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【30周年企画】CGWORLD編集部に聞く、高等教育におけるクリエイター育成の現在と未来

2024年10月10日。書店に並び始めたCGWORLD vol.315(2024年11月号)の表紙を飾ったのは、AI生成による背景をLED投影して撮影した、杉山知之学長の近影でした。「デジタルハリウッドの30年」と題された本号では、50ページに渡ってデジタルハリウッドの歴史・卒業生インタビューなどを取り扱っています。

今回のnoteは、この特集記事へのアンサー企画として、CGWORLDの発行元であるボーンデジタル社の担当者2名に逆取材を敢行。どのような意図で企画が生まれたのか、取材を通してデジタルハリウッドに対する印象がどのように変化したのか。そして、CG業界の水先案内人ともいえるお二人が、高等教育機関としてのデジタルハリウッド大学(DHU)に期待することは何か。DHUnote編集部が話を聞きました。

DHU公式note限定、約8000字のロングインタビュー。DHU関係者はもちろん、CG好きな方もそうでない方も、必読です!

新 和也 さん(写真右)
株式会社ボーンデジタル 代表取締役 
1999年3月、明治大学政治経済学科卒。2022年11月、ボーンデジタルの代表取締役社長に就任。それ以前はオートデスクで11年間セールスとしてMayaなどの3DCG製品を担当。

池田 大樹 さん(写真左)
株式会社ボーンデジタル 執行役員 
2007年3月、東京大学文学部行動文化学科卒。2024年8月、ボーンデジタルの執行役員に昇格。CGWORLD事業部長。それ以前はCGWORLDでプロモーションの企画営業を担当。

聞き手:
中野 里穂(TELLIER)
小勝 健一(DHUnote編集長)
山本 綾乃(DHU入試広報)




企画変更のきっかけとなった「予言書」

——「デジタルハリウッドの30年」という特集記事が組まれることになったきっかけを教えてください。

新:僕はデジタルハリウッド専門スクール(以下、スクール)の卒業生なんですよ。もう20年以上も前のことだけど。卒業後もこの業界で働いていたので、デジタルハリウッドのことは気にはしていました。

2021年11月に杉山先生がALS(筋萎縮性側索硬化症)の診断を受けたというお知らせが出たじゃないですか。そのときから、えっ、杉山先生は今どんな状態になっているの?っていうのがずっと頭の中にありました。

2024年3月、デジタルハリウッドの卒業生も数多く所属する白組が『ゴジラ-1.0』でアカデミー賞を受賞したときも、そういえば、と思ったんですよ。杉山先生はこのニュースをどう感じてるんだろうと。こういうことを成し遂げられる人材を生み出すために学校を作られたんじゃないのかなと。

デジタルハリウッド卒のクリエイターって、この業界には本当にたくさんいるんです。それで周りにもいろいろ聞いてみたんですが、やはり卒業してしまうと「今」については誰も知らない。であれば、直接CGWORLDで杉山先生を取材したいと思ったのが発端です。

表紙には、AI生成による背景をLED投影して撮影した杉山学長の近影が起用された

——発案当初はどのような企画をされていましたか?

池田:デジタルハリウッドが設立から30年目ということで、日本のCG史、デジタルクリエイターの歴史とともに、デジタルハリウッドの歴史を振り返ろうと思っていました。それで、事前準備として杉山学長の『デジタル・ストリーム』を読んだら、これがまあ面白くて。

新:全員ぶっ飛んだよね。これ、予言書だろ、と(笑)。今読んでも古臭さは1ミリもなく。

『デジタル・ストリーム』
(原著は1994年、NTT出版。新装版は2022年、デジタルハリウッド・パブリッシャーズ)


池田:
杉山学長は、誰もがデジタル上でいろんな人格を持って自己表現をする時代が来ることを完全に予期していたんですよね、1994年の時点で。

ちょうどこの特集が発売される2ヶ月前、2024年9月号(vol.313)のCGWORLDでVRChatの特集をした際、この領域にはまさに天才たちが集結していると実感しました。YOYOGI MORIのように高級ブランド顔負けのコンセプトとディテールで作り込まれたアバター服飾ブランドがあったり、QuickBrown Design Studioのようなラグジュアリーで没入感あふれる空間をデザインするアーティストがいたり。

