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「サービス」の本質を日本人は知らない? 「ITサービスマネジメント」が広まらない理由

以下の記事で、日本における課題の本質は「ITサービスマネジメント(ITSM)」の仕組みが構築できていないことにあると書きました。

今回はその理由と背景について、もう少し踏み込んで考えてみたいと思います。

ITSMとは何か。それはITを活用したサービスを、ユーザーや顧客のニーズに合致するよう、適切に管理するものです。これができれば利用者の満足度向上につながります。しかし、そう簡単にはうまくいきません。

なぜでしょうか。一般的に、サービス提供のプロセスには多くの人や組織が関係します。これが、実に厄介です。関係者が増えるほど、サービスの品質を一定にすることが困難になります。さらには顧客・ユーザーのニーズは常に変化していきます。そこに合わせてサービスの内容を柔軟に更新していくこと、これも簡単ではありません。

ITサービスの管理の基準を明確にして適切な品質を担保し、かつ、ニーズの変化に合わせて改善し続ける。これを可能にするのがITSMです。そして、ITSMを適切に行う仕組みの導入がまさに重要です。ITSMの推進によって、様々な変化に対し柔軟かつスピーディに対応できる、無敵のサービスが誕生するのです。

ところが、現在。日本における多くの組織や企業では、ITSMを実現するための仕組みを持っていません。これでは、たとえ先進技術を使って、新サービスをスタートさせても、そこから先に進みません。ユーザーや顧客に向けて、適切にその価値を提供し「続ける」ことこそが重要なのに、それが十分にできないまま、いつしか世の中のニーズから外れて、サービスの終わりを迎えてしまうのです。

「サービス」の本質を見逃していませんか


そもそもなぜ日本では、ITSMという考え方が広まらないのでしょうか。

ここで「サービス」の定義をまずは洗い直してみましょう。ITSMのベストプラクティスをまとめたガイドブック集の最新版「ITIL® 4」の中で、もっとも基礎的な内容が書かれた「ITIL® 4ファンデーション」では「サービス」について、次のように説明しています。

顧客が特定のコストやリスクを管理せず、望む成果を得られるようにすることで、価値の共創を可能にする手段

↓「ITIL®」および「ITIL® 4」に関する説明は以下もお読みください

たとえばインターネットを利用する際、私たちはプロバイダから「インターネット接続」という「サービス」を受けています。ここで私たちが望む成果は「インターネットを利用すること」です。

私たちはインターネットを利用するにあたり、インターネットが必要とするインフラの整備・管理を行っていません。その代わり、サービスの提供者であるプロバイダに対価を支払っている。

もっと身近な例を。スーパーに行けば、自ら漁に出なくても、魚を買える。船を借りたり、網を用意したり、不意の荒波に襲われたり、陸地まで輸送したり、加工したり、そんな大量のコストやリスクをかけなくても、スーパーで料金を払えば魚を食べることができる。

これが「サービス」です。特定のコストやリスクを管理せず、望む成果を私たちは得ています。

日本で「サービス」という言葉は、「無料」あるいは「おまけ」という意味で使われてきました。これでは「サービス」の本質を正しく認識できません。だから、「サービス」の品質や価値を正しくマネジメントすべきだ、という世界の「当たり前」も、見過ごされてきたのです。顧客が真に望む成果を見極め、それを特定のコストやリスクをかけさせることなく、提供する。しかも、望まれる成果は刻一刻と変わっていく。ここがマネジメントの領域です。

組織の上層部や経営層に「ITSMなんて、既にできているから、投資の必要はない」という誤解があることも、日本でITSMが一般的にならない理由の1つだと考えています。

ほとんどの場合、ITSMを確立できているように見えるのは、現場が日々頑張ってるからに他なりません。属人化した業務を、現場担当者が多大な労力をかけて実行しているから成し得ているだけで、きちんとマネジメントされている結果ではないのです。まずは、この事実を認める必要があります。そこがスタートラインです。

よって、まずは組織の上層部や経営層が「サービス」や「ITSM」に対する認識を改めることが、変革への第一歩なのです。

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