edu-ワーケーション 〜福井県高浜町〜
ポイント
地方への移住は最終ゴールかもしれません。しかし、その途中の細く長くその地域と関わり続ける人口、さらにはその地域を「ジブンゴト」化して課題を解決したり、新たな故郷として考えてくれる若者が生まれるようになりました。
要約
コロナ禍、緊急事態宣言により、学生はアルバイトの勤務日数が月に2回などに減らされ、経済的に困窮に陥っていた頃。
私は高浜町が「人手不足」により思うようなことができないとの実情を知りました。
一方でコロナ禍以降授業のオンライン化が進んだ大学。「どこでも」、科目によっては「いつでも」取り組める授業システムを活用し、地方で働きながら大学の授業を進めることができるのではないか。
このマッチングを活かし地方へ目を向けるZ世代への啓蒙活動を行い町には関係人口を増やす取り組みを行っています。
働きながら、地域の住民とコミュニケーションを取り、親元を離れて暮らす学生のサードプレイスになるような活動を進めています。
概要
背景
「地場産業である海業推進、そしてwell-beingへ。」
①持続可能な地域を目指した、高浜町の新たな取り組み
高浜町これまで海水浴や原子力産業を中心に栄えて来ました。しかし、取り巻く環境変化の中で、原子力産業以外の産業分野の育成が急務となっていました。そんな中、地場産業を活かした海業(水産業、観光業)の取り組みがスタート。2019年に「はもと加工販売所」2021年7月にはシーフードマーケット「UMIKARA」という施設がOPENしました。
「魚と旅するマーケット」をコンセプトに隣に完成予定(2023年8月完成済)の漁港からのとれたての魚を購入して、食べることができます。
その一方で、漁獲量減少や漁業従事者の減少など、多くの問題を抱える日本の漁業の新たな未来を開拓すべく、第6次産業(農林漁業の1次産業+工業や製造業の2次産業+販売やサービス業の3次産業の一体化)を担った施設でもあります。
また、ワーケーション人口の増加や、禅の主導者「釈宗演」の生誕の地でもある高浜で禅を通じたコンテンツの作成なども進められています。
高浜町はかつて、昭和40年代頃には年間100万人を超える海水浴客が訪れていました。そんな美しい海をメインとしつつ、海水浴の他にもより多くの観光資源を持ちながら、漁業などの社会が抱える問題を解決する新たなモデルになろうとしています。
②緊急事態宣言とお隣京都の学生たち。
そんな高浜町が動き出した2021年。これから新たなイベントや、新しい取り組みを色々していきましょうというこの町は人口10,000人。町内に高校も大学もない。色々やっていきたいのに、人手がいない。
同時期の京都では、新型コロナウイルスによる緊急事態宣言で、飲食店などが時短営業、休業を余儀なくされていました。
京都は学生の街である。大学生は親元を離れて暮らし、自分でアルバイトをして生活している。そんな学生にとって、緊急事態宣言の発令で
「アルバイトの採用はされていても、月に1,2回しか働くことができない。」
という学生が非常に多かったのです。
授業もオンライン授業で自宅で受講がメイン。遊びに行くにも夜は開いてない店ばかり。せっかくの大学生活がこのまま終わるのか。
といった状況でした。
要は学生は時間が有り余っていたのです。
③edu-ワーケーション誕生
高浜の今後のビジョンなどを聞いた京都の大学生である私はある時、役場関係者の前でこう呟きました。
「京都から学生連れてきましょうか。」
オンライン授業を受けつつ、週末ちょっと電車で海までバイトに行く。
一人暮らしではあまり食べない魚を賄いでいただき、
夜は宿で大学の課題なんかをこなしつつ、夜の砂浜でのんびりする。
ワーケーションじゃないですか。
学生だし、仕事ではないから、
「edu-ワーケーション」
これがedu-ワーケーション誕生の瞬間です。
アクション
ひたすら多くの学生に来てもらう。
①来る
まずは私自身の大学の友人、サークルのメンバーから声をかけ始めました。
日本海側の荒れやすい天候の中、毎月、毎週5,6名ずつが来てくれました。
その後も後輩が来てくれたり、過去に一度来た学生が、
「高浜最高だったから、友達紹介してもいい?」
と口コミも広まり、私の友達の友達の友達のそのまた友達が…と、指数関数的に増えていきました。
2021年10月から始まり、2024年9月に参加者は100名を超えました。
②する
学生は滞在中にさまざまな業務をしています。魚を揚げたり、ゲソを切ったり、蟹汁なんかを作ったり、時には新商品のプロモーション活動を行ったり。どれも通常のアルバイトでは味わうことはできないものばかりです。
どんなアルバイトでも確実にここでしか経験できないものが
「地域住民との交流」
これは高浜に来た学生が皆、口を揃えていうのですが「人が暖かい」「気さく」など町の人々とのコミュニケーションを非常に楽しんでいます。
年に一度の「にほん海シアター」では、毎回10数名の学生が集まり、屋台で物販をしたり、映画運営のスタッフになったりとお祭り会場のスタッフとして働きます。そこで初めましての人と仲良くなって、地元の人たちと一緒に働いて。
③考える
イベントの運営はフレームはあるものの、自分たちで「ああしてみようか、こうしてみようか」と考えるシーンは多いです。
ある時、今回販売する揚げ物がなかなか売れないことがありました。
すると、ある学生がカゴを持って、「ちょっとこれ、売り歩いてきます。」と会場内を回りながらお客さんに声をかけ、なんと完売。
また、2024年3月に新しい取り組みを始めました。
マーケティングを学んでいたり、フリーペーパーの作成をしていたり、たまにキャッチコピーを考えていたりする「同志社大学広告研究会」の有志に声をかけ、2泊3日で高浜町でフィールドワークをし、高浜町が抱える課題、資源をしり、最後はそれらを解決する施策を学生15名に考えていただきました。最終的に、役場の方々、まちの漁業関係者などの前でプレゼンテーションを行いました。
成果
「ただいま、高浜。」
①企画考案、大学生。
先ほどのプレゼンテーションで早速実装されたものがあります。
短編映画祭と、蚤の市、そして、漁師さんと学生が運営するスナックを学生が企画運営しました。スナックなんかは昼から夜まで終始大盛況でした。
②学生の故郷、高浜。
edu-ワーケーションは2021年から始まり、今年で4年目になります。中には年に5,6回以上も高浜にきてくれる学生も数多くいます。
そんな学生が、
電車で若狭高浜駅に着いた時、
「あぁ、帰ってきたー!」
車で高速道路から高浜ICで降りた時、
「ただいま。」
とボソッと言っているのをたまに聞きます。
京都の方が、なんでも揃うし、コンビニも近いし、便利かもしれません。
親元離れて暮らす学生にとっては便利さや、モノの潤沢さよりも、家族のような暖かさを持つ人々なのではないでしょうか。