聖なる犯罪者

この作品をどう評価したら良いのか、正直よく分かりません。

ポーランドという国や社会のことも分からないですし、キリスト教のこともよく知りません。キリスト教の司祭になるということがどういうことなのかピンとこないです。

日本人で無宗教の僕からしたら、司祭になりたいと思う若者がいるものか、と思ってしまうんですよね。なので何で司祭になりたいと思うようになったのか、そこを描いてくれないと何も言えません。説明不足と評価せざるを得ないです。

主人公のダニエルって犯罪歴はあるけど、ちゃんと司祭として振る舞おうとするし、真実を突き止めようとするし、おかしいことには異を唱え、正しい行動をしようとするんですよね。ダニエルに代理を頼んだ本当の神父の方がボンクラに思えます。

だからこの映画を観て、前科があっても司祭になれるようにすべきだとか、人は見た目や過去のおこないで判断してはならないといった意見や感想を持つ人は多いと思います。でも僕はその意見には何となく乗れません。何だかふに落ちないんですよね。色々欠落している気がします。

例えばポーランドの片田舎の住民たちの信仰心とか規律の重さとかって無視してはいけないと思うんです。もしかするとこれまでの経歴を隠して司祭になりすますことって、信者にとっては殺人よりも罪深いことかもしれないじゃないですか。

それにダニエルが司祭になりたいと思った動機って実は不純かもしれないんですよね。尊敬されたいとか、人の上に立ちたいとか、お金を稼ぎたいとか。で、ダニエルって『自分なんかが司祭をやっても良いのか』っていう葛藤がないんですよ。そんなことに悩んでる司祭なんてほとんどいないよと反論されるかもしれませんが、ダニエルにはその葛藤があって然るべきなんですよね。だって普通の司祭なら当然持っているはずの資格を彼は持っていないんだもの。ダニエルが敬虔なキリスト教徒で、純粋で、正義に篤い人間ならば、そうであればあるほど、なければならない葛藤だと思います。

そういった葛藤と闘った上でなお「それでもダニエルのような人間に聖職者になる道を作るべきだ」ならまだ評価ができるのですが、残念ながらその葛藤は描かれていません。

やっぱり必要な情報が提示されていない。説明不足に思えて仕方ないです。

とはいえポーランドやキリスト教圏の人にはそんな説明要らないんだろうなとも思えます。日本人の僕には刺さりませんでした。

あと、映画の最初に、実話を元にしているとテロップを出すのは、僕は好きじゃないですね。

この映画は事実を元にしているから疑問とか納得できないこととかがあっても文句言わないでね、批判しないで、という逃げ口上に思えてしまうんですよね。

例えば「司祭になりたいと思う若者がいるものか」というツッコミに対して、「いや事実なんだから仕方ねえじゃん」と半笑いで返されたりするんですが、大事なのは『事実かどうか』ではなくて『その映画の世界観に合っているか、違和感がないか』なんですよ。どんなに事実を並べたところで、その設定や台詞に観客が違和感を感じてしまったらそこで興醒めしてしまうし、面白くなければ意味がないんですよ映画って。

だからダニエルが司祭になりたいと思った理由が必要なんですよ。その理由は不純で構わないし、不純であった方が魅力的だと僕は思います。本当は不純なのに言動は聖職者じゃなきゃならないのって面白いと思うんですけどね。

製作年 2019年

製作国 ポーランド・フランス合作

原題 Boze Cialo

配給 ハーク

上映時間 115分


スタッフ
監督 ヤン・コマサ
製作 レシェク・ボヅァク アネタ・ヒッキンボータム
脚本 マテウシュ・パツェビチュ
撮影 ピョートル・ソボチンスキ・Jr.
美術 マレク・サビエルハ
衣装 ドロタ・ロクエプロ
編集 プシェミスワフ・フルシチェレフスキ
音楽 エフゲニー・ガルペリン サーシャ・ガルペリン

キャスト
ダニエル バルトシュ・ビィエレニア

リディア アレクサンドラ・コニェチュナ

マルタ エリーザ・リチェムブル

ピンチェル トマシュ・ジェンテク

バルケビッチ レシュク・リホタ

トマシュ ルカース・シムラット



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