「リスペクト」はミュージシャン伝記映画の大切さを伝えてくれる王道作品!
先日、この映画を観に行きました。
「リスペクト」
あらすじ等はこちらをご覧ください。
「ソウルの女王」「世界最高のシンガー」と名高いアレサ・フランクリンについての映画です。
伝記映画って毎年必ず公開されますよね。特にミュージシャンの映画って最近ヒットしやすいせいか、増えている気がします。
この映画はアレサの生前から企画されていた伝記映画で、制作についてはニュースなどで知っていたものの、彼女の生前に完成が間に合わなかったのが残念でした。
エルトン・ジョンもそうですけど、最近本人の生前に本人の協力があって伝記映画が作られるパターンも出てきましたよね。
今作も観たところ王道の伝記映画でしたが、本編を観た後に予想以上に感動して「こういう映画って本当に必要だな!」と思いながら映画館を後にしました。
※ここから先は思いっきりネタバレになりますので、結末を知りたくない方はご注意ください。
先にも書いたのですが、この映画は私の感覚では伝説の人を描く伝記映画として王道のタイプ。
特に斬新な設定、演出や画をとるわけではなく、「老若男女問わずに観た人にアレサ・フランクリンの素晴らしさが伝わるように」と作られた映画だと思います。
その中でも特に焦点を当てられていたのは、彼女の輝かしい功績よりも苦労してきた部分だったところ。
幼いころに生母を亡くした悲しみや牧師の父親との関係、10代で出産というトラウマ、夫からの暴力と束縛、自身が成功した後のプレッシャーなどで苦しみアルコール中毒症になってしまうあたり。
人生で苦労してきたところを描くのに多くの時間が割かれています。
伝説の歌姫の側面より、人間として女性として苦しみ、もがきながら生きていく過程を描いていて、より彼女を身近に感じることができました。
私はアレサの生い立ちや軌跡をほぼ知らずに観たので、映画を観ただけではちょっと分からないところもありましたが、この映画についての解説やPodcastを聞いてすぐに後から理解することができました。
また後程ご紹介します!
この映画で個人的に特に面白かったポイントを挙げてみます。
■曲のレコーディング場面
私がこの映画で一番面白くかつ感動した場面は、なんといっても曲のレコーディングのシーンです。凄く細かく、描写が面白いんですよ!!
数年前にこちらも生きるレジェンド、ブライアン・ウィルソンの伝記映画「Love&Mercy」でも、あの名作「ペット・サウンズ」がどうレコーディングされていったかがとても詳細に描かれていて面白かったんですけど、
この「リスペクト」もアレサ・フランクリンが最初の所属したレコード会社、コロンビア・レコード時代からレコーディング風景が描かれています。
コロンビア・レコード時代、アレサはもちろん頑張って歌うものの、基本がストリングス隊との録音でとてもお上品というか、箱に閉じ込めれられているかのようなレコーディング。
それまで父親のもとで束縛されて、管理されて育った生活や彼女の心理を象徴するようでした。
そこで逃げ出すように夫と結婚し、飛び込んだ先がアトランティック・レコード。名物プロデューサーのジェリー・ウェクスラーと出会い、セッティングされたのがアラバマ州にあるマッスル・ショールズにあるフェイム・スタジオへ。
ここでのレコーディングのシーンが本当に最高でした!
そこにいるのは白人のミュージシャンばかり。その中で一人ピアノを弾きながら歌わせられるアレサ。曲は「INever Loved a Man The Way I Love You」
そこで、周りのミュージシャンが彼女の才能に気づき、アレンジを加えていきます。ここで、アレサは自分の音楽を奏でる喜びに目覚めるんです!
ここがとても面白かったです。誰もが歌の才能を認めていても、ヒットが出ず、自分が歌いたい歌を探していた彼女。
それが、このマッスル・ショールズのバンドとのセッションでやっと見つかるシーンです。活き活きと歌い始めるアレサが、やっと息をし始めたようで観ていて感動しました。
このマッスル・ショールズのバンドのメンバーの描き方もさらっとしながらも、とても面白かったです。白人の決して洗練されたとは言えない若者たちで作り上げられるR&Bの音楽。
そこにアレサが対等に自分のアイディアや才能を披露して殻を破りながら曲を作り上げていく。この制作の瞬間がとても興味深かったです。
マッスル・ショールズのドキュメンタリーは以前に観たことあったのですが、また見てみたくなりました。配信見つけられなかったので、どこかでしてくれたら嬉しいですね。
歌が作られるシーンは他にもあって、もう2曲の印象的なシーンは「Ain’tno way」と「Respect」でもありました。
こういう曲が作られるシーンってとても面白いし、瞬間瞬間にドラマがあります。神々しい瞬間というか。アレサほどの才能がある人ならなおさらですよね。
でも自分の今の心理や状況が曲に反映されたり、才能がこんなにある人なのに、苦悩し自分を確立しようともがくあたりはとても身近というか共感しました。
■ジェニファー・ハドソンの底力
今回、アレサをジェニファー・ハドソンが演じると知って「彼女しかいない」と思う反面「無難と言えば無難」という思いがありました。
アレサを演じるのに歌唱力は必須ですよね。大前提になると思います。恐らく歌えない人がキャスティングされたら興醒めです。
現代でアレサを演じるのにもっとふさわしい歌唱力を持つのはジェニファーだと私も思います。
ドラマでは確かシンシア・オリヴォが演じてましたね。彼女もとても上手いですよね~。
とはいえ、ジェニファーだと「安パイだな」というか、映画ファンや音楽ファンなら上手いのが分かり切っているので「ちょっと面白みに欠けるかな~」と。
ところが、この映画のジェニファーは歌はもちろん、演技面も本当に素晴らしくて、どちらかというと映画中はそこに感動してしまいました!!
