【グーグルに学ぶ】「超ややこしいけど、超優秀な社員」の正しい扱い方
エリック・シュミット他『1兆ドルコーチ』を読む
グーグルは「規格外の天才」をどう扱ったか?
スティーブ・ジョブズほか、シリコンバレーの成功者たちに絶大な影響を与えた伝説のコーチ、ビル・キャンベルについてグーグルの元CEOたちが多くの関係者に取材をして書き記した『1兆ドルコーチ』。日本では2019年に発売され、17万部を超えるベストセラーになっている。
シリコンバレーの企業といえば、一つイメージが思い浮かぶのは、天才エンジニアが多いこと。これについて興味深いエピソードがあった。「規格外の天才」とどう付き合うか、だ。桁外れに有能だが仕事がやりにくい社員、傲慢なスター……。ビル・キャンベルの考えはなるほど、だった。
つまり、いくら天才でもチームを優先できないのであれば「お払い箱にするしかない」というのがビルの考え方だ。グーグルのマネジャーをコーチしていた際も、ビルは厄介な天才社員について、「(優秀だからといって)肩を持つ必要はない」とアドバイスし、天才社員は会社を去ることになった。本書の担当編集、三浦岳氏はこう語る。
「『一人の天才よりチームが大切』『チーム・ファーストを徹底せよ』というのが、ビル・キャンベルの一貫したメッセージです。チームメンバーの一人ひとりに心理的安全性を与えられる環境づくりこそがマネジャーの最も重要な仕事だとビルは説きます」
天才型が多いシリコンバレーでも、ビルは個よりチームを優先させたのだ。「チーム・ファースト」は、章タイトルの一つにもなっている。サブタイトルには、「チームを最適化すれば問題は解決する」とある。
問題そのものより、チームに取り組む
ビル・キャンベルが人々に何よりも求め、期待したのは、「チーム・ファースト」の姿勢だった。そこでいくつもの独自の取り組みを行った。たとえば、「問題そのものより、チームに取り組む」こと。
マネジャーは、とかく目の前の問題にとらわれがちである。だがビル・キャンベルは、本質的な問いによってチームを導こうとした。誰が問題に当たっているのか? 適切なチームが適所に配置されているか? 彼らが成功するために必要なものはそろっているか? 担当編集の三浦氏は言う。
「メンバーが力を十分に発揮できる環境をつくることさえできれば、組織のパフォーマンスは上がる。マネジャーの仕事は、そうした環境を整えて、部下が実力を発揮するのを支えることだ、ということです」
最高のチームには、女性が多い
チーム・ファーストを実践する独自の取り組みは、他にも「ふだん仕事をしていない二人を選んでペアで仕事に当たらせる」「同僚同士のフィードバックを評価に組み込む」などが紹介されているが、印象に強く残ったものに、「性別を区別しない」ということがある。
80年代のテック企業は、幹部の大半が男性で、女性はとても少なかった。アップルの経営層の会議でも、中心のテーブルには男たちが陣取っていることが多かった。
彼女は勇気を持ってテーブルに座った。ビルが味方してくれるから、と。ビルは誰よりも強く、女性が「同じテーブルに着く」べきだと主張していた。多様性が叫ばれるようになるはるか前からそう訴え続けていた。
そしてそれは、表面的で通り一遍のものでは決してなかった。一人ひとりときちんと対峙した。だから、女性からも支持された。
ビル・キャンベルがアドバイスしたシリコンバレーの企業がなぜ、これほどまでの成長を遂げることができたのか。本書は、その秘密の一端を、間違いなくのぞかせてくれる。
(本記事は、『1兆ドルコーチ――シリコンバレーのレジェンド ビル・キャンベルの成功の教え』の編集者にインタビューしてまとめた書き下ろし記事です)