eスポーツチーム運営会社って何しているの?② 選手マネージャー編
前回の記事「eスポーツチーム運営会社って何しているの?」ではポジティブな反応を多数いただきました。
多くの方に反響をいただきました。いただいたコメントは全部読ませていただいています。本当にありがとうございます。
eスポーツのビジネスサイドに興味のある方が少なからずいて、そうした方の興味を満たせる連載を続けられたらなと思っています。
それでは前回に引き続き、株式会社Sun-Genceの業務をご紹介するシリーズ。
今回は監督、コーチ、アナリストと共に選手に直接関わる仕事である、「選手マネージャー編」をお送りします。
前提として選手マネージャーの職域は、各チームの体制により異なります。
今回の記事では、株式会社Sun-GenceならびにDetonatioN Gaming(以下、DNG)における「選手マネージャー」をベースにお話させていただきますので、その点だけご了承ください。
選手ファーストの運営方針
まず、業務内容の前にチーム運営に関するマインドから説明しておく必要があります。
DNGは「世界で勝てるeスポーツチーム」を目指すために設立された経緯があり、私たちの活動における全ては「選手がより良い環境を整えるためのもの」という方針があります。
これを「選手ファースト」という言葉で定義しています。
これは全ての社員の行動規範となっており、選手マネージャーも例外なく、この規範を元に業務にあたります。
選手マネージャーの仕事について
選手マネージャーの仕事はあまり外に知られていないためイメージが湧かない方もいるかともしれません。基本的には、芸能マネージャーと近しいものだと思ってもらえると分かりやすいでしょう。
参考として芸能マネージャーの業務内容を調べてみましょう。
芸能マネージャーの仕事内容・マネジメント
・スケジュール管理
・ブランド管理
・現場同行
・精神的な支えになる
出典元: 芸能マネージャーの仕事内容【スタディサプリ 進路】
こうした芸能マネージャーの仕事内容と同種の業務に加えて、eスポーツ特有の業務が加わってくるのが選手マネージャーです。
スケジュール管理
プロゲーマーの本職が「大会に出場し、結果を残すこと」ということは前回の記事で触れましたが、そのためには日頃の鍛錬が必要になります。
しかし、チーム所属の選手は競技シーンでの活動だけではなく、配信を含むコンテンツ発信、メディア・イベント出演や記事の寄稿といった仕事をいただくこともあり、多岐にわたるタスクを抱えることもあります。
こうした広範にわたるタスクの対外的な窓口となり、スケジュールの調整・進捗を管理するのが選手マネージャーの一つの役目です。
ブランド管理
前段で触れた「スケジュール管理」が比較的分かりやすい概念だったのに反し、「ブランド管理」は少し抽象的な言葉です。
この言葉を理解するために、「プロゲーマーのブランド」をDNGなりに定義します。
「プロゲーマーのブランド」を構成する要素は3つだと考えています。
1. 競技シーンにおける実力
2. 選手の個性
3. 社会規範
簡単に補足します。
「競技シーンにおける実力」はプロゲーマーの人気を支える原動力です。
実力があり、結果を残す選手ほど人気が高まる傾向にあるのは明白で、人気を補うために個性を認知してもらおうにも、そもそも実力がなければ注目も集まりません。
「選手の個性」はプロゲーマーの人気を拡大させる添加剤です。
実力に個性を上乗せすることで、選手独自のキャラクターやストーリーが成り立ち、それがファンの共感を引き出します。
添加剤とはいっても軽視できる要素ではなく、実力のある選手ほど、自身の個性を上手く活用しながらブランドイメージを作っていることが多いです。ゲーム配信やインタビュー時にトークがうまかったり、Webメディアや動画などを通してゲーム活動以外でキャラクター性を発揮することで個性を伝えていきます。
最後の「社会規範」は、ブランドを支える基礎であり土台です。
SNS上でネガティブな発言を繰り返したり、ゲーム内チャットでの暴言やマナー違反行為、スポンサー企業の競合製品をPR、大会やイベント現場への遅刻等の契約に反する行動だけでなく、一般的に問題となる行為などが取り沙汰されると一度の過失で全てを失うこともあります。
