ゲーム屋人生へのレクイエム 78話
いいゲームだけど膨大な量の英訳作業がもれなくついてくるライセンス契約を見送るか取るか悩んだ頃のおはなし
「ゲームは面白いし、なんとしても欲しいライセンス契約だったんだけど、とにかくすごい量のテキストの英訳だから、どこかに委託するとかなりの請求が来るのは間違いなかったんだ。どうしようって悩んだ結果ライセンス契約を結ぼうって決めたんだ」
「英訳の金額はどのくらいかかるんですか?」
「タダ」
「え?無料ってことですか?」
「そう。俺、セールス、アシスタントの3人でやることにした。こうすることで数万ドルの経費を削減できるからな」
「大変な作業ですね」
「うむ。3人がかりで2か月かかったが、満足のいく翻訳ができた。翻訳作業と並行してマイクロソフトへのパブリッシャーライセンス申請や企画申請なども着々と進めて半年後にはマスターアップにこぎつけたんだ。そしてセールスを始めたんだ」
「ついにあのセールスの出番ですね」
「そう。そのセールスが販売代理店と一緒にある卸業者と商談しに出張したその時に前代未聞の事件が起きたんだ」
「何があったんですか?」
「商談の後、セールスから電話があったんだ。その時の会話はこんな感じだった。
「商談はどうでした?」
「まあまあ」
「注文取れたんですか?」
「いや、それはまだ。卸業者の担当がすごく怖いひとでビビっちゃってさ」
「まあ、相手も真剣に商売してますからね」
「それでさ、言っちゃったんだよ」
「何を?」
「あまりにもしつこく聞くから、もういいやって言っちゃったんだよ」
「だから何を言ったんです?」
「うちの仕入れ値」
「え?」
「うちの仕入れ値。原価」
「はあ?」
「うちの利益がまったくはいっていない仕入れ値」
「仕入れ値はわかってますよ!なんで仕入れ値バラしたの!」
「だっていくらで仕入れてるんだって何度も聞くから」
「あのね、それ絶対言っちゃいけないやつでしょ。どうしてそんなことしたの?どうするの?原価で売れって言ってきたらどうするの?」
「どうしようか」
「俺が聞いてるんですよ!」
という会話だった」
「そんな人いるんですか?」
「いたんだよ。電話を切ったあとしばらく呆然自失だったよ。なんてことをやらかしてくれたんだって。卸業者は同業者のネットワークがある。そこでうちの仕入れ値をばらされたらうちは全業者に利益ゼロでうらなきゃならない。もう気を失いそうになったんだ。そうしたらすぐに販売代理店から電話があって、二度とあのセールスを出張させるなって猛抗議されたんだ。代理店はコミッション制だからうちの売り上げは彼らの収入にも関係するからね。終わったって思ったよ」
続く
このおはなしはフィクションでっせ