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おもちとダイソン
インフルの後遺症で、咳が少し残っている夫。そのせいでジムに行けない、と嘆いている。
感染症が爆発的な流行を迎えている昨今、世間は他人の咳に敏感だ。夫が遠慮する気持ちはわかる。
私はというと、咳が出ることはなく元気にしている。ただ、特にきっかけがなくても自分の唾液によってむせてしまうことはある。アレルギー持ちということもあり、状況によっては咳がでることも。
公共の場だと最悪だ。
誰かと一緒にいれば「うわぁ、むせちゃった!」と言えるからいい。一人だと弁明のしようがなく、インフルもしくはコロナ疑いの人として、周りを警戒させてしまう。
「今のはむせただけ」
「インフル⚪︎日に治癒済み、後遺症」
「アレルギー」
などと、後頭部に貼り紙して歩きたいくらい。
✳︎
咳き込む、といえばお正月に多いのがおもちの誤嚥だ。
テレビで「おもちを詰まらせないように!」と啓発しているのに、毎年どこかで誰かが緊急搬送されている。
お米の甘みがぎゅっと詰まったおもち。
日本人に広く愛されているが、警戒が必要な食べ物だ。
やはり詰まらせるのは嚥下能力が衰えている高齢者が多いということもあり、おもち好きの母のことを心配している。
楽しいはずの食事で不慮の事故など起きてほしくはない。
そんなの、後悔してもしきれない。
かといって、おもちは一切食べちゃダメ!と禁じるのも哀れだ。
最良の策として考えたのは、私の立ち会いのもとで食べてもらうこと。
そして私は、母の背後でダイソンを片手に仁王立ちし、すぐ吸い取れるよう準備しておくのだ。
「ひぇ、それじゃ食べた気がしないよ、ひとくちサイズに切って食べれば大丈夫だから!」と母を怯えさせてしまったが、心配性な私は念には念を入れたくなる。
いい案だと思ったのにな。
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おもちに関しては、夫のことも気がかりだ。
彼は超がつくほどの早食い。
君の歯32本は飾りなのか?と思うほど、飲むように食べる。
おもちも好んで食べる。お椀から吸われるようにして、おもちは消える。
このまま老夫婦になったら、夫の命のため、ダイソンの吸引力に頼る日が来るのだろうか。
ダイソン係として働く未来を想像してみると、その滑稽さに笑ってしまう。
と同時に、あれだけ言ってたのに、まさか本人が…!とならないようにしなくては、とも思う。
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今日は鏡開き。
あっつあつのおもちをゆっくり噛んで、粘りのある食感とお米の旨味に舌鼓を打っている。
冷気の中、白い湯気を立てる甘々のおしるこは、お正月疲れした心と体にやさしく染み渡るのだった。