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2023-2024 インド圏向けOnline布教の試み


◆ 発端

2023年04月に渡印した時、コルカタの日本山妙法寺甲谷陀(コルカタ)道場に来ている青年たちから、『妙法蓮華経』の日本語発音を教えてほしいと言われた。その場で「自我偈」「観音偈」「五番神呪」の、彼らの発音を補正した。その時、オンラインで継続的に教えてほしいと依頼された。彼らとは以前からの知り合いで、全員ベンガル人。甲谷陀道場を毎日のように訪れ、朝夕のお勤めに参加したり道場の行事の手伝いなどをしている若者たちである。
現在の甲谷陀道場の主任・ツェリンさんはダージリンのチベット系ネパール人で、漢字は読めない人。

帰国後、Facebook messenger で懇請され、Zoomで、発音練習を継続した(オンライン・レクチャー)。

オンライン・レクチャーでは、一人一人に対して発音練習を行いつつ、次に、法華経の意味を知りたいと望まれたので、『(鳩摩羅什漢訳の)英訳 The Lotus Sutra translated by Senchu Murano [第3版]』 を、少しづつPDFファイルにして配布し、おおよそ『要品』に相当する部分の解説をすることになった。

参加者は、最初は3人。後に甲谷陀道場の他の青年たち、デリー道場の青年、その親戚のシッキム在住の家族、1回だけの参加者など、6人 - 14人ほどであった。全員、お題目を楽しく唱えている人たちである。残念ながら、サールナート日月山法輪寺など日蓮宗寺院からの参加者はいなかった(連絡が行き届かなかったからもしれない)。

参加者は、IT技術者や、大学で化学を専攻している人、学校の英語の先生など。使用言語は、テキストは英語、レクチャーはヒンディー語、議論はヒンディー語、英語、ベンガル語でやりとり。参加者のリテラシーは非常に高く、母語のベンガル語に加え、英語、ヒンディー語が達者。高校時代に選択科目としてサンスクリット語やパーリ語を学んだ人もいた。

◆ オンライン・レクチャーでの体験

最初の「序品」では、名称がたくさん出てくるので、対応するサンスクリット語を紹介するのに、『ケルン南条版サンスクリット語法華經』とその『ヒンディー語訳』を紹介した。その先の「方便品」や「提婆達多品」のレクチャーの時にも、英訳と同時にそれらを参照することになった。地名や登場する仏弟子、菩薩や天子、龍王などの名称の、漢訳、英訳と、サンスクリット語との違いにこだわる人がいて、個々の単語について厳密に議論するようになった。「方便品」でも、英訳とサンスクリット語との違いがクローズアップされ、非常に細かいレベルでのオンライン・レクチャーになっていった。

レクチャーが進むにつれて、「木を見て森を見ない」どころか「枝や葉っぱの細かい形態にこだわって樹木すら見ない」ような議論が多くなってしまった。立派な学術研究的な時間にはなったが、細かいことにこだわる議論が多すぎて、各品がどのように描かれているか、理解にレベルを設けて、法華経の全体像をまずは大局的にお話しすることが先であったかな、と、反省する次第である。

これはしかし、インドでは「仏教のおしえ」は学校で習うし、法華経発祥の地としての母国意識もあり、サンスクリット語法華經(ケルン南条版)を主として、鳩摩羅什の漢訳やその英訳はサンスクリット語の翻訳である、と認識しがちである。何度か、お題目は『鳩摩羅什の漢訳 妙法蓮華経』のお題目であること、『ケルン南条版 サンスクリット語法華經』は、近代に再発見され校定出版された、新しいテキストであると、ブレーキをかけることがしばしばあった。

オンライン・レクチャーはけっこう盛り上がり、2024年11月までに、16回行われた。

◆ 開教と布教

インド国内の法華系の寺院・布教所には、各地の日本山妙法寺(仏舎利塔)や、サールナートの日月山法輪寺、ボドガヤの太生山一心寺ブダガヤ分院、印度山日本寺、仏心寺、ナグプールの妙海山龍宮寺、禅定林パンニャ・メッタ・サンガ(天台宗)、南インド・コダイカナルの菩提禅堂などがあり、霊友会や創価学会も各地に布教所を持っている。夏や冬にニューデリーで催されるインド独立式典や共和国記念祭典に、団扇太鼓の練供養が登場したこともあるし、マハトマ・ガーンディの命日や生誕日でのインド国の(宗教者による)公式行事は「唱題」で始まるなど、すでに「開教」段階は超えていると思われる。