特に後半、暴力的な夫とやっと別れ優しいパートナーと落ち着いたと思ったら、自分が心の支えにしていたキング牧師を亡くし、アイデンティティが崩れるかのような体験をした後、アルコールに走ってしまう場面。
ちょっと端折った感じもあるのですが、このアルコールでボロボロになるアレサの姿を体当たりに演じています。
「ここまで見せるか」というくらいの格好になって、どん底の姿を体現してみせます。ちょっとびっくりしました。ここのシーンは必見です。このシーンがあってこそ、
ラストの「アメイジンググレイス」のシーンが鳥肌モノです。このシーン、アレサを演じているというより私は素のジェニファーの歌の力に感動してしまいました!!
圧巻です。これはアレサを演じているとか関係なく、ジェニファー・ハドソンの歌力と演技力あってこそのシーンだと思います。
「ソウルの女王」として誰もが知っているアレサを演じるって喜び半面とてもプレッシャーだったと思いますが、自分自身の力でそれを跳ね除けて、ラストに一番重要なシーンを一切の邪念無しに感動的な歌で締めくくれる。
ジェニファー・ハドソンでなければできなかったと思います。それまでの着実な演技があってこそだと思うので、この映画でのジェニファーは「本当に素晴らしかった」と私も絶賛したいです!!
■キャスティングの絶妙さ
この映画はジェニファー・ハドソンだけでなく、他のキャスティングもよく考えられているというか絶妙で、ここも愛すべき映画だなと思いました。
まず、アレサとの複雑な関係である父親をフォレスト・ウィテカーが務めています。これがまたリアルというか上手いんです。厳格でアレサを利用するような面もありながら、でもどこか憎み切れない、音楽好きで愛すべき面もある部分をうまく演じています。
また、幼いころに無くなる母をオードラ・マクドナルドが演じていますが、オードラ・マクドナルドがめっちゃきれいな声で歌が上手い女優さんで、まず彼女の歌声がちょっと聴けるだけでも至福でした。
でも早くに亡くなってしまうので「贅沢なキャスティングだな」と思ったら、後半にまた回想というかジェニファーの幻覚のような形で出てきて「アメイジンググレイス」を歌うんですよね!
このシーンがあって彼女が起用されたのか、と思いました。悲しいシーンですが。
暴力をふるう元夫はなんとマーロン・ウェイアンズ。「『なんと』って言われても」って感じだと思いますが(笑) マーロン・ウェイアンズってコメディ俳優のイメージだったんですよ。
だからこんな真面目って言っちゃなんですけど、この映画に出てくると思ってなくて。意外だったけどいい演技でした。「このキャスティング良かったな」と思います。
アレサが昔から憧れるスター歌手、ダイナ・ワシントンを演じるのはメアリー・J・ブライジ。歌うシーンは確かなかったはずだけど、もう女優として映画に出てきても違和感なく。
デビューしてから芽が出ないアレサがダイナの前で彼女の曲を舞台でカバーしようとして激怒し、控室で𠮟咤激励するシーンがめっちゃよかったです!
あと、個人的に良かったのはアトランティック・レコードの伝説のプロデューサー、ジェリー・ウェクスラーを演じていたマーク・マロン。コメディアンでそれほど映画の出演作は多くないようですが、とてもいい演技だったと思います!エネルギッシュで、アレサの才能に惚れ込んでいる様子が伝わってとても良かったです。
そして、アレサの幼少期を演じたスカイ・ダコタ・ターナー。彼女の演技と歌から映画が始まりますが、歌うシーンはもちろん、彼女の時代から波乱な人生なので演じるのは大変だったと思います。
それ以外にもアレサに欠かせない姉妹や祖母、マッスル・ショールズのバンドのオーナーやメンバーも良かったです。キーボードの彼とか。
この映画はおそらくある程度アレサの歴史を知った上で観ると、とても楽しめると思います。
もちろん知らなくてもいいのですが、2時間半もありますが一つ一つのシーンに情報量が多く「たぶんここなんかあるな」と思いつつ、自分の理解が追いつかないところもありました。
彼女がなぜアルコール依存に陥ったのかなどは私にはちょっと伝わりづらかったなと思います。
監督は南アフリカ生まれのリーズル・トミーという女性監督なのですが、まだこれが長編デビュー作なので、まだそこまで映画作りが上手くない部分もあったかもしれません。
けど、アレサの才能にだけにスポットを当てすぎず、女性としての悲しみや、彼女の歌声が他の女性達にどれほど勇気やインスパイアを与えていたか(観客が映るシーンに女性がとても多い)を描いていて、「いいな」と思いました。
斬新な映画ではないけれど、こうやってドキュメンタリーではなく劇映画として大切なアーティストの素晴らしさを伝えてくれる映画もやっぱり必要だなと思いました。
映画を観た後、やっぱりアレサ・フランクリンの曲をたくさん聴きたくなります。「Respect」が映画タイトルだけど、ラストはアレサがゴスペルを歌うシーンで終わります。
伝説のゴスペルアルバムを帰り道に聴きながら帰ってきました。
「また他のアーティスト映画も観たいな」と思わせてくれる作品でした。興味を持たれた方はぜひ観てみてください♪
おまけ このサントラ、もう映画のサントラっていうよりジェニファー・ハドソンのアレサに対する尊敬トリビュートアルバムだな。
おまけ2 私が聞いたPodcastはこちらです!
どちらもめちゃめちゃ面白かったです!!
おまけ3 バラカンさんが力説してましたけど、確かに「アレサ」じゃなくてせめて「アリサ」がいいな。映画で「リー」って呼ばれてるし。