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【精神科医が教える】不安やストレスを消す「科学的に正しい脳の休ませ方」

情報が次から次へとあふれてくる時代。だからこそ、普遍的メッセージが紡がれた「定番書」の価値は増しているのではないだろうか。そこで、本連載「定番読書」では、ロングセラーとして読み継がれている書籍のメッセージをご紹介していきたい。第8回はイェール大学で学び、日米で30年以上診療してきた精神科医・久賀谷亮氏が書いた『世界のエリートがやっている 最高の休息法』。(文/上阪徹)

Photo: Adobe Stock

日本人が知らない「科学的に正しい脳の休ませ方」

 身体を休めたところで、脳は休めていない。そんな衝撃的な事実とともに、「最高の休息法」として脳を休ませる方法を説き、シリーズ30万部のベストセラーとなっている『世界のエリートがやっている 最高の休息法』。その方法こそが、マインドフルネス。瞑想などを通じた脳の休息法である。

 瞑想というと怪しげなイメージを持つ人もいるが、瞑想こそが「科学的に正しい脳の休ませ方」だと言えるエビデンスが、最先端の研究を行っている科学者から、次々に集まり始めているという。そして、アメリカでは、マインドフルネスが爆発的に流行しているのだ。

 本書は、アメリカで最先端の治療を取り入れた診療を行ってきた精神科医・久賀谷亮氏が、マインドフルネスについて脳科学的な知見を交えながら書いた1冊である。

 ユニークなのは、まずはマインドフルネス瞑想のアウトラインをつかむため、メソッドとしての7つの休息法をイラスト入りでざっくり解説した後は、小説形式で本編が書かれていくことだ。その理由について、久賀谷氏はこう書いている。

 日本人にも、マインドフルネスとは何かを言葉で説明しようとすると、いつも大変苦労します。この単語の「つかみどころのなさ」「得体の知れなさ」は、定義の精度や翻訳語の問題というよりも、この概念の本質とつながっているのでしょう。つまり、「知識」としてインプットできるものではなく、その世界に飛び込んで、何度も繰り返し実践する中で体得される「知恵」だということです。
 この壁を乗り越えるために、本書ではストーリー形式を採用してきたわけです(中略)

(P.236)

 マインドフルネスを科学的に解説しようとすると、あまりに単純すぎてとっつきにくいものになる。しかし、小説仕立てになっていることで、重要なポイントやメソッドが「知恵」として、わかりやすくしっかり頭に入ってくるのである。

グーグル、アップル…世界中で実践される手法

 小説の舞台は、久賀谷氏も学んだイェール大学の医学部。主人公は日本からやってきた大学研究員のナツ。自身、研究がうまくいかないことに悩む中、経営が傾き始めてしまった叔父の経営するベーグル店を手伝うことになる。

 ヨーダとも呼ばれるラルフ・グローブ教授のアドバイスのもと、この店のスタッフたち、さらにはお店そのものを、マインドフルネスを使って変えていく、というストーリーだ。

 マインドフルネスが人を、組織をどう変えていくか、また脳科学の最前線とどう触れあっていくか、物語を読みながらわかる仕組みになっている。

 興味深いのは、ナツが京都の禅寺の娘で、座禅の修行などを非科学的なものだと信用していなかったということ。その世界から抜け出すために、脳科学を志してアメリカにまでやってきたのだ。なのに、またあの「修行」なのか、という物語なのだ。

 だが、研究員としてのナツは、もはやなりふりかまってなどいられないところまで追い込まれていた。その一方で、マインドフルネスはアメリカで一大ブームを巻き起こしていた。病院、学校、そして多くの企業にも、積極的に取り入れられているというニュースが、無関心を決め込んでいたナツの耳にも入り込むのである。

 グーグル、アップル、シスコ、フェイスブックなど、世界を代表する上位企業でも次々とマインドフルネスが導入されているし、一流の起業家・経営者たちがその実践者であることも知られている。あのスティーブ・ジョブズがメディテーション(瞑想)に傾倒していたことはあまりに有名だ。

(P.56)

 他にもセールスフォース・ドットコムのマーク・ベニオフ、リンクトインのジェフ・ウェイナー、ホールフーズのジョン・マッキー、ツイッターなどの創業者エヴァン・ウィリアムズ、大手医療保険会社エトナのCEOマーク・ベルトリーニなど、マインドフルネスに関心を寄せるエリートは少なくなかった。

働くストレスが3分の1に
個人の生産性も爆上がり

 そしてマインドフルネスのもたらす効果は、個人のみならず会社全体に及んでいた。

 全社でマインドフルネスを導入したエトナでは、社員のストレスが3分の1になり、仕事効率が向上した。すべてが直接的な原因ではないにしろ、導入後には従業員の医療費が大幅に減り、1人あたりの生産性が年間約3000ドルも高まったという(*1)。

(P.56)*1 Gelles, David. “At Aetna, a C.E.O.,s Management by Mantra.” The New York Times(2015): http://www.nytimes.com/2015/03/01/business/at-aetna-a-ceos-management-by-mantra.html(accessed 2016-07-08).

 叔父の経営する店の、覇気のないスタッフをなんとかできるのではないか。ナツの問いかけに、ヨーダこと教授は「できる」と伝える。

「むしろ、そんな疲れきった職場にこそ、マインドフルネスは効果を発揮するんじゃ。なぜなら、マインドフルネスは最高の休息法なんじゃからな!」

(P.57)

 何よりも実利を重視しそうなアメリカ人、しかも本当に役立つものにしか手を出さないはずの世界のエリートたちが、なぜマインドフルネスを実践し始めているのか。

「彼ら個人は、大きな成功を遂げたかもしれん。お金も知識も社会的地位もある。しかし、心の休息はお金では買えんのじゃよ。プライベート・ジェットで豪華な旅行をしても、何千ドルもするスパに行っても、癒されない何かがある。それに彼らは気づいたんじゃろうな。
 結局のところ、自分の内面が休まらなければ本当の休息にはならんということに」

(P.63)

 マインドフルネスは最高の休息法だと教授が言いきるのは、もはやただの東洋式瞑想の焼き直しに留まらず、科学的に裏付けされたものに進化しつつあるからだ。世界トップクラスのアカデミック・ジャーナルでも、マインドフルネスに関する研究論文は相当数にのぼっていた。

 もはや最先端の脳科学や精神医学が大真面目に研究する科学的休息法になりつつあったのだ。そしてそのメソッドが、効果を生み出していく。

(本記事は『世界のエリートがやっている 最高の休息法』より一部を引用して解説しています)

上阪 徹(うえさか・とおる)
ブックライター

1966年兵庫県生まれ。89年早稲田大学商学部卒。ワールド、リクルート・グループなどを経て、94年よりフリーランスとして独立。書籍や雑誌、webメディアなどで幅広く執筆やインタビューを手がける。これまでの取材人数は3000人を超える。著者に代わって本を書くブックライティングは100冊以上。携わった書籍の累計売上は200万部を超える。著書に『マインド・リセット~不安・不満・不可能をプラスに変える思考習慣』(三笠書房)、『成功者3000人の言葉』(三笠書房<知的生きかた文庫>)、『10倍速く書ける 超スピード文章術』(ダイヤモンド社)ほか多数。またインタビュー集に、累計40万部を突破した『プロ論。』シリーズ(徳間書店)などがある。