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日蓮宗国際布教拠点ペナン一念寺での体験
2023年10月に発行された、日蓮宗興統法縁会の機関誌『興統 第43号 』に、寄稿した記事が掲載されてありますので、公開いたします。(当時)法縁の方とは初対面になるかもしれなかったので、最初に自己紹介を書きました。
また、幾つかの点で原文を拡張いたしました。 原文を書いたのは2023年です。ペナン一念寺は、その後、移転しました。
アジア仏教の現在(その一)日蓮宗国際布教拠点ペナン一念寺での体験
01 はじめに
2020年07月、パンデミックで世界中が混乱して以来、約2年半ぶりに日本を出国し、シンガポール題目寺、マレーシア・ペナン一念寺の信徒さんと再会しました。両国ともに一時期非常に厳しい外出制限、スマホアプリによる「行動登録義務」が課せられていたので、災禍が過ぎ去り、日常生活が復活したことを、殊の外喜び合いました。
私は1989年、インド政府奨学金留学生として「インドの石造建造物(主にヒンドゥ寺院)の研究」をテーマに、インド・コルカタ大学古代インド史文化学部大学院博士コースに留学しました。留学したと同時に、コルカタの日本山妙法寺にてお題目に出会い、当時サールナート(初転法輪の地)で「日月山法輪寺」を建立中だった故佐々木鳳定上人に出会い、また『梵語法華經(ケルン・南条版)』とその『ヒンディー語訳(ジャヤ・ゴヴィンド博士訳)』に出会うことによって、法華イズム・日蓮ブディズムの道に入っていきました。
2000年04月、信行道場に入場し、上原山船守寺住職・故佐々木妙定上人の弟子として、日蓮宗教師にさせていただきました。
教師となった後も日本とインドとを行ったり来たりしておりました。2017年、マレーシア・ペナン島にて厳修された「宗祖降誕800年慶讃記念大会」に参列させていただいたことをきっかけに、翌年、国際布教師養成研修生に採用されペナン一念寺に派遣されました。
2019年、国際布教師となりペナン一念寺主任に任命され、この地に赴任しております。
ペナン一念寺の信徒さんは全員が華人で、主に福建、潮州、広東にルーツを持つ方々です。元々は創価学会員としてお題目に接していましたが、日蓮正宗からの分離をきっかけに、お寺ごと日蓮宗に入られたという歴史をもっています。日蓮宗国際布教拠点となって今年で21年目、建物の寄進を受け、現地法人の運営は安定し、会員数は毎年増加傾向にあります。
これまでインド世界(ヒンドゥーイズム、現代インド・ブディズム)にどっぷり浸かっていた私ですが、ペナン一念寺に赴任して、新たに「漢字文化圏 Sinosphere 」の信仰世界に接することになりました。
ペナン一念寺のあるマレーシア国は、イスラム教の国です。多数派のマレー人(イスラム教徒 61%)への優遇措置(ブーミプットラ政策)があり、それを認めることと引き換えに、おおよそ寛大な宗教政策がとられています。華人系は仏教徒(20%)、キリスト教徒(9%)、インド系・ヒンドゥ教徒(6%)と、多様な民族、宗教、文化が混在した社会構成になっています。一念寺のあるペナン島では、華人の割合(41%)はマレー人と拮抗し、経済力のある華人の多大な寄進によって、島内には多数の仏教寺院や宗族(氏族)会館があります。
私は、日蓮宗『宗報 令和4年1月号』に、インド仏跡地の歴史的経過と現状について、執筆させていただいたことがあり、その中で、近年膨大な東南アジア・台湾の仏教徒による巡礼行によって、インドの仏跡地は活況を呈している事を報告いたしました。国際布教師になってペナン一念寺に赴任することになって、膨大な巡礼行の人達を送り出している東南アジア側の現在の状況、信徒さんの信仰のあり方などに触れる機会を得ました。