唱題行から一歩踏み込んで、妙法蓮華経の理解や御遺文の紹介など、日蓮聖人をフォーカスした「布教」のためのインド人向けの教材は、日蓮宗から発行されているかどうか、確認できていない。
立正佼成会からは、定期的にヒンディー語通信が発行されている。
ヒンドゥーイムズは、神々を称賛して利益を得る傾向の強い宗教であり、その枠に物足りなさを感じている高学歴のインド人は多数存在する。インド人のリテラシーは非常に高く、瞑想やチャンティングはポピュラーなので、これらを組み合わせて「布教」していくことは、たいへん重要。

◆ まとめ インド事情

・インドは国土が広いので、オンライン布教は大変有効。
・オンライン布教は、既成の宗教の枠や、通っている寺院とは関係なく参加することが可能なため、いろいろな意味で好評であった。
・インド(に限らず西洋世界)では、高学歴者を中心に、仏教ブーム。
・御題目は「鳩摩羅什漢訳 妙法蓮華経」を基としているので、その理解の補助として「ケルン南条版サンスクリット法華經」があるという枠組みを説明する必要がある。
・逆に、サンスクリット語法華經があるので、細かい差異についてこちらが十分理解し、活用していけば、たいへん効果的。
・「布教」活動に必要な教材としては、法華経の全体像をわかりやすく語ったテキスト(例えば、『民話風法華経童話 全30巻 by 松本光華 (中外日報社/ ダイワアート) 』など)をヒンディー語に訳したものが欲しい。彼らに読み物として提供したい。
・インド人は好奇心が強いし、躊躇なく質問・発言するので、レクチャーが楽しい。
・創価学会の池田大作氏がお亡くなりになり、創価学会のメンバーが何度かアプローチして来た(けれど、多分、定着はしないだろう)。インドでの信徒数はとても多い。私の感触では、彼らはお題目を唱えるけれど、法華経は方便・自我偈を読むだけで、理解しようという気概はあまり感じない。むしろ池田大作氏の著作を読み回している集団、という印象。
・インドには、阿弥陀信仰がない。これは、東南アジアでの阿弥陀信仰、特に台湾の台北・台中法華寺が阿弥陀信仰を主にしているのとは対照的である。また、植民地支配から自立したインドでは「立正安國論」はとても語りやすい環境がある。
・東南アジア、中華圏から膨大な「仏蹟巡礼者」がやってくるようになり、佛蹟地の在り様は一変した。日本人の存在感は希薄。
・佛蹟地での主要な仏教は、テーラワーダ仏教(パーリ語)とチベット仏教(チベット語)。年間を通したオンラインの講座がたくさんあり、リアルなレクチャーや講師との対面のために、(冬のシーズンに)非常に多くの信徒が佛蹟地に押し寄せている。
・Zoomでのレクチャーは、時差があるので、結構たいへん。

・これらの事象・事情を鑑みて、妙法蓮華経をヒンディー語(と英語)で語る「短めのヴィデオ」を作成し、事前にアップしておき、その範囲内でレクチャーをするのが良いと感じている。
・初歩の段階なので、あまり微に入り際にいる議論にならないようなテキストを基にして、レクチャーを構成したい。
・大らかに妙法蓮華経の大意を言葉にしている『民話風法華経童話 全30巻 by 松本光華 (中外日報社/ ダイワアート) 』はどうであろうか。ゆっくり・じっくり、インド世界を想いながら、ヒンディー語に翻訳してみようと思っている。

・2025年2月、3月は渡印し、さらにスリランカ訪問するので、五月の連休明けくらいから、オンライン・レクチャーを再開したいと考えている。

(以上)

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Dharmadas聖河微笑
日本/東南アジア/インドを彷徨するノマド型僧侶[修行者]。人生前半の回想録を書いています。出会った人々、出会った書物、得難い知識、生きる技など、思い出したら直ぐに、ここに書き置きいたします。