公務員と税金ドロボー
「俺たちの税金で飯食っているくせに」
「税金泥棒」
昔から、電話や窓口対応でよく言われる言葉です。公務員を10年やっていると数えきれないほど、似たようなことを言われます。私が入庁してからも変わらず、未だにニュースになるくらいなので、不変の話題なのでしょう。
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現代は、対面や電話以外のコミュニケーション手段が数多くあります。そのため、我々の世代よりも電話応答の経験が少ないであろう若い世代の公務員は、なおさら堪えるかもしれません。今、公務員の退職理由の中でも、クレーム対応に疲弊したことによるものも多いようです。
私も最初のころは「本当にこんなこと言われるのか…」と戸惑ったこともありました。一方で、15年ほど経つと、大体のクレームは聞いたことがある状態になります。税金泥棒と言われても、あまりカッとなったり、ダメージはありません。
今回は、そのあたりの心構えの変遷について書いてみようと思います。
1 税金で飯を食っているは事実である
私たち公務員の給料は税金です。これは動かしようがない事実で、国民・住民の皆さんが払っている税金から、給料が拠出されています。公務員という職に就いた以上、それは弁えないといけません。
また、私たちの仕事は新たな価値を生み出しにくい仕事でもあります。新しい道路をつくるなど、いくつかの例外はありますが、民間の製造業のように分かりやすく、0から1を生み出して、価値を生み出すということはほとんどありません。
例えば、私の昔の仕事である議会答弁案の作成も、首長が話したことが議事録に掲載されるだけであり、価値創造とは合致しないように思えます。そもそも、私が作成するたたき台は、最終稿になるころには原形が何だか分からないものになっています。
そのため、公務員の仕事は価値がないという訳ではありませんが、自分が作ったものを売って対価を得るという分かりやすい形ではないことは確かです。
いわゆる公務サービスの提供の対価として給与を得るのですが、その原資が税金であることは変わりなく、自ら生み出したものではないものから給与をもらうという自覚はしっかりと持つべきだと思います。
そのため、「俺たちの税金で飯を食っているのだろう?」と問われると、「確かにその通りです。」という回答になります。今でも年に何回かは言われることがありますが、事実であるため、言われてもあまり動じません。
公務員の給料の原資は税金であるということを謙虚に受け止めると、大分気持ちが楽になるように思います。
2 税金ドロボーとは思わない
公務員の仕事と価値創造は結びつきにくいとは思いますが、公務員の仕事に価値がないとは思いません。少なくとも私は、自分の携わった仕事全ては、社会をスムーズにさせることに貢献したと思っています。
イメージのしやすい公務員の仕事、例えば窓口対応やゴミ収集、保険関係の事務手続きなど、全ての仕事は皆、社会をより良くすることにつながっています。
もちろん、ある分野にここまで税金をかけるべきかどうか、賛否が分かれる部分も多々あります。正直なところ、中から見ていても、「ここに、こんなにも予算を割く必要があるのだろうか。」と疑問に思う時もあります。
ただ、それは、あくまでも個人の感情です。今トレンドの子育て施策だって、万人が諸手を挙げて賛成という訳ではないでしょう。
その税金の使い道は、行政と住民の代表である議会・議員との議論の末に決定されるものです。議決を得た予算に基づいて業務をするのだから、価値のある仕事だと自信をもって良いと感じます。
また、公務員の仕事は、自分の仕事で多かれ少なかれ救われる人がいるというのもポイントであると思います。住民対応でもインフラ整備でも保険等の対応でも、困っている人の役に立ったという実感を持てた経験は何度もあります。
そのため、窓口や電話対応で、税金泥棒と言われてもそこまでダメージもありません。「自分の仕事は必要なことだ。」そう思えるため、時にクレームに近いことを言われたとしても、疲弊することはほとんどありません。
3 余談、一番対応に悩ましく思うこと
あからさまに悪意のある電話や、感情的になっている相手の場合であれば、これまでの経験から、そこまで対応に疲弊することはありません。特に昨今は、カスタマーハラスメントの浸透もあり、周囲の理解も得やすくなった気がします。
一方で、個人的に一番対応に悩ましいのは、自分の業務とは関係ないのだけれど、切実な相談を長くされることです。
年に一度くらいはあるのですが、電話で何回もたらいまわしにされて私のところに来たのだけれど、話を聞いてみると私の業務とは関係がなく、良いお答えはできないというものです。
大抵の人は感情的でもなく、物腰も穏やかで、「悪いね」「ごめんね」と時折混ぜながら相談をされるのですが、関係ないながらも困っているのが目に見えるので何とかしたくなります。
もちろん、裏付けのないことを言って、さらに混乱させてしまうのも問題なので、口ははさめません。ひたすら傾聴で、聞きながらどうすればよいか対応に苦慮します。
大体は「お電話料金も心配なので、より詳しいものから電話させますね」と言うのですが、毎回、これでよかったのかなと頭を悩ませます。
多くの公務員が同じかは分かりませんが、地方公務員を目指した人は住民対応をすることを想定している以上、ある程度のクレームは覚悟のうえだと思います。
あからさまな悪意がある場合、今は毅然と対応するところも増えているのではないでしょうか。個人的にはへりくだることもなく、淡々と対応しても良いのではないかと思います。
北風と太陽ではないですが、切実だけれども無関係な相談が持ち掛けられた時の方が、公務員としてどのように対応すべきか悩むところだなと感じます。