前置きが長くなりましたが、雑誌『興統』の場をお借りいたしまして、経済力の増大著しい「インド・東南アジア」における「仏教」「仏教徒」の動向、「法華仏教」のあり方について、報告させていただきたいと思います。
02 ペナン法華山一念寺の日曜信行会
一念寺のあるペナン島北東部ジョージタウンは、大英帝国東インド会社の建設した植民地都市として、港を中心にショップハウス(華人式町屋建築)が立ち並び、その歴史的価値が評価されて、世界遺産都市に指定されています。
お寺は街中にあり、4階建てのビルを所有しています。1階がメインホール、2階はダイニングホール、3階はレクチャーホール、4階は宿泊ホールとなっていて、屋上は鋼板で覆われた屋根があり、一角に位牌堂があります。一念寺には墓地(の敷地)、納骨堂はありません。会員制度があり 200 名ほどが登録されています。毎週日曜日に開催される「信行会」と「昼食会」には毎回 70 名ほどの会員が集まり、信仰を深め会員同士が交流する場となっています。
会員の結束は強く、その基本となっているのが全員参加型である「信行会」です。これまでの国際布教師によるご指導によって『勤行要典』が出版されていて、「信行会」は、道場偈から奉送まで、宗定法要式に則った式次第で進められていきます。
「信行会」では、勧請文と祈願回向文以外、聲明も含めて参加者全員でお唱えする点に大きな特徴があります。読経も、方便・自我偈だけでなく、神力偈、観音偈、陀羅尼咒も毎回全員で読みます。日蓮聖人の重要な行事の時には、如来壽量品を長行から読みます。通夜葬儀・追善供養の時には、提婆達多品も(真読で)読みます。
03 ことば
読経は、日本語で読まれます。漢字文化圏なので、日本人布教師と現地華人信徒とは「漢字」という文字(メディア)を共有していますが、その発音は異なります。実は華人と言っても、福建人、広東人、客家人、潮州人、海南人など、それぞれ独自の発音体系を持っていて、方言以上に差異が大きく、会話は成り立たないそうです。ですので「漢字で書かれたテキストとしての法華経」を皆で共有しますが、発音は共有していません。それ故に、なおさら、信行会の時、皆で一緒に日本語で「聲明を唱え」「(真読で)法華経を読み」、その日本語発音を共有していることで、非常に大きな共通感覚が生まれています。『勤行要典』の法華経各品には、各漢字に真読発音がラテン文字で添えられています。
いわゆる中国語とは、歴代王朝の首都であった北京の官語(マンダリン 普通語 Pǔtōnghuà)を指していて、大陸で日常会話で使われている多様な言語のひとつに過ぎません。ペナンでは日常会話は福建語や広東語、客家語が使われています。華人が華人学校で教育を受けた場合、普通語の発音で、漢字の読み書きができるようになります。英語、マレー語の学校に通った場合、相当努力して自習しない限り、華人であっても漢字の読み書きはできません。この場合『勤行要典』のラテン文字を読んで発音しますが、「意味」を共有することはできません。
家庭訪問をして話を伺うと、学校で漢字を習った人は、自宅の仏壇では『勤行要典』を(ラテン文字表記には従わず)普通語の発音で読んでいます、と答える方がしばしばです。華人信徒の間では特に法華経の『薬王菩薩本事品第二三』と、『陀羅尼品第二六』の人気が高く、多くの方が家庭の仏壇では、普通語の発音によって、長行・偈・神呪を唱えているようです。
ペナン一念寺の信行会では「開経偈」と「宝塔偈」は英語訳で唱えます。シンガポール題目寺などでは、英語訳の後に漢字テキストを普通語で読みます(日本語の真読発音はいたしません)。「勧請文」と「祈願回向文」は導師が単独で英語で唱えます。
信行会において、「意味」を共有することを重視するか、「発音」を共有することを重視するか、これまでの国際布教師の方々は、このような複雑なことば事情を理解して、よくよく吟味されて『華人版勤行要典』を作成されたのだなと、感服致しております。
