見出し画像

御用だ誤用だ!

この間、Twitter(どうしてもまだXと呼べない)を何となく見ていたら、トレンドに「関内のイントネーション」という文字があった。

そのトレンドに関する皆々様のツイートを見たところ、神奈川県横浜市の中心街の通称である「関内(かんない)」はどのように発音するか?という話題が上がっていた。ツイート群を見た限りでは「玩具を製造・販売している企業『バンダイ』と同じイントネーションで発音する」と記している方々が多かったのだが、私はそれを兎に角イライラしながら眺めていた。

……それ、イントネーションじゃねえよ。

これは恐らくかなりの人々が誤解・誤用をしていると思われるのだが、上記の話題のような単語レベルでの抑揚(音の高低)はイントネーションではなく「アクセント」が正しい。

では「イントネーション」とは何か?というと、イントネーションは文章全体の高低の調子である。詳しいことはNHKの放送文化研究所のホームーページに記されているので、是非下記をご参照頂きたい。↓

兎にも角にもイントネーションという語はアクセントとの混同による誤用が多すぎる気がしてならない。まあ、確かに多くの人々にとっては両者の厳密な違いなど興味の範疇外にある些末な事柄なのかも知れない。しかし高校・大学と長年放送部に所属し、大学では日本語学、特に音声や談話などの領域を専門的に学んでいた私はイントネーションの誤用を見聞きする度に「イ"ヤ"ァ"ーーーッッ!!(発狂)」と思ってしまう。

なお、言葉(語意)は時に変化するもので、それまで誤用ないしはイレギュラーな使い方とされていた語意でも、その用法が広く一般に流布すれば「慣用」となるケースがある。

例えば私個人としては「もうこれは慣用でも良いんじゃないかなぁ」と思うのが「爆笑」。本来爆笑とは「大勢の人々が一斉にどっと笑うこと」であり、一人の人が腹を抱えて涙を流し七転八倒しながら笑っても爆笑ではない。しかしながら、この語は既に一人が大笑いする様を表す時にも多く用いられているように思う為、慣用としてしまっても然程問題はないように感じられる。

同様に「性癖」も元来は「個人が生まれ持った性質・性格」という意味であるが現在は殆ど「(特にアブノーマルと言われる)性的嗜好」の意で使われていることが多いように思うし、そのうち「優勝」も「競い事で一番になる」という意味だけでなく「美味しい料理を食べてご満悦になる」という意味が辞書に付記されるかも知れない。

しかしながらやはり「イントネーション」は「アクセント」とは全く異なるものであり、誤用が慣用になることは確実になかろう。そのような学術的な専門用語の誤用が慣用化されてしまってはひとたまりもない。ましてやそもそもそれ自体が言語学に関する用語なのだから、言葉に関する学問や芸術に携わってきた人間としてはイントネーションの誤用は断固として許せない。

なので私はこれからもアクセント警察として、正しくはアクセントと呼ぶべきものをイントネーションと呼んだ者に対し(心の中で)警笛を吹き散らかしてゆく所存である。そして「単語の音の高低について偉そうにあれこれ私見を述べる前に、そもそもの用語を学び直してきやがれク◯野郎!」と言ってそいつに中指を立て……いや、そうすると最早それは警察ではなくヤ◯ザ者の所業になる故そこまでのことはしないけれど(当たり前)、どうにかして多くの方々に「それは誤用だ」と伝えられないものかとは思う。

ちなみに余談で、冒頭に記した「関内」は私も大多数と同じく「カ\ンナイ」という頭高アクセントだと思っている。しかしながら、私が大学時代に教わっていた日本語学の恩師曰く「深く慣れ親しんだ語については平板化して読まれるケースもたまにある」とのことらしい。なのでもしかすると生まれも育ちも横浜の中心という方には「関内が」と言う際に「最初のカだけ低く、ン以降助詞の「が」まで同じ高さで読む」という現象が起こり得るかも知れない。

と、まあ本日はあれこれ小難しい文章を書き綴ってきた訳だが、頭の半分では学術的なことを考えつつも、もう半分では中華街の肉まんと家系ラーメンのことを考えているのが私なのであった。横浜行きてぇなー。

いいなと思ったら応援しよう!