蜜のようなアンビエント - "hard Romantic"の世界
年代日付は不正確ながら、私の中に和製アンビエントの走りとなる音像が今もくっきりと蘇る。
記憶では1995年以降から2000年に差し掛かる頃にTVのCMの頂点に躍り出た和製アンビエントが、このグループ "hard Romantic"だった。当時知的系CMとして音楽業界で話題になったのが、ONWARDの「23区」のCM。そこでBGMとして流れていたのが "hard Romantic" の『Romanza』の優しいアンビエントだった。
正直今聴くと若干おもちゃのようなアンビエントに聴こえるが、当時は日本全国‥ アジアのCM業界を騒がせた一曲でもあり、これが現在の和製アンビエントの走りとなったことは否めない。
私が本家「アンビエント」と日本のアンビエントとを分けることには理由がある。いわゆる私が思う「和製アンビエント」の定義は、以下のようなものである。
①メロディーラインが良くも悪くも幼稚であり、童謡のテイストをふんだんに取り入れている。
②音像が本家本元とは異なり、どこかギクシャクしていてぎこちなく作り物の様相を呈している。
③コード展開が単調で、余り音楽の教育を受けていない人でも何となく分かった気になれる程度にシンプルな構成になっている。
④基本的には4/4拍子、或いは緩い速度の8ビートで出来ており、頭を横に揺らせば音楽に乗って拍子を取ることが出来る平易な音楽である。
こうやって書いてしまうと明らかにKamal の "Quiet Earth" や坂本龍一 & アルヴァ・ノトの二人が奏でる "Glass" 等の楽曲とは比較すら出来ない程のレベルの差を感じることも又事実ではあるが、和製アンビエントの中では "hard Romantic" は良質な作品を量産しているアーティストだと言えるだろう。
"hard Romantic" の特徴を存分に醸し出している少年ヴォーカリスト "Liam O'Kane" リーアム・オケーン を発掘しこのユニットの企画の中枢を担うのが、大橋宏司と言うユニークなヒーリングの使い手だ。
『和製アンビエント』イコール「大橋宏司」と言っても過言ではないくらい、彼の和製アンビエント界への貢献は大きい。
"hard Romantic" の出現の直ぐ後に "Libera" と言う少年合唱団が『Libera』と言う楽曲で大ヒットを飛ばし、その後にわかに合唱団アンビエント・ブームが到来する切っ掛けとなった。
さて話しを "hard Romantic" に戻すと、このユニットの中枢をしっかりと牛耳っている大橋宏司氏は、独特の音楽観・アンビエント観を持ったプロデューサーであり、どの作品を聴いても直ぐに「彼」だと分かる明確な表現手法を維持している。
"hard Romantic" のアルバムに関して言えば私はやはり、このアルバム『Splendore・・・天使の歌声』がピカイチだ。
このアルバムでも少年ヴォーカリスト "Liam O'Kane" リーアム・オケーン の歌声は随所に現れ、深い森で戯れる妖精のようにアルバムの要所要所に魔法をかけては消えて行く。
特にオススメは M-2 "Piercing The Cloude {Splendid Version]" だ。
2022年2月13日 日曜日の昼間にほんの少しだけTwitterのTLにもツイートしたが、今回 "hard Romantic" を深堀りするにあたり、iTunes Storeから数枚のアルバムを購入した。その中に "hard Romantic" も参加しているコンピレーション・アルバム『Beautiful Gift』も含まれる。
この中の M-6 "After The Storm" はクレジットこそ英文字で「Hiroshi Ohhashi」と書かれてあるものの、サウンドはまさに "hard Romantic" そのもので、"Liam O'Kane" の美しいヴォーカルが炸裂する。
‥ところで1990年代は少年ヴォーカリストだった "Liam O'Kane" リーアム・オケーン も今は立派な大人になっているだろうと思いSpotifyを検索してみたところ、現在は何ともありきたりなフォークロックを歌うつまらない歌手に成長していたことを知り、愕然とした私だったが‥(笑)。
"hard Romantic" の活動は2003年7月23日にリリースされたオリジナル・フルアルバム『New Life』以降は、目立ったものが見られない。又サブスクリプションに登録されているフルアルバムの数も未だ少なく、Spotifyには2022年2月13日現在、3枚のアルバムのみが配信されるに留まっている。
"hard Romantic" こと大橋宏司氏のコード・プログレッションには大きな特徴がある。それはサブコードの使い方だ。
特に「sus4」の当て方が個性的であり、本来ドミナントを当てるところをあえてワンクッション置いて「sus4」でじりじりとコード感を抑え込み、あえてドミナントに移行せずトニックにもつれ込む、この手法がしつこくて粘着質で私は大好きである。
さて "hard Romantic" +ONWARD と言えば、私の記憶が合っていればこの作品もそうではなかったか。
この作品には、少年ヴォーカリストの "Liam O'Kane" の歌声は収録されていない代わりに、サンプリングと思えるフランス語の人間のささやき声が収録されて、とてもお洒落な仕上がりになっている。
この記事の最後に、上記の楽曲が収録されているコンピレーション・フル・アルバム『Meditation & Sleeping Deeply』のリンクを貼っておきたい。
アルバムを聴く上で注意したいことが一つある。
それは「音楽作品」に意固地なまでに「癒し」「メディテーション」や「スピリチュアル」‥等をくっつけ過ぎるとどうしても、作品としてのクオリティーが怪しくなる点だ。
音楽が偽善的になり、誰からも愛されようとする作者のエゴが全面に出過ぎて、作品が下品になって行く点はどうにも避けられないのが難点だ。
それも踏まえ、以下のアルバムが良くも悪くも各々のサンプルとなることを祈りながら、この記事を終わりにしたい。
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