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ゲーム屋人生へのレクイエム 80話
ゲームのリリースが中止になり、プロジェクトも全てキャンセルされ会社閉鎖と社員全員解雇の危機が迫っていたころのおはなし
「自分たちで何とか現状を打破できないかと知恵を絞ってみたものの何もできなくってね。
何も売るものは無い、収入はゼロ。でも支払いは待ってくれない。会社の口座残高がみるみる減ってしまってね。給料も払えるかどうかわからない危機的な状態になってしまったんだよ。
そんなある日いつもどおりに出社したらセールスが俺を彼のオフィスに呼んだんだよ。
彼の机の上を見たら小切手が3枚並べてあったんだ。
小切手のあて先は俺たち社員3人。
彼のサインが入った現金化できる小切手だ。
それで俺は聞いたんだよ。これは何だって。
彼はこう言った。会社の口座残高を3等分した。これがその小切手だ。これを持ってこの会社から逃げよう」
「それって泥棒じゃないですか」
「そうだ。会社の金を持ち逃げしたら業務上横領だ」
「そのあとどうなったんです?」
「俺はキレた。怒鳴りつけた。俺は絶対そんなことは許さないってね」
「そうですよね。いくら何でもダメですよね」
「そうしたら彼は、小切手をビリビリ破いてゴミ箱へ捨てて、これは提案だから。と言ったんだ。
提案なら話せばいい。小切手を印刷してサインまでして提案ですってそれは無いだろう。それで俺は腹を決めたんだよ」
「何を決めたんです?」
「セールスをクビにすることだよ。
そもそもの話し、前任の社長が社員を引き連れて辞めた時点でもうこの会社は終わっていたんだ。それを俺はセールスさえ雇えば会社は存続する、誰でもいいから雇ってしまえって勢いだけで彼を雇った。
今思えば彼にとっても不幸なことだったと思う。雇うべきではなかったし、雇われるべきでもなかった。
そして彼を解雇する機会は何度もあった。だが解雇しなかった。それは彼を解雇すればこの会社は終わりだからだ。この会社が終わりという事は俺も終わりだ。それが怖くて決断できなかったんだ。
けれど彼は一線を越えた。会社の金を持ち逃げしようとした。絶対にやってはいけないことをやろうとした。今回は俺が止めたけど、きっとまたやる。
それで俺は本社のMさんに事態を報告して解雇の許可を求めたんだ」
「Mさんは何て言ったんですか?」
「彼の解雇は認めるけど、会社を閉鎖することはおそらく変わらないだろうって言ったんだ。Mさんもなんとか存続できる方法を探ってくれてはいたんだけれどこの時点では何もなくてね。万事休すだ。
でも閉鎖の前に彼には辞めてもらう。そして会社は閉鎖され俺も解雇される。それでいいと俺は思ったんだ」
続く
フィクションです