インド文化圏では、(北インドの場合)サンスクリット語やヒンディー語はデーヴァナーガリ文字で記述します。デーヴァナーガリ文字は発音記号と言っても良いくらい、文字と発音は一体化していますので、上記のような問題は発生しません。
04 お題目・なまえ
漢字(というメディア)は「書体とその意味」を共有するけれど発音は共有しない、という「漢字文化圏」特有の性質は、実は重大な問題を提起します。日蓮宗にとって最も大切なことばである、お題目 「南無妙法蓮華經」は、日本語で「なむ・みょうほう・れんげ・きょう」と発音します。しかし普通語では、南無妙法蓮華經と書いても、「な・も・みゃおふぁー・りぇんふぁー・じん Námó miàofǎ liánhuá jīng」と発音します。実際、ヴェーサク祭(南伝仏教では、旧暦四月の満月を仏陀降誕・成道・涅槃会として盛大に祝います)で、玄題旗を掲げ、山車行列を伴って街を練り歩く時、一念寺行列隊は「なむ・みょうほう・れんげ・きょう」とも唱えますし、「な・も・みゃおふぁー・りぇんふぁー・じん」とも唱えます。祭礼の日、ペナンの街の沿道に参拝・見物に集まった人々が、玄題旗に書かれた御題目を眼にして発音するのは普通語だからです。
日蓮聖人の御名前は、日本語では「にちれんしょうにん」ですが、普通語では「るーりえん・しょんれん Rìlián Shèngrén」となります。信行会での法話や会員同士の会話では、聖人の御名前は日本語発音です。しかし華人社会一般では「日蓮聖人」の御名前は「るーりえん・しょんれん」であって、こちらが「にちれんしょうにん」とお呼びしても、理解されません。
冒頭に書きましたように、創価学会が日蓮正宗から分離した時、東南アジアの御題目信者の間に大きな動揺がありました。日蓮宗に帰属したグループはごく一部で、創価学会、あるいは日蓮正宗にそのまま所属する信徒団体の他に、日本側にはもはや所属しないで独立していったグループもあります。これらの独立グループの方々は「日本語発音」を放棄しているのが一般的です。法華経は普通語で読まれています。そして、もはや「な・も・みゃおふぁー・りぇんふぁー・じん」としか唱題せず、聖人の御名前、六老僧の御名前も普通語の発音でしか理解していないので、訪問して唱題するにしても、法話の中で語る時でも、発音を共有して同志感覚を育むのは困難になってきております。
漢字文化圏では「漢字の書体とその意味」を共有しますが、「発音」を共有することができないのと同時に、その「発音」を漢字で書くのも困難ですので、結局、発音はラテン文字で書くことになります。実際一念寺の『勤行要典』はすべての漢字にラテン文字で発音が示されてあります。
この事実をさらに深追いしていきますと、鳩摩羅什が『漢訳妙法蓮華經』を完成させていく過程において、原典となるインドの言葉(サンスクリット語あるいはガンダーラ語)から漢訳する時、いわゆる「五種不翻」に該当するものは音写されました。音写漢字はインドの発音を保持しているはずですが、1600年ほど経った今日、その漢字は廃れてしまっていたり、意味も発音も不明朗になっております。典型的なのは陀羅尼咒です。その発音は漢字を見ただけでは再現されず、結局、古典辞書を参照して、そこに添えられているラテン文字(ピンイン)に頼ることになり、「五種不翻」の目的が不本意な結果をもたらすことになってしまっております。
また、その漢字は意味を訳したものではないため、陀羅尼咒はどのように「咒」しているのか(いたのか)、漢字からは想像ができず、大きな謎となっています。
更にややこしいことに、1949年に建国した中華人民共和国は、従来の漢字を簡略化した「簡体字、簡化字」を制定しました。「簡体字」は、大陸以外でも、ペナンの華人の普通語の学校教育、シンガポールの国語に使われています(台湾は伝統的な漢字を使っていて「繁体字」と呼ばれます)。ですので、御題目「南無妙法蓮華經」は、「南无妙法莲华经」と書かれます。
