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ゲーム屋人生へのレクイエム 72話
転職先の社長以下全員が辞職願をだしてひとり会社に残ることになったころのおはなし
「全員会社を辞めるってすごいですね」
「めちゃくちゃだろう。この会社の給料は安いから少しでも条件のいいところに行く気持ちはわかるけど。全員そろって辞めなくてもいいじゃねえかって思ったよ」
「社長と話をしたんですか?」
「うむ。Sさんと電話で話をした翌日に出社して社長と話をしたんだよ。
こんな会話だった。
「Sさんから聞きましたが、会社を辞めるんですか?」
「ええ。そうよ。2週間後に辞めるわ」
「どうして突然辞めてしまうんですか?まさかあの時に俺を誘ったのは冗談じゃなくて本当だったんですか?」
「そうよ。あの時あなたがイエスと言えばあなたも連れて行ったわ」
「私以外全員辞めるって聞きましたが、本当なんですか?」
「ええ。本当よ。新しい会社に全員連れていくことにしたのよ」
「新しい会社ってどこなんですか?」
「この前取引したイギリスの開発会社よ」
「え!?」
「うちの会社には開発がないわよね。商品は常にどこからか買い求めなければならないでしょ。それもいつもあるとは限らない。自分たちでコントロールできない状態で他人をあてにしてビジネスしなければならないのって、もううんざりなのよ。この前のプロジェクトで彼らは決めたのよ。アメリカに進出して開発から販売まで一貫したビジネスをやるって。そして私がその子会社の社長に選ばれたのよ。この会社でできなかったことが新しい会社ではできる。そしてきっとうまくいくわ。私は自分の実力でここまできたのよ。そしてこれから先もそうよ。あなたを連れていけないのは残念だけどね」
「全員辞めてしまって、これから俺はどうすればいいんですか?現在進めているプロジェクトはどうなるんです?」
「それは私にはもう関係ないことよ。私の責任はあなたに仕事の引き継ぎをするところまで。そうだわ、いいアイディアがあるわ。新しい会社でここの販売とマーケティングを代行してあげてもいいわよ。委託費は請求するけどね。どう?」
「ちょっと今はこの状況を整理することで頭がいっぱいです。今後のことについて本社のSさんとお話ししてもらえませんか?」
「辞めることは伝えたんだからこれ以上話すことはないわ。彼はいいひとだけどそれは私のキャリアとは関係ないことよ」
というやり取りだった」
「びっくりですね。冷徹で感情みたいなものを一切感じませんね」
「本人は悪いことをしているとは全く思っていない。自分のキャリアのことしか考えていない。でも彼女の言っていることも間違ってはいない。ライセンスビジネスを続ける限りビジネス成功の可否は売れるタイトルを獲得できるかどうかがすべてだ。俺もブローカーの会社に勤めていたから彼女の気持ちはよくわかる。でも、辞めるならひとりで辞めればいいのに全員連れて行くってあまりにも自分勝手だって思ってさ。それで本社のSさんにその夜電話で状況を説明したんだ」
「かくかくしかじか。という状況です。あいつら全員イギリスの開発会社のアメリカ法人に転職しますよ。どうにかして彼らを止めることはできないですかね?」
「無理だな。あいつらには義理人情、恩といった感情はゼロだ。カウンターオファーする価値もない。行きたいなら勝手に行かせてやろう」
「これから先どうしましょうか。俺一人じゃどうにもできないですよ」
「そのことでうちの社長と話をしたんだが、子会社を今すぐどうこうする考えはないって言っている。だが、今抱えているプロジェクトは見直しをすることになるだろう」
「プロジェクトはキャンセルですか?」
「そういうことになる。今やらねばならないのは会社の再建だ。しばらくはおまえが社長代理で切り盛りしろ。その間にセールスとお前のアシスタントを雇うんだ」
「俺に社長代理はつとまらないですよ」
「そうはいってもお前しかいないんだ。お前がやるしかない。グズグズ言わずにやるんだ」
「わかりました」
続く
この物語はフィクションです。実在する人物、企業、団体とは一切関係ありません