声の記憶｜echoing－エコイング－
「あなたは素敵です」/映画：「耳をすませば」
「～ちゃん」/大学生の頃、落ち込んでいる私に友達がさりげなく私の名前を呼んだ声
「～さん」/昨年天国へ駆けあがっていった大好きな祖父が 私の名前を呼ぶその 声
膝を抱えて一人部屋
消えてしまいたくなる時に
背中合わせに寄り添ってくれるのは
私にとって声の記憶
過去から今を飛び越えてエコーする
あなたの声の温かさ
それは昨年の9月
突如として母親から舞い込んできたLINE。
何の気なしに見たメッセージには
祖父の容態が良くないため沖縄に急遽帰るという内容。
普段、絵文字だらけの母のLINEは
白黒、句読点と文字だけで
その緊迫した胸中がそのまま伝わってくる気がした。
「どうしよう」
私もすぐに行った方がいいのか、、
それとも、、
私はずっと祖父のファンだった。
豪快でいてチャーミング。
人徳溢れ、屈強な祖父を私は不死身の人のように思っていた。
だから尚更、その緊急の連絡を受け取っても
【入院したら元気になるんじゃないかな】
不安な気持ちのその片隅で私はきっと大丈夫
「きっと大丈夫」を信じていた。
祖父は大動脈瘤が以前から見つかっていた。
それでも闘病生活をしていたわけではなく
病院が大嫌いだった祖父は、手術を拒み
時が来たらその時だとずっと話していたのだった。
帰るか悩んでいるその翌日に
届いたLINEの通知には
「おじいちゃんたった今亡くなりました」
息を呑む。
言葉が出ない。
声にならない。
横に居た相方に
「じいちゃん、亡くなったって」
そう言って、そこからバタバタと飛行機やホテルの予約。
職場にシフト変更のお願いを出したり無彩色な現実が過ぎて行く。
ひと段落してお風呂に入る。
シャワーを浴びる。
耳に響くシャワーの音。
その時に想い起こされた
私の名前を呼ぶじいちゃんの声
「おじーは元気だけが取柄よ」
電話の時に必ず祖父が言っていた言葉。
声量のある明るい声が耳の奥で響いてくる。
息を吸い込む。歪む口元。
そこからじいちゃんの声は
私の頭の中でエコーして
止まらない涙、ボロンボロン。
シャワーの流れと相まって
とめどなく溢れては流れる涙
声にならない嗚咽がお風呂場に反響した。
「じいちゃん…」
それから相方と沖縄へ飛び
晴れ渡る空の下お見送りをした。
振り返れば、祖父が亡くなる半年ほど前
祖父と親戚とでカラオケへ行った。
昔の歌から福山雅治さんの桜坂まで
十八番の曲名が書いてある手帳を片手に
ノリノリで歌う祖父の姿。
対する私は…
緊張しながら1，2曲を小声で歌い
それ以降はとにかく聴くことに専念。
歌うことは大好きだけれど
人前になると一変する。
それから祖父の家へ戻り
そこでも家庭用のカラオケを始めた祖父。
手拍子をしながら聴く私たちに
「歌うのは嫌いか？」
一人で何曲かを歌い終えると、早々にカラオケは終了した。そしてその日以来祖父は
私たちが滞在している間
家でカラオケをすることも無くなった。
本当は歌うことが大好きな私。
今もお風呂で鼻歌や
時には熱を込めて歌う日もある。
それなのに、それなのに…
あの時、恥ずかしがらずにもう少し一緒に歌えていたらどんな想い出になっていただろう。
叶えられなかった思いが心を満たして胸の奥が痛くなる。
あれからもう１年以上が経過した。
私は今もよくお風呂場で歌を口ずさむ。
【じいちゃんに届いているかなぁ】
そんなことを思いながら。
じいちゃんのことだから天国でも大カラオケ大会をやっているに違いない。
私はお風呂場で今も時々選曲する
あなたの場所から私が見えたら
きっといつか会えると信じ生きていく
カラオケでは届けられなかった声をお風呂場いっぱいに響かせる。
ハイテンポの歌の後には、じんとくるバラードだっていいでしょ。
それから、カントリーロードもよく歌う。
歌が大好きだった祖父の血が私にもしっかりと流れている。
次会う時にはマイク片手に思いきり楽しい時間を過ごすんだ。
「ねぇじいちゃん
今晩のお風呂では何の歌を歌おうか」
きっとこれからも思い出す
あなたの声をお守りにして。
声の記憶ーechoingー
【1659文字】
こちら、過去の記事「南風からのメッセージ②｜祖父の旅立ちと音楽と」という記事を再編集したものになりました。
「こえ」というテーマからやっぱりここに行きつくという感じで。
モノカキングダムへの参加はドキドキそのものですが💦
ここまでのご一読、ありがとうございました🍀
素敵な企画に感謝です！
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