05 書写行
ペナン一念寺信徒さんのもう一つの特徴は、五種法師の一つである「書写行」が大変盛んであることです。お寺には、経文が薄字で印刷され、なぞって書いていく「手抄本」や、手本のない原稿用紙「沙経本」が大量に置いてあります。厚さ四センチほどにもなる「一部経版」の他に、壽量品版、観世音菩薩普門品版、薬王菩薩本事品版、陀羅尼品版など「各品版」もあります。書写することを日常生活の一部にしている人もいて、これまでに「一部経版」を10回以上完成させた人もいます。書写するとお寺に持ってきて御宝前に奉納しますが、お寺に持ってこないで自宅の仏壇に置いて、日々の勤行で唱えている人もいます。漢字が書けない人は、ラテン文字の「英訳法華経」を書写しています。ラテン文字ですので横書きになります。御宝前の一角に安置してある信徒さんの持ってきた書写本は、あまりに量が多いので半年ほど後に、お焚き上げになります。
漢字にまつわる複雑な事情があるにもかかわらず、あるいはそれ故に、それぞれの能力に従って「法華経」への一体感を高めたいという、彼らの信仰心を強く感じます。
06 葬送儀礼
通夜葬儀に関して、興味深い習慣があります。ご逝去日の翌日を第01日目として、第04日目まで「通夜」が続きます。第05日目に「葬儀」、「火葬」をし、第06日目に「収骨」をして「納骨」、第07日目が「初七日」の供養日で、その後七日目ごとに追善供養をし、第49日目に「七七日」を迎えます。
施主は普段から親しくしている宗教者にお願いするか、パーラー(通夜会館)に宗教者を頼むこともできます。4日間続く通夜の間、様々な宗教者を呼ぶこともできます。宗教者とは、ペナン華人の場合、大陸民間宗教、タオイズム(道教)、中国大乗仏教、テーラワーダ仏教(主にタイの僧侶)、チベット仏教、日本の仏教が該当します。一念寺に通うメンバーでも、施主(その家の継承者)の意向でタオイズムの僧侶をメインにして、一念寺メンバーは通夜の間に時間を決めて集合したり、葬儀に参列したりします。
通夜は、パーラーと呼ばれる半オープン型の施設で営まれます。熱帯地域なので開放的であることと、蠟燭や線香を使いますし、道教の場合「冥銭」というお札を模した副葬品を大量に焚くので、閉じた空間では通夜ができません。道教では、天国の建物を擬した紙モデルを飾ったり、三途の川を渡る木製の橋を配置したり、十王図を掲げたり、通夜会場から葬儀・火葬会場に移動する時の御輿があったり、様々な装置(と演出)があります。
第05日目に、柩を移動します。移動する直前に、供物(主に料理の品)をたくさん揃えた台を設えて、そこでお経を唱えます。施餓鬼の要素が強い形式になります。日蓮宗に葬儀を依頼する方でも、通夜会場での儀礼は、伝統的な華人の民間宗教や道教の習慣も取り入れた形で営むことになります。
柩が霊柩車に乗せられると、葬儀会場まで参列者は行列をなして練り供養のようにゆっくり移動します。火葬場と同じ場所に葬儀会場があり、柩は通夜会場から直接火葬場の火葬台に置かれます。葬儀は、同じ敷地内のだだっ広い解放的な空間で、逝去者の写真を中心にして営まれます。その空間では、他の逝去者の葬儀も間隔をあけて営まれています。道教の場合、シンバルを鳴らして読経します。この空間での葬儀は、20分ほどが標準のようです。その後、火葬台のある場所に移動し、柩にお花を捧げたりして最後の瞬間を迎えます。火葬が始まると、参列者は全員いったん帰ります。
収骨は12時間以上たってから、同じ場所に再度集まって行われます。だいたい翌日第06日目の午前中になります。収骨して骨壺に納めると、納骨堂に移動します。
第07日目は、この日、逝去者が一度家に戻ってくると信じられていて、初七日は逝去者が生前好んだ御馳走を用意し、家の中で静かに行われます。