こういう世界が、30年前の杉山学長には相当高い精度ですでに見えていたんじゃないかと。ビックリしましたね。

新:2024年10月号(vo.314)の特集では、宇宙開発関連のベンチャー起業家でもある佐藤航陽さんに、現実世界で収集したデータを双子のような精度で仮想空間に再現する「デジタルツイン」について語ってもらいました。まさに3Dビジュアライゼーションの最先端を行く内容だったのですが、一方で『デジタル・ストリーム』には「CGを作るってことは仮想空間を作ること。つまり、世界を作ることなんだ。デジタルハリウッドは日本でそのリテラシーをつけるための学校なんだ」「デジタルハリウッドのしたいことは、本場ハリウッドの会社に就職するとかそういうことだけではない」みたいなことが書いてある。デジタルがさまざまな産業に広がっていくことをこの時から予見されていた。

今でこそSNSやVR、デジタルツインなどが実際に何なのかがみんなわかっていますが、当時はあの本を読んでもほとんどの人が理解できていなかったんじゃないですかね。

——デジタルハリウッドを「CGやWebのスキルを身につけるための職業訓練校」のように考えている人にとっては、衝撃的な内容かもしれません。

新:卒業生である僕ですら、デジタルハリウッドに対して持っていたイメージがまさにそうでしたからね。でもこの本を読んで、「ああ、杉山先生はそんなことを考えていたのか!」ということを知って、そこからインタビューの方向性を大きく変えました。

デジタルハリウッドの社名の由来や、大学を設立していく流れなどは、この本を読めば一発で理解できるのですが、知らない方、誤解している方がほとんどだろうと思われたので、まずはそれを伝えるべきだろうと。また、杉山先生が人生を賭けてやってきて、ALSになってもなお成し遂げようとし続けているものは何なのか。それこそが今聞きたいことだと思い、質問を準備していきました。

CG専門誌が見たデジタルハリウッド

——結果、50ページに渡る特集記事が公開されたわけですが、取材を通してお二人の目に、デジタルハリウッドはどのように映りましたか?

池田:デジタルハリウッドを卒業したみなさんは、人生を自分ごととして捉えている人が多いというか、20代くらいで自分はこっちの方向性に行くんだっていう強い意志がないとできないような選択をしているなと感じました。特にデジタルハリウッド創立期に通った卒業生は、CGを扱う仕事がきちんと確立していない中で、その仕事に就きたいと考えた人も多い。そういう時点で、みんな人生をかけてデジタルハリウッドに入学しているんですよね。

3DCGをやるためには、PC1台の値段が300万以上、ソフトも100万するような時代ですから、とても自分では買えないけど、授業料100万で使えるならむしろ安い。そういう感覚を持った人たちが多かったんでしょうね。あと、仕事がどうこうとかではなく、ただ楽しいからやってますという人たちが日本の未来について楽しそうに話していて、クリエイティブの本質を突いているなと。

デジタルハリウッド開講当時の様子。杉山学長もPhotoShopなどの授業を担当していた

新:巻頭の杉山先生へのインタビューでは、聞き手として広川ひろしさん(スクール本科1期生、ニンテンドーピクチャーズ代表取締役社長)に入ってもらい、『デジタル・ストリーム』執筆当時の未来予想や、2024年現在の心境について語ってもらいました。

ALSということで対面だけではなく、Facebook Messengerを用いた活字でのインタビューを行ったのですが、こちらが質問を投げると、次の日にはバババババーっと長文で返ってくるんです。しかも、日本語もめちゃくちゃきれい。視線入力なのは理解していたんで、時間は結構かかるんだろうなとは思っていたんですが、まったくそんなことはなく、普通の方よりレスポンスが圧倒的に速いという(笑)。それにも本当に驚きました。

——視線入力専用のツールを海外から取り寄せて、iPadで入力しています。従業員とのコミュニケーションもslack上でほぼ完結していますし、ご家族や秘書、ヘルパーさんの力を借りながら学内外のイベントにもあちこち足を運んでいます。

新:あれを見たとき、やっぱり30年前からまったく変わっていないんだなと思いましたね。時が流れても、ALSになってもぶれていない。

インタビューの最後に、30年前はまだあまり描かれていなかったAIの未来について語ってくれたのですが、これからもデジタルの中でも生きていくんだ、という覚悟を感じました。是非CGWORLDだけでなく、杉山先生の著書『デジタル・ストリーム』も読んでほしいです。これを読んだら杉山先生がどれだけ業界のため、いや日本の未来のために人生を捧げてきたかがわかります。むしろ、もっと早く取り上げるべきでした。

CGブームの再来

——DHUnote取材班としては学部の在学生や卒業生の活躍が気になるところですが、取材を通して受けた印象はいかがですか?

