千葉ちゃんの闇鍋空手映画『激突!殺人拳』
※jason rodmanで連載していた記事のアーカイブになります
最近のメジャー邦画に足りないのは何だ!?
こう問われたら、皆さんは何と答えるだろうか。
俺は誤解を恐れずに、こう答えるだろう。
やっぱタイトルに『激突!』とか『直撃!』とか『激殺!』が足りないんじゃないの!?と。
早い話が、
千葉真一が足りないんじゃなかろうか!
…というわけで、俺のように昨今のフヤけたお子様ランチみてえなタイトルおよび内容に物足りなさを感じるストリート系の方の為に、今回は千葉真一のアクションと全力演技がギラギラに光る映画=『激突!殺人拳』を御紹介しようと思います。
東映が最も狂っていた1970年代に作られたカラテ映画の本作。
もうタイトルからして物騒な予感しかしない訳ですが、 作風もズバリ「殺るか、殺られるか」
映画の内容も実に物騒極まりない。
主人公は己の五体のみで依頼を請け負うプロ=剣琢磨aka千葉真一。
俺ジナルなカラテを武器に『不可能を可能にする男』として裏社会でブイブイ言わせる人間凶器であった。
とぼけたインチキ中国人ラクダを相棒に、今日も今日とて死刑囚を脱獄させるべく、坊さんというには無理のある眼光で執行間近のムショへ潜入する千葉ちゃん。
しかし、狼は狼を呼ぶとでもいおうか。
脱獄させる相手の死刑囚・志堅原は、野良試合で相手を何人も葬った沖縄カラテの名手であった。
千葉ちゃんのタダならぬ気配を察知したのだろう。
「言葉で説明するより、拳で話し合うのが早い!」と言わんばかりに出会って即合体ならぬ、出会って即殴り合い!!
ここでバーン!と真っ赤な赤文字で『激突!殺人拳』というタイトルが出る。
この武骨としかいいようのないタイトル。
痺れるぜ!
更に特筆すべきは、主人公というにはオツリがくるほどの清々しい外道ぶりである。
殴り合いを経て、途轍もなく具合が悪くなる秘孔を突く力技で志堅原の死刑執行を回避した千葉ちゃんは、なんやかんやで依頼された脱獄に成功。
ほぼ意識のない志堅原をフェリーに乗せ、香港へ高飛びさせる確かな仕事ぶりを果たす。
あとは依頼人の姉弟から報酬をもらうだけであったが、ここで問題が発生してしまう。
なんと依頼人の姉弟が「実は前金しかないんです」とほざき始めたのだ。
だが70年代の千葉ちゃんの辞書に、『タダ働き』や『人情にほだされる』なんて言葉は、勿論ない。
依頼人の姉弟に金がないと分かるや、「じゃあ体で払ってもらおうか!」と姉(志穂美悦子)の人身売買を即決!
それを止めようとした弟(千葉治郎)が飛び蹴りを放つものの、千葉ちゃんは全力でスルー。
哀れ弟くんはビルを突き破り死亡!
ダメ押しのように姉は香港マフィアに売り飛ばされてしまうのであった。
のっけから、この闇金ウシジマくんばりのドス黒い展開はどうだ?
とはいえ、非情のプロフェッショナル千葉ちゃんは反省ゼロ!
そんな彼氏の元へ間を空けずに、またもやビッグな仕事が舞い込んでくる。
その仕事とは「石油王の娘を誘拐せよ」という香港マフィアからの依頼であった。
普通であれば美味しい話に飛びつこうもんであるが、依頼人の態度がなんとなく気に入らなかったという理由で速攻お断り!
返す刀で石油王の娘の護衛が空手道場と踏んだ千葉ちゃんは早速殴り込みを決意する。
「言葉で説明するより、殴るほうが早い!」と出会って即殴り合い(またかよ)!