一般的に、逝去者(の遺体、遺骨)は、一旦、棺に入れられ通夜会場に移動すると、もはや家に戻る事なく納骨堂に安置されるので、一週間の慌ただしい忌行事が終わった後、初七日を静かに身内の人と過ごす、というストーリーは自然に受け入れられているのでしょう。
07 納骨堂
ペナン島にも伝統的な墓地がありますが、敷地不足のため、遺骨は、いまは、ほぼ納骨堂に納めます。納骨堂に納める場合、日本と違い「家の墓」という概念ではなく、個人の墓室、最大でも夫婦の墓室であり、納骨堂でも個々の骨壺に対して別々の空間に納めます。ペナン島の華人の歴史を考えても、現在の人口からも、膨大な納骨空間を必要とします。
納骨堂は火葬場やお寺に併設され、仏陀像の内部や、建物やその敷地の外周などに、非常に大きな、鍵のかかる棚が並ぶ空間があります。大きなお寺の場合、大規模な納骨ビルを何棟も所有しています。しかし連絡先を見ると、どこの納骨堂も、運営しているのはお寺ではなく私企業のようです。
ペナン島にはテーラワーダ仏教(小乗仏教)のミャンマ寺院とタイ寺院があります。同じテーラワーダ仏教ですが、葬儀、納骨に関する考え方は大きく違います。
涅槃仏で有名なタイ王国寺院・ワット・チャヤマンカララムは、正面から拝むと金ぴかの健やかな涅槃仏に眼を引かれます。右繞して裏に回ると、壁面いっぱい、涅槃仏の内部空間の壁面・全面に納骨壺を安置する為の棚があり、びっくりします。各小空間の扉に名前が刻まれていて、花が添えられていることもあります。よく見渡すと、タイ王国寺院には観音堂があります。大乗仏教的な菩薩像も勧請されています。「タイ寺の中国化」と呼ばれている現象で、初めて見たときには大変驚きました。ペナンの華人達の要請であり、社会的必要を受け入れての現象ですが、故人の遺骨があれば、なにかとそのお寺に通い、また必要が生じると僧侶を頼むという循環した流れが必然的に生じます。
一方、ほぼ向かい側にあるミャンマ寺院・ダンミカラマは、厳格にテーラワーダ仏教の規則を守ってお寺を運営しているようで、建物の壁面や天井には寄付志納者の奉献板、奉献仏のレリーフは有りますが、納骨堂はありません。
08 位牌堂
ペナンの華人信仰を探索しますと、さらに興味深いことに出会います。華人のお寺は、正面玄関の次の、中庭の奥が本堂になっています。さらにその裏側、あるいは脇側には、非常に立派な「位牌堂」があります。先祖代々「氏家」の位牌もありますし、故人のお名前の入った位牌、夫婦揃った位牌、家族一同の位牌など、サイズも名簿も様々に、ずらりと並んでいます。
納骨堂の場合は、お寺に併設されていても、お寺とはつながっていない別の建物として建設されていますが、一方、位牌堂は、お寺と一体化した重要な構成要素になっています。むしろ位牌堂が最も大切な施設であり、本堂(仏殿)はあと付け、という立場と言っても言い過ぎではありません。
檀家制度という名称はありませんが、元々華人社会には「宗族(そうぞく)」という、名字を同じくする父系同族集団の制度があります。「氏族」よりも大きな集団で、同姓不婚の原則に立ち、女系は含まれません(このため必然的に夫婦別称になります)。「族譜」という系図を共有し、祖先の神主を祭る宗祠、冠婚葬祭を含む宗族の年中行事や集会を行う、「宗族会館」など、共有財産を持っています。華人の寺院は、宗族会館に於いて、宗族の位牌を守護する目的で宗祠に勧請された民間宗教の神々に、道教や仏教的尊格体系が取り込まれ、儒教の教えも導入されて大規模化し、独立して成立した、と、お寺の管理人から伺ったことがあります。これらの寺院は、訳経僧が活躍したり、禅修行に囲い込まれた、歴史に名前のある(国家級の)寺院などとは別の出自に基づく寺院であると、推察します。
日本では「檀家制度」は江戸幕府の要請で作られたとしか語られませんが、大陸の華人の信仰習慣・制度と比較することで、檀家制度成立の背景となった根拠や関連性など、示唆するものがあるのではないかと思われます。
