ゲーム屋人生へのレクイエム 92
会社を倒産させる前に次の仕事を決めて安心したころのおはなし
「失業しなくてよかったですね」
「失業したらえらいことだ。失業保険がもらえないから無収入でその間やっていくしかないからな」
「どうして失業保険がもらえないんですか?」
「そりゃ就労ビザの関係だよ。就労ビザは雇用された会社に限定して働いてもいいというものだから会社が潰れたらビザは失効する。不法滞在者になるということだ。そこで失業保険を申請したら不法滞在がバレちゃうでしょ」
「バレたらどうなるんですか?」
「最悪は捕まって強制送還だな。そして二度とアメリカには入国できなくなる可能性がある」
「じゃあバレたらマズいですね」
「そう。だから失業保険の申請ができない。失業するということはマジで死活問題なんだよ」
「アメリカで働くのって大変ですね」
「外国人だから仕方ない。だから会社が倒産する前に仕事が決まって本当に助かったよ。
そして会社をつぶす当日のはなしだ」
「はい。おねがいします」
「弁護士がやってきて書類1枚にサインして手続き完了」
「え?それだけ?そんなに簡単に手続きできるんですか?」
「できた。会社の代表を俺から弁護士に変更する書類にサインするだけだったよ。あとは弁護士が会社代表になって会社の破産手続きをするという運びだったよ」
「あっけないですね」
「そう。あっけなかった。今まで大変な思いをしながら何とか続けてきた会社が1枚の書類ですべてが終わった。少し寂しい気もしたけど、ずっと重くのしかかっていた肩の荷がやっとおりてすごく楽になったという喜びのほうが強かったよ」
「いろんなことがありましたもんね」
「あった。入社した途端に俺一人残されて全員転職したり、ゲーム販売プロジェクトを全部キャンセルになったり、無給で踏ん張って移植の仕事を続けたり。でもこれらは全部過去だ。終わったことだ。見なきゃいけないのは将来なんだよ」
「過去を忘れるという事ですか?」
「過去なんて忘れてしまえばいい。どうせたいしたことなど何もない。過去に学んだことだけ覚えていればいいと思うよ」
「過去と過去に学んだことって同じような気がしますが。違うものなんですか?」
「過去は終わったことだ。変えることは出来ない。
だが過去から学んだことはこれから使うことができる知恵や知識だ。
例えば、俺はこのA社で最終的には社長になった。だが会社が潰れてしまって元社長という過去の肩書にはもう何も意味は無い。そんなことはどうでもいいことだ。ただの自慢でしかない。さっさと捨ててしまえばいい。
しかしだ、俺が社長だった頃に学んだことは今も生きているし毎日使っている。わかるかな?」
「ちょっと難しいけどわかるような気がします」
「そのうちはっきりとわかるようになるよ」
続く
フィクションです