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読書感想文 山崎史郎『人口戦略法案』

樫田光さんのnote 非常に素晴らしい少子化問題のまとめ

この中で紹介されていた本が、山崎史郎さんの「人口戦略法案」である。
非常に興味があったので、早速読んでみた。
忘れないうちに感想と考えを残しておく。


日本の未来を描く「人口戦略法案」

山崎史郎さんの「人口戦略法案」を読んだ。小説形式ではあるが、官僚として研究した日本の少子化問題に真摯に向き合った政策提言だ。
小説のなかでは、官僚の仕事ぶりや政治家とのやり取り、マスコミへの不満などがリアルに描かれている。実際、官僚の視点から見た彼らの思いと、マスコミや国民の認識の乖離、そして政治の中で消えていった数々の良いアイデアがどれほどあったかと考えると、複雑な思いに駆られた。

少子化は国家の危機

少子化対策は、国の存続にかかわる危機的課題だ。超高齢社会は経済の停滞だけでなく、世代間の対立を深め、最悪の場合、民主主義の基盤さえも揺るがしかねない。本書ではこうした危機感が明確に示され、早急な対策の必要性が強調されている。

子育て支援の新たな視点

この政策の肝は、育児支援を、総合的な社会保障へと転換するアイデアだ。現行制度では給付が雇用政策によって行われるため、非正規雇用者や自営業者が支援を受けにくい。これが出生率低下の一因となっているということだ。そこで、新制度では、全ての人が恩恵を受けられる社会保障として、経済的支援とサービスを受けられるようにする
さらに、保育の無制限な拡充ではなく、育児休業や短時間勤務の充実により、保育現場の負担と保護者の直接的な子育てのバランスを図るというアイデアや、医学的根拠に基づくライフプランの啓発など、出会い、結婚、妊娠前から子育てまでを網羅する一貫した支援体制を提案している。これらの対策は、現場の声を反映した実践的なアプローチとして語られている。
子育て支援の財源としては、すべての大人が平等に負担する「子ども保険」が提案される。作中、百瀬統括官(おそらく著者自身がモデルだろう)は「介護保険」の立ち上げに貢献した人物だが、高齢者対策に気を取られ、これまで十分な少子化対策を行えなかったと反省する描写がある。だから、次は子どもの支援だと。考えてみれば、持ちつ持たれつ、「お互い様」でいいんじゃないか、なんて、単純に思ってしまう。

地方創生の視点

少子化は地方創生にも絡んでくる問題だ。地方での教育、就業、生活環境の整備、コミュニティの有り様により、東京圏への人口集中を緩和し、ひいては国全体の出生率向上につなげようということである。私の住む地域も早々に消失してしまうと考えられる地域のため、個人的にはこれが最も関心のある問題だ。
子どもを増やすこと。流出を少なくすること。Uターン率を上げること。加えて、Iターンを多く獲得すること。これらを続けて、年代のバランス取りながら人口を維持することがゴールである。しかし、作中で結論を出せなかった移民の問題が、地方への移住についても当てはまる。言葉こそ通じるが、コミュニティの同化や分断、多文化共生の問題、世代間ギャップなどが、移民問題と同じくらい複雑な様相を呈している。そして、マジョリティである高齢者コミュニティが圧倒的な発言力を持ち、労働力である若者を使役するという、著者が警鐘を鳴らす将来の光景が、すでに私の周りには広がっているのである。

日本の未来を考え、共に描く

人口戦略の核心は、その解決に向けた「緊急性」だ。そして、人口問題の複雑さと重大性を十分に理解し、国民一人一人が、今、未来のために何ができるかを真摯に考え、「行動に移す」ことだろう。
当たり前だが、多く産み育てることが義務なのではない。地方に移住することが義務なのではない。移民や移住を受け入れることが義務なのではない。親が子を、子が孫を、すべての大人が次世代のために考え、今すぐできることを実践するという視点が重要だ。
この8月には、現在内閣官房参与を務めている著者らが、「人口問題やこども・子育て支援のための気運醸成に向けた実行計画」を策定することが発表された。「社会全体で子ども・子育て世帯を応援する気運を高めていく」という。まさに、この本に記されているとおり、社会全体の構造や国民の意識を変えるために取り組みを、著者は実践している。
「人口戦略法案」は、将来への指針であるだけでなく、モチベーションを与えてくれる良書だった。読み終えたばかりの、この切迫感と少しの希望を、早く誰かと共有したくてたまらない。


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