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生産性を高めれば幸せになれる?

スマート農業、ICT技術導入、AI導入、DXデジタルトランスフォーメーションの導入などなど企業も農業も個人事業主もIT投資して生産性をあげよ、でなければ、非効率な経営では淘汰されると喧伝されている。

しかし、先の見えないこの時代、借金してIT投資して、生産性が上がって、豊かになって、幸せになれると新自由主義者の言うシナリオは実現するか?

答えはNOだ。

むしろ、「生産性を高めようとロボットやITに投資した結果、生産量が増えて最初はいいだろう。だが、皆が同じように投資すれば、過当競争により値下げや経費増となり、今度は今の2倍、いや3倍は働かないと稼げなくなってしまうから、結果、借金返済のために働く奴隷になる危険性がある」からだ。

古くから言われてきた、この「生産性向上=幸せ向上」と言う新自由主義理論の根拠は「セイの法則」にある。

「セイの法則」とは、「非貨幣市場の総供給と総需要が常に一致する」という原則である。


あらゆる経済活動は物々交換にすぎず、需要と供給が一致しないときは価格調整が行われ、仮に従来より供給が増えても価格が下がるので、ほとんどの場合需要が増え需要と供給は一致する。それゆえ、需要(あるいはその合計としての国の購買力・国富)を増やすには、供給を増やせばよい

つまり、供給を増やせば増やすほど、価格が下がるので需要は増える。だから、生産力を高め、供給量をどんどん増やせば売れ続け、儲かり続ける、という理屈である。

生産性を高めて、生産量を増やせば増やすほど価格が下がる。価格が下がれば、お客は欲しくなってたくさん買うから製造者は儲かる、という松下幸之助翁の「水道哲学」にも通じるこの「セイの理論」をベースに、1961年「農業基本法」や1955年から「日本生産性本部」推奨の政策が取られていた。


産業人の使命は貧乏の克服である。その為には、物資の生産に次ぐ生産を以って、富を増大しなければならない。水道の水は価有る物であるが、乞食が公園の水道水を飲んでも誰にも咎められない。それは量が多く、価格が余りにも安いからである。産業人の使命も、水道の水の如く、物資を無尽蔵にたらしめ、無代に等しい価格で提供する事にある。それによって、人生に幸福を齎し、この世に極楽楽土を建設する事が出来るのである。松下電器の真使命も亦その点に在る。(1932年第一回創業記念式にて 松下幸之助氏の講話より)

 貧乏の克服を実現するために、水道水の如く無尽蔵に無料に等しい価格で提供するといった松下翁の理想は当時大きな感動をもたらしたことでしょう。しかし、まさか90年後、石油を「お金あげるから引き取ってくれ」と言う現実が現れるとは、松下翁も想像していなかったでしょう。

この生産性向上が幸せにつながる、という「セイの法則」は実は、1970年に頓挫していました。

1970年に始まる減反政策で、1961年の農業基本法に基づく農業の生産性一辺倒による農家の所得倍増計画は否定され、農家の生活向上努力は頓挫し、大いに混乱が続いていたからです。

また、経済界も農業より先んじること5年、1955年から「生産性運動三原則」(①雇用の維持拡大、②労使の協力と協議、③成果の公正な分配)を掲げ、日本生産性本部による生産性運動の推進がなされましたが、度重なる日米貿易摩擦、そして、1974年のオイルショック以降の低成長、そして、1991年のバブル崩壊により長引く不況やたびたび訪れた経済危機からいつの間にか有耶無耶に。

新自由主義はこの「セイの理論」を根拠に、生産性を向上させれば経済はうまくいくと説いた。

積極的に金融機関から借金して設備投資をおこない、生産量を増大すれば需要が増えるから売り上げも利益も増える。だから借金支払ってもやっていける。利益が増えた分、社員に還元できる、と言う理屈で積極投資をした。

しかし、現実は、米の例を見てもわかる通り、元々が供給過剰→需要は弱いところに設備投資→生産量を増やさなければ金利や設備投資の借金分を補えない→生産量を増やして値下げする、でも需要は生まれない→市場ではさらに生産過剰→売価はさらに下がるでも売れず→在庫増&倉庫保管料など経費がかさむ→人件費削減→購買力ダウン→さらに借金して設備投資→生産量を増やす→値下げ→さらに生産過剰→さらに値下がり&在庫増&倉庫保管料など経費がかさむ→人件費のさらなる削減→可処分所得減少により購買力=需要はさらに減る→運転資金不足により、経営が不安定に・・・

「セイの理論」に基づいて何十年も供給を増やし続けてきても、需要は増えませんでした。おまけにデフレ。30年間も停滞しています。

極め付けは、コロナ禍の2020年4月20日の米WTI原油先物市場の価格が史上初マイナスとなったこと。

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価格がマイナスになるということは、「お金を払ってでも処分したい」ということを意味する。貯蔵タンクに溜まり続ける原油を市場関係者が「ゴミの山」と称した(4月20日付ロイター)ように、原油は家電製品などの粗大ゴミと同じになってしまったのである。(資料: https://www.rieti.go.jp/jp/papers/contribution/fuji-kazuhiko/156.html より)

石油のような必需品であっても、生産性を向上させ、生産量を増やしても、需要が無ければ「お金を払ってでも処分したい」とマイナスになる。

コロナは新自由主義者と産業界がこれまで信仰させてきた「セイの法則」=「需要(あるいはその合計としての国の購買力・国富)を増やすには、供給を増やせばよい」だから「生産性を向上させよ」は誤りだったことを白日のもと晒したのだ。

これでようやく明らかになった。生産「量」を増やし、値下げして売れば、需要が増えるから儲かる、と言う理屈が誤りだ、と言うことが。

供給量を増やしても需要は増えない。ならばどうする?


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