何人かの道場生をボコボコにする凶行を繰り広げ、ムチャクチャ棒読みの日本正武館の館長との試合に漕ぎつける。
激闘の結果、痛み分けに終わったものの、何かしら拳で伝わったものがあったのだろう。
正武館を気に入った千葉ちゃんは香港マフィアの陰謀を告白し、石油王の娘の護衛を買って出るのであった。
もちろん、一方の香港マフィアも黙ってはいなかった。
「打倒千葉ちゃん」を合言葉に、盲目の剣術使い、胡散臭さ満点の中国拳法使いなど・・・千葉ちゃんに負けず劣らずの変人…もとい殺しの達人達を来日させる。
しかし、その中には何の運命の巡り合わせか…千葉ちゃんへの復讐に燃える、高飛びしたはずの志堅原の姿があった。
果たして誰が生き残るのか。
こうして日本を舞台に、悪人達の殺人拳が玉突き事故のように激突しまくるのであった。
キャッチコピーは
「俺も悪党!だが許せない奴らがいる」
実際に本作を見てみると「うん!そうだな!」としか言いようがない説得力に満ちている。
この作品に善も悪もない。
まさに『強さこそ正義』を地で行く展開が目白押しだ。
おかげさまで…
千葉ちゃんの打点の高い蹴り。
鬼滅の刃を先取りした『千葉の呼吸』
「ぃよーっしっっ!」と炸裂する、裂帛の気合。
千葉ちゃんの気合の入った凄い顔。
…などなど、千葉ちゃん自身のアクションと演技もブレーキ知らずである。
それに応えるように話が進むにつれ、目潰し、喉仏ブッコ抜き、素手でタマキンを千切る 、物損事故を気合で乗り切る、目玉が飛び出す正拳突き、早すぎたX-RAYアクション…など、演出も自ずとヒートアップ!
思わず「え!?」と二度見したくなるハードコアっぷりだ。
観た後に「真剣佑!卿敦!凄いぜ!オマエのオヤジさん‼︎なあ、おい!」と肩を叩きたくなるだろう。
千葉真一のカラテ映画といえば、バカのミッション・インポッシブルな地獄拳シリーズも捨てがたい。
だが、やはり本作の天然ぶりにこそ目を見張ってしまう。
特に唐突にもほどがある千葉ちゃんの暗黒爆笑エンドに至っては、見てるコチラを置いてけぼりにするのを全く恐れていない姿勢が伺える。
まさに、ナチュラルにブッ飛んでいる凄みが本作にはある。
劇中 「俺に流派はねえ」とうそぶく千葉ちゃんだが、セリフそのものが本作を表しているといっても過言ではない。
ダーティ、アナーキー、空手、そして千葉真一が放り込まれた
闇鍋カラテ映画。
それが『激突!殺人拳』だ!
ちなみに本作は3まで作られているが、一部キャラ設定や唐突な暗黒爆笑エンドに共通点はあるものの、明確な繋がりはない。
シリーズ何処から切っても楽しめる(?)親切なつくりだ。
その辺りも「俺に流派はねえ」スタイルを貫いている。
製作当時、海の向こうでブルース・リーが話題と聞き「それをカラテでやろうぜ!」と、いざ東映がやってみたら、当のカンフー映画すら食いかねない出来になった本作。
実際、そのヤバさは海を越えた。
アメリカでも『The street fighter』というタイトルで公開され、千葉真一がJJサニー千葉としてハリウッドへ乗り出すキッカケとなった。
アメリカでも相当にインパクトがあったのだろう。
しばらくしてタランティーノが脚本を手掛けた映画『トゥルーロマンス』の劇中でも、クラレンスとアラバマが本作をデート鑑賞の映画として選んでいる。
もし間違ってデートで観ようもんなら、色んな意味で激突必至だが、「カッコいいは国や時代を超える」というのを教えてくれた作品の一つなのは確かだ!
気がつけば元号も変わり、令和になった現代。
千葉真一の映画を見た経験のない方のが圧倒的に多いだろう。
そんな人に『激突!殺人拳』を初手からオススメするのはどうなんだよ?と言われるかもしれん。
もうバッティングセンターで、いきなり千葉真一が160kmの剛速球で飛んでくるようなもんである。
だが、これを受け止められれば他の千葉ちゃん映画も大丈夫だ!多分!
これから見る方は、もし巷で「あなたの千葉真一は何処から? 」と聞かれたら「私は『激突!殺人拳』から!」と是非即答して頂きたい。
ともあれ、こちらのサイトに来ているサグいストリート系の方々にもビリビリ来る要素が、かつての千葉真一にはあるのではないだろうか?
最近でもリスペクトを捧げられているキアヌ・リーヴスとの対談で、共演作「兄弟」の企画をブチ上げるなど、今でも熱い俳優の千葉ちゃん。
むしろ今も昔も千葉真一が熱くない日なんてなかったなあ!と思わせてくれる映画ですよ。