池田:僕が直接インタビューしたわけではないのですが、特集記事を通じた印象としては、DHU生は「じっくり時間をかけて表現やCGを研究している人」なんだな、ということ。たとえば学生アカデミー賞を受賞した金森慧さんは、在学中からいくつもの作品が注目されていましたが、すべての作品がいつも新しく感じるのは、技術のレベルがつねに進化しているからだと思います。

金森さんは2022年にDell(デル・テクノロジーズ株式会社)とCGWORLDが共催した「ステイホームVFX」にも応募してくれました。「自宅で撮影した動画素材を基に、CG・VFX技術を駆使して自由に作品を制作した作品」がお題だったんですが、金森さんの作品は、ルービックキューブが立体化して、それがぽろんと画面から落ちてくるという作品だった。

「単調な日常風景にCGで驚きをもたらしてもらいたい」という主催側の狙いをつかんだもので、そのアイデアと実現する技術力の両方に驚きました。先ほど、DHU生について「CGを長く研究できる環境で能力が培われた人材」という印象を述べましたが、じっくり技術に向き合うことができるから、こういった作品が生まれたんだろうなと感じます。

コロナ禍をきっかけにCGを学ぶ人は急増しました。この間も「Blender Fes」というBlenderユーザーのためのオンラインイベントを開催したんですが、そこでBlenderユーザーになぜ始めたのか、いつ始めたのかを聞くと、8~9割が「コロナ禍」と答えた。中学生や高校生だけでなく、今までファッションや広告の業界にいたけれど、CGを覚えて新しい表現を身につけたいという社会人もいました。そういう人たちがCGをしっかり学びたいとなれば、デジタルハリウッドを選ぶのが自然だろうと、取材を通して感じました。

——CGの間口が広がったことについてはどのようにお考えですか?

池田:大歓迎です。今までとは違う作り方をしている人が増えていて、“野生の天才”って本当にいるんだなと。これまでは「CGをやっている人は"職人"は多いけど、"作家"は少ない」といわれがちでしたが、こうした状況は変わりつつあると思います。

中学生でも高校生でも才能のある若者が出てきているし、これまで引きこもりだったけどCGを覚えて作品を世に発表する人も登場してきている。2000年前後にデジタルの個人作家がたくさん登場してきた時代があると思いますが、改めて、個人の活躍が注目される時代になったのではないかと思います。

新:Blenderの台頭で、お金がかからずできるようになって間口が広がりましたよね。今では中高生も多くなってきてますし、その中で専門学生より上手い方もいるし、最近はプロも震えるレベルの作品がどんどん出てきてる。

アニメやゲームのような今までのエンタメコンテンツだけじゃなく、建築や製造業にもCGはますます普及していくでしょう。CGができればどんな業界にでも行ける時代が、すぐそこまで来ています

たとえば自動車会社でも、自動運転やHMI(ヒューマンマシンインターフェース)の設計・デザインの過程で、一般にはゲームエンジンとして用いられているUnityやUnrealEngineといったツールを使うようになっている。実際、ゲーム業界から転職してくる方もいらっしゃいますし。

国土交通省の「PLATEAU」も面白いですよね。日本全国の都市をデジタルツイン化するプロジェクトですが、推進役である国交省で働いている方にもBlenderを触っている人がいる。エンタメの世界だけではなく、まさに社会全体でCGによるイノベーションがあちこちで起きている。

あとはファッション。普通、洋服は型紙から作られますが、「アパレルCG」といって、販売するウェアをすべて3DCG化することで、サンプルの制作から展示会、ECサイト掲載まで、すべてのモデルをデジタル上で制作するケースもあったり。

池田:「宇宙デジタルツイン」のニュースからもわかるように、宇宙開発にもその技術が応用されています。つまり、あらゆる産業でCGが使われ始めてきている。「CGなんてよくわかんない仕事に就くんじゃないよ」って長年言われてきましたが、CGの技術や経験さえあれば今やどこにだって行ける可能性が出てきました。

高等教育とクリエイター育成

——CGの可能性に、私たちも改めてワクワクしてきました。CG業界を長年見つめてきたお二人から見て、クリエイター育成という観点から、いまの教育業界に求めるものはありますか?

池田:スーパーサイエンスハイスクール(SSH)や情報系の学科のある工業高校をはじめ、さまざまな高校と接点を持ちたいと思っています。

新:プログラミング教育に力を入れているところは多いですし、小中高でも「Unity教えます」みたいな学校もある。でも、どこもデザインとかグラフィックの観点が抜け落ちている気がします。プロダクトって、いわゆるUI/UX、よいデザインやグラフィックありきで始めないと広がらないじゃないですか

池田:そうそう。スペースデータさんの手がける宇宙デジタルツインのように、重力、風量、気温、光量など宇宙特有の条件を再現しながらも、ビジュアル的にもわかりやすいものって、これまではなかったんですよ。国交省のPLATEAUもめちゃくちゃデザインにこだわっていて、デザインの高さから誰でもアクセスしやすい状態を担保している。

