ゲーム屋人生へのレクイエム 68話
ロンドン行きを断る極秘転職活動のタイムリミットが1週間を切る中2日間でマーケティングプランを作って社長に認めてもらわないと転職できなかったころのおはなし
「2日間でマーケティングプランを作ることになったんだけど。今回のプラン自体はそんなに難しくはないのよ。かなりざっくりとした内容になるからね。そもそもこの契約もざっくりとしたものだったからね」
「どうざっくりなんですか?」
「名義貸しみたいな契約だから」
「名義貸し?」
「そう。この開発会社はアメリカでのパブリッシャーライセンスを持っていない。任天堂、ソニー、マイクロソフトなどのハードホルダーのタイトルを販売する契約のことなんだけど、アメリカに会社が無いと契約できない。
そこでこの開発会社はライセンスを持っている会社と組んでその会社の名前でタイトルをリリースしたいと考えたわけだ。
Aは自前の開発チームをもっていないから商材を常に探さなければならない。お互いの利害は一致している。
とは言え、開発会社は別にAにこだわる必要はない。最低条件は取引相手がライセンスを持ってることだから。
AはAと契約すれば他社に比べてより多くの販売ができるというプランを提示して競合相手の中から自社を選んでもらえるようにしなければならない。
そこで俺に出された宿題のプランだ。ジャンルとリリースのタイミングとその理由、想定される開発費と販売本数、宣伝広告費、製造コスト、採算分岐点の分析などなどをひっくるめてまとめる仕事だ。
通常は1タイトルにつき一つのプランだけど、今回のプロジェクトはまとめて5本のプランを考えなければならない。しかも2日間の期限付き」
「2日間で作ったんですか?」
「作った。一晩ほぼ徹夜して作った」
「どんなプランですか?」
「細かいところは話が長くなるから割愛するけど、分散してリリースしないでまとめて5タイトルをリリースするプランを作った。このメリットは宣伝広告費を5タイトルまとめてしまい、予算の集中投下を狙うことだ。
そして小売価格を他社のタイトルより低く設定する。リリースのタイミングはサンクスギビングセールが始まる11月初旬。サンクスギビングからクリスマスまでの約一か月のセールスは年間のトータルの半分以上を占めると言われるほどよくモノが売れる。低価格にしてギフトとして売る作戦だ。売り込む相手は大型量販店1社に絞って独占で売る。
ゲームのジャンルはパズル2本、スポーツ3本。サンクスギビングとクリスマスは人の移動が多い。ゲームボーイだから移動中に短時間で遊べるゲームにした。開発予算も低く抑えられる。と、まあこんな感じでプランを作って提出したんだ」
「タイムリミットが迫ってますね。そのあとどうなったんですか?」
「ロンドン行きを断る日まで残り2日となってね。これは間に合わないかもしれないぞ、転職先未定のままで退職する羽目になるかもしれないぞって思ってね。ドキドキだよ。そして社長から連絡があって二次面接に呼ばれたのよ。
その時のやりとり。日本語訳でお送りします」
俺「私のプラン、どうでした?」
社長「採用よ」
俺「え?」
社長「あなたのプランをベースに私が手を加えて開発会社に送ったのよ。それで今朝先方から連絡があって仮契約するって返事があったのよ」
俺「はあ・・」
社長「あなたを採用します。いつから働けるの?」
俺「2週間後から働けます」
社長「Welcome aboard! (ようこそ!)」
俺「Thank you. I will do my best!(ありがとうございます。ベストを尽くします!」
続く
この物語はフィクションです。実在する人物、企業、団体とは一切関係ありません