こうした「プロゲーマーのブランド」を他部門のスタッフ、そしてもちろん選手自身と協力しながら構築し、より良い方向に導いていくことが選手マネージャーの役割です。
現場同行
コロナ禍において、現場同行の機会は著しく減少しました。
しかしながらオンラインであっても、選手と同じ場で仕事に携わることに変わりはありません。
オンライン・オフラインや大会・イベント出演を問わず、マネージャーにとって重要なことは、選手がベストなパフォーマンスを発揮できる環境を整えることです。
ここではチームゲームにおける大会を事例に挙げます。
コミュニケーションエラーが起きたり、試合で負けたりすると、チームの雰囲気が悪くなってしまうことは珍しいことではありません。
あるいは圧勝することで、選手たちが浮き足立ってしまうこともあるかもしれません。
ゲーム中に選手にアドバイスをすることはできませんが、心の機微をしっかり観察し、インターバル中には必要な声掛けをして少しでも選手の心理的負担を軽減します。
選手からの依頼があれば、飲み物や弁当の買い出しに向かうこともあります。
試合前に集中を阻害する要因を取り除くことが出来るのであれば、「選手ファースト」を信条として当たり前のように買い出しに向かいます。
精神的な支えになる
現場同行の点でも少し触れましたが、マネージャーは選手たちの精神的な支えになることも業務の一つです。
業務連絡の間には積極的に雑談をして選手の近況を聞き出し、悩みを抱えていれば面談を行い、問題解決を図ります。
練習試合に顔を出してコーチのように選手にアドバイスを投げかけるときもあれば、選手の気分転換のために友達として一緒にゲームで遊ぶこともあります。
支えとなる方法は人により様々ですが、マネージャー個々人が選手のために出来ることを日々探し、実行しています。
(選手と一緒にご飯に行くこともあります。左: Yutapon選手、右:Ceros選手)
選手マネージャーにとって重要なこと
選手マネージャーは「選手ファースト」を念頭に置いて、誠実に選手たちと関わることが重要です。
しかし「選手ファースト」という言葉を、選手に誤解させてしまってはいけません。
業界的に選手はどうしても若い方が多いです。そのためか、自身に尽くしてくれるマネージャーを、単なる使い走りと勘違いしてしまうことも稀に起こります。
一例を挙げましょう。ゲーミングハウスに住むとある選手は、チームの共有スペースである練習場にゴミを溜め込み、その掃除をマネージャーに任せるということがありました
選手のために掃除を行うということは一見して「選手ファースト」のように映りますが、これは間違いです。
どんなに偉大な選手であっても、プロゲーマーとしてのキャリアを辞するときがやってきます。自身で出したゴミも片付けられない人間が、引退後も長く続くであろう社会生活でやっていけるでしょうか?
ここでマネージャーが行うべきことは、選手を指導し教育することです。
(今はその選手も改心しているのでご安心ください)
選手の置かれた状況は様々です。常勝街道を突き進むスター選手がいれば、選手生命の危機に立たされる選手もいます。彼らの考える人生プランやキャリア形成、そうした諸々の事情を勘案し、もっとも選手のためになる選択を私たちは提示しなければなりません。若い人が多いので尚更です。
時には選手と会社の方針が食い違うことで、板挟みに合うことがあるかもしれません。そうした際でも、両者にとってベストな着地点を粘り強く探し、最良の結末を手繰り寄せることができるように努力しています。
まとめ
選手マネージャーの仕事に触れたわけですがいかがだったでしょうか。
庶務に付随した管理業務が多く、大変そうと思った方もいるかもしれません。
確かに簡単な仕事ではなく、事実として大変なことが多いです。
しかしながら、手塩に育てた選手たちが優秀な結果を収めることがあれば、彼らと同じ喜びを共有できるということは、この仕事の大きな魅力の一つです。
選手と二人三脚で歩みを進める選手マネージャーという仕事、それらを少しでも知り、興味を持っていただけたのであれば幸いです。
後記
今後、選手と直接関わる仕事である監督、コーチ、アナリストについてもご紹介していく予定です。
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