新:プログラマーも重要だし、技術のある人も必要なんだけど、それだけだとプロダクトは作れない。だからこそ、学生の時にプログラミングだけでなく、CGやデザインの知識も学んでもらった方が、今後幅が広がるかなと。大谷選手の二刀流じゃないですけど。

DHUのように1つの学部・学科でデジタルスキルを横断的に学べる学校から、どっちもできる人たちがいっぱい出てきてくれたらいいなと思っています。CGの制作会社に入る選択肢だけではなく、たとえば一般の事業会社で3Dを使ったプロジェクトを始める。そういう人材をDHUがたくさん出してくれると、面白い世界になっていくんじゃないですかね

大学生の段階で「3DCG技術はこういうところにも使えて、いろんな業界のイノベイティブな取り組みに役立つ」とわかっていれば、進路の選び方も変わってくるんじゃないかと思うんですよね。

池田:CGって、フォローしている領域がすごく広い。CGの役割として現実のシミュレーションをするってことが基本にあるから、理工学、アート、物理学、歴史学などいろんな学問が自然と関連してくる。4年という時間をかける価値のある学問だと思っています。

メディアライブラリー(図書室)に収蔵されていたCGWORLDのバックナンバーを読むお二人。創刊当初とは雑誌のつくりや企画の立て方も変化している

次世代への期待

——クリエイターを志す学生に対する期待はありますか?

新:最近の10代は、僕らより圧倒的に優秀だと思うんですよ。彼らの作品を見ただけで、学習方法が変わってきているんだなと感じます。だって、インプットの量が僕らの世代と全然違うじゃないですか。

僕らの若い頃って、なけなしのお小遣い3,000円でようやくCDアルバムを1枚買うみたいな時代だったけど、今はサブスクで月1,000円ちょっとあれば聴き放題。映像コンテンツだって無料・有料問わず溢れているし、みんな倍速で見てたりする。期待がどうっていうより、すでに僕らを超えているんじゃないかっていう感覚の方が強いですね。

池田:この間、中学生のクリエイターにインタビューをして、進路はどうするのと聞いたら、東大を受けたいと言うんです。でも、塾には行っていないと。どうやって勉強しているのか聞いたら、ChatGPTに問題を作らせて解いていると言っていました。

新:そんな感じで、僕らのアドバイスなんて役に立たない時代だから、せめて邪魔はしちゃいけないなと思うんです。スポーツ界なんかも世代が変わって、日本の選手が世界で活躍しているじゃないですか。

僕らはCGWORLDという媒体を通じて、若いクリエイターが輝く舞台を作ってあげることはできるので、あとは見守ってあげるだけでいいんだろうと思います。

——高校生やDHUの在学生に向けてエールをお願いします。

池田:デジタルハリウッドのわちゃわちゃした感じをまずは楽しんでほしいですね。勉強がーとか就活がーとか、いろいろあると思うけど、せっかく4年間もあるんだから。

新:仕事でも結局それが求められますよね。楽しんでいる人が強い。

池田:「仕事=つらい」という謎の誤解がありますよね。勉強も遊びも仕事も、面白いものは面白い。新しいことを生み出すために、寝るのも食うのも忘れて没頭したことって誰しもあるはず。その気持ちを忘れないでほしいなと思います。

新:vol.315を発売したあとにSNSで感想を眺めていたら、地方の学生らしき読者が「こんな学校があったら行ってみたかった」って書いていたんです。こういう熱とかマインドが大事ですよね。

池田:DHUには、そう思われる大学であり続けてほしいなと思います。いまの在学生は、杉山学長の言う「The Great Transition」にDHUに入学した初めての学生です。30年前にデジタルハリウッドに入った人たちと同じように、みなさんも杉山学長と一緒に、次の未来を予測しながら生き抜いていってください。

新:スポーツは明らかに強くなっていますし、コロナ以降、アニメをはじめとした日本のカルチャーも急速に世界に浸透しているのを感じます。日本の状況は明らかに上向いてきていると思うので、この機会を逃さずに世界を意識しながら暴れまわってほしいですね


いかがでしたか?

新社長、池田さんのお二人には、デジタルハリウッドの歴史を踏まえながら、3DCGの専門誌を扱う業界人ならではの視点で、クリエイティブ業界の今後について熱く語っていただきました。次世代を支える高校生・受験生のみなさんにとっても刺激的な内容になっていれば幸いです。

DHU公式noteでは今後も、デジタルコンテンツと企画・コミュニケーションに携わる在学生・卒業生・教職員の活躍をお届けしていきます。「フォロー」がまだの方はこの機会にぜひ。本記事への「スキ」もお待ちしています。

最後までお読みいただきありがとうございました!

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