09 アジア仏教の現在
アジア仏教の現在を、ペナン一念寺の信徒さんの信仰のありようから書き始めました。「アジア」「仏教」「現在」の意味を私は以下のように定義しています。
「アジア」
東洋と西洋、一神教と多尊格教( ≒ 多神教)という区分としての「東洋 アジア」です。アジア世界では、広く、多くの尊崇を集める対象があり、仏であったり、如来、菩薩、阿羅漢、天子、天王、明王、龍王、王、明妃、神、など、さまざまな尊号を冠して表現されます。単に「神々」では表現が足りないので、私は「西洋 一神教世界」にたいして、「アジア 多尊格世界」と呼んでいます。つまり、私は人類の世界観をまずこの2つに区分しています。
近年、日蓮宗でも英語による信行道場が開催されるなど、日本人ではない方々が出家され日蓮宗教師と成られておられます。西洋世界に所属される方々は、一神教的な世界観の中で「お題目」「日蓮聖人」「日蓮(宗)仏教」を広宣されていかれるでしょう。そのための社会背景、歴史、歴史観の分析をされておられることと思います。お上人方々のご活躍を期待します。
一方、東洋、アジア世界では、様々な尊格が共存している世界観の中で広宣流布をしていくことになります。こちらでは「多尊格世界となっていった、歴史的な背景」の分析・理解が必要とされます。「アジア仏教」とは「西洋一神教世界」と対比された世界観における「仏教」ということになります。
「仏教」
もともと私は、インドのヒンドゥーイムズの石造建築の調査研究を主としていて、偶然出会った「お題目」「法華經」「日蓮聖人」に、徐々に接近していったという体験を持っています。ヒンドゥーイムズを理解するにつれ、意外にも日本の仏教・神道には、多くのヒンドゥーイズムの神々が招来されていて、ヒンドゥーイムズよりもさらに複雑な多尊格構造になっていることを知りました。中華世界にも非常に豊かな霊魂思想、多尊格構造があり、東南アジアやスリランカ、チベット、ネパールも、独自の独特の多尊格世界を形成しています。その中で「仏教」は仏教自身の尊格・信仰だけでなく、様々な地域の土着の尊格・信仰を、他の地域へ伝播させていく強力な「媒介・メディア」になっていることを知りました。
ですので私は、仏教自身だけでなく、これら、ヒンドゥーイムズや中華世界の民間宗教、儒教、道教、日本の神道など、土着の尊格・信仰、あるいは、伝播先で変容・融合していった尊格・信仰などの一切を含めた宗教世界、宗教観を指す言葉として、「仏教」という言葉を使います。ここまで拡張しないと「日本の仏教」を語ることはできないと思います。
「現在」
上記に書きましたように、私は建造物の研究から出発しているので、教典、文献などの「書かれたもの」の世界観が、どのように現実化しているのか、あるいは、現実(五感で感じられる現象)は、どのように(教典、文献では)説明されているのか、という点に関心があります。
あらゆる存在形態において、特に、現実の現象を観察して、そこに存在する事柄(もの、こと)を「実在」と呼び、実際には「実在」はしないが、言葉として存在する事柄、言葉としても存在しないが、(場の雰囲気などで)感じる様な気がする事柄をもふくめて「存在」と呼ぶことにします。
特に中華世界では、「実在」はしないが「存在」はする事柄・対象・言葉が非常に多いので、事柄・対象を言語的に区分し冷静に弁別していくことが必須となります。
このような前提において、今現在、私が体験している事柄、私にも体験できる事柄が、私にとっての対象となり、その事を「現在」と呼んでいます。
長らくインド世界にどっぷりと浸っていましたが、ペナンに赴任し、東南アジアの華人たちと接触して、日本人である私の中で、様々な文化的差異がキラキラと輝いております。みなさまと分かち合いたいと思います。
合掌。
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