音楽文化 [Balkan Brass] の今を読み解く
ずっとリリースを待ちかねていたルーマニアのジプシー・ブラス・ユニット Fanfare Ciocarlia(ファンファーレ・チョカルリア)が2021年9月に、あの グローヴァー・ワシントン・ジュニア が1980年に生み出し大ヒットした名曲『Just The Two Of Us』を、見事なBalkan Brassスタイルにカバー & アレンジし、新譜をリリースした。
2016年にリリースされたアルバム『20』以降殆ど活動が見られなかったFanfare Ciocarliaだが、コロナ禍のど真ん中で彼等のバイタリティーをアピールするように、元気な姿を見せてくれた。
私が最初に彼等 Fanfare Ciocarlia(ファンファーレ・チョカルリア) を聴いたのは確か、2001年にリリースされたこの作品『Iag Bari』だったと記憶している。
未だSpotifyもYouTube Musicも無い時代に辛うじてYouTubeの中にそのムーヴィーを見つけたが、その映像が余りにもシュールだったのでかえってこの作品『Iag Bari』が私の中に深く焼き付いて離れなかった。
(※後にこのムーヴィーは何度か配信⇔削除を繰り返し、現在残っているのが以下のYouTubeになる。)⇩
私には昔々『ロマ』として何度かトランシルヴァニアに生まれ落ち、主に踊り子として各々短い生を終えた記憶があるが、そもそもロマには戸籍のようなものが存在せず、人権も無い。その為私には決まった名前が無く、あだ名でルーマニア語で『O altă fiică』(よその娘)を意味する、通称『タフィカ』のような名前で呼ばれていたことだけを記憶している。
とても寒い地域なので人々は体を温める為に楽器を演奏し、踊り、アルコールを嗜んで夜を凌いだ。
気質としては男性は責任感は強いが移り気な一面を持ち、短時間の労働をこなす以外は殆どの時間を飲酒とパーティーで紛らわせて過ごしていた。一方女性は別の家族の女性達と手を取り合いながら年中家事や料理に追われ、それ以外は主に刺繍や編み物等で家計を助けて生きていた。
そもそも [Balkan Brass] とはセルビアの軍事音楽とフォークミュージックの融合としてバルカン地域で生まれた独特の音楽スタイルだが、最近では北マケドニア、ブルガリア、モルドバ、ルーマニア‥等の国々で飛躍的な進化を遂げている。
その [Balkan Brass] の発展と普及に一役買ったのが彼等「ロマ」、いわゆるジプシーの存在だった。
ジプシーはグループを率いながら寄り添って移動生活をし、すれ違う別のグループとの交流手段として音楽や舞踏等を駆使しながら、互いに意思の疎通を図った。言語の異なる集団が多い為、彼等は会話よりも音楽や舞踏等で親睦を深めて行ったと思われる。
やがてそれらの蓄積が、一つの文化を形成して行った‥ と言う経緯があるようだ。
Fanfare Ciocarlia(ファンファーレ・チョカルリア) よりも若干古い世代としては Fanfara Transilvania と言うユニットが実在するが、3~4年前から活動が更新されなくなった。
勿論古いユニットなのでサブスクリプション等への登録は未だ為されておらず、私は彼等のサブスク登場を心待ちにしている。
代表曲はこの作品ではないだろうか‥🌹
上記の作品が収録されたCDを探してみたが、やはり見つからない‥(笑)。恐らく日本国内では見つけられない‥ と言うことなのだろう。
懲りずに探してみようと思っている。
さて、話題を Fanfare Ciocarlia(ファンファーレ・チョカルリア) に戻すと、2005年にこの作品『007 James Bond Theme』をリリースした時に世界が彼等をあらためて注目している。
どこかコミカルにも聴こえるが、これも歴としたバルカンブラスである。
なにせそもそもが大所帯のブラスバンドなので、それをここまで一曲にまとめ上げる辺りに並々ならぬ意気込みを感じずには居られない。
🎺 🎺 🎺
バルカンブラスの他のユニットに少し視点を動かしてみると、色々と面白いブラス・ユニットに出会うことが出来る。
例えばこのグループ『Boban Markovic Budapest』(ハンガリーはブダペストのバルカン・ブラス・ユニット)も数年前までは活発に活動していたが、Liveが多い割には楽曲の配信は少ない。
アルバムが最後にリリースされたのは、2012年の『Čovek I Truba』まで遡る。
王道Balkan Brassからは少しだけ離れるが、個人的に私はユニット『Äl Jawala』のハイブリッド・バルカン・サウンドも気に入っている。
『Äl Jawala』はドイツ生まれのバルカン・ブラス・ユニットだが、彼等のHPにもあるようにユニット名の『Äl Jawala』はアラビア語で、英訳すると「The Wanderers」と言う意味になる。
王道のバルカンブラスから飛躍し、インドや中国、ヨルダン等への演奏旅行から得た各国々のモードをバルカンブラスに練り込んで合わせて生み出したハイブリッド・バルカンを独自のスタイルとして作品をリリースしている。
(※だが彼等も又、2018年にリリースしたアルバム『Lovers』以降、活動が更新されていない。)
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さらにエレクトリック寄りのバルカンブラスを探ってみると、私が大好きなユニット『Mahala Rai Banda』(ルーマニア)も2009年にリリースされたアルバム『Ghetto Blasters』を最後に、此方もアクティビティーが更新されていない。
だがこのアルバム『Ghetto Blasters』はなかなか聴き応えのある一枚で、暫くはこのアルバムを聴きながら彼等の新作リリースを待ちたいところである。
と言うわけで、ここのところ各々活動の更新が見られない [Balkan Brass] 界隈だが、この記事の最後に私が今も時々聴きながら踊っている此方のコンピレーション・アルバム『BalkanBeats』のリンクを貼って、記事を〆たいと思う。
正直なところ、この数年間の色々な世界情勢の中で、音楽家達はかなり翻弄されている。諸事情で活動がままならない状況に追い込まれたミュージシャンやユニットも多数存在し、多くの音楽家達が次の切っ掛けを息を潜めながら待っているに違いない。
何卒無事な彼等の再登場を、私もそっと物陰から見守っていたいと思う。
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