つ。両親の介護をするため、40代後半で帰郷。6年間の介護生活を送る。
ツイッターアカウント:https://twitter.com/4jkvvvypj6cdapf

※本連載は毎週木曜日に更新予定です


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