悪い芝居vol.22『野性の恋』

■2019/06/08 13:00 梅田・HEP HALL
 一途に幼馴染を想いつづけるモテない修理工の男とその幼馴染、超能力を持つ謎の男子高校生に一目惚れする女教師とその高校生。それぞれの恋を丁寧に描いた少し切ない物語。

 人物造形に若干の甘さは感じるものの、登場人物たちそれぞれの恋をどストレートに描いた、非常に面白い作品だった。

 テーマはタイトル通り野性の恋。本当の恋というのは人間的な思考や感情よりも、もっと原初的で本能的なものではないか。動物が愛しあい、殺しあうようなものではないか。

 そのテーマをどう捉えるかは議論の余地があるが、この作品では初恋や一目惚れを、野性の恋と位置づける。そのため、冒頭に挙げた4人の主要人物のうち3人が高校生以前の恋を引きずったまま大人になっており、残りの1人の女教師も、頭の中ではいけないと分かっていながら、男子高校生にほとんど一目惚れしてしまう。

 主人公は修理工の男で、最初、彼は周りの人間から、男性として魅力や取り柄のひとつもない人物として紹介される。彼の見合い相手や幼馴染も、良いところがひとつもないと評価するが、実際はそうではない。とても一途で、嘘のつけない、優しい男である。

 確かに、幼馴染に一途で、好きすぎて、本人には嫌味を言ったりしてしまうし、見合い相手には、自分には惚れている相手がいるのに、見合い相手に気のあるようなことを言うことができず、酷いことを言ってしまう。だから、周りの人間が彼を男性としての魅力がないと評価してもおかしくない。それはそうなのだが、観客としてのこちら側からすると、魅力がひとつもない男ってどんなやつなんだろう?って期待してしまっているので、「いや、良いやつやん」と肩透かしを食らうことになる。

 その一方で、修理工の片想いの相手である幼馴染には、必要最小限しか描かれていないこともあって、あまり魅力が感じられなかった。

 だから、修理工が何故そこまで幼馴染のことを想っているのか、納得がいかなかった。

 この辺り、例えば幼馴染を、主人公のことを恋愛対象としては見られないけど、誰よりも彼のことを理解している人物に設定しておけば、主人公の評価を言い合う場面で、魅力のないように見えて実は良いやつ、と言わせることができ、彼女自身のキャラクターの魅力や深みも増すと思うんだけどな。

 男子高校生も、もっと序盤から悩みや葛藤を見せるか、もしくはもっと謎なまま終わっても良かった。ミステリアスなキャラクターから、最後はごく普通の悩める高校生に転落してしまった感がある。

 でも修理工と女教師は、登場場面も多いし、キャラクターも良く練られていて(主人公とヒロインだから当たり前だけど)、この二人の葛藤や心理描写が丁寧だったので、作品全体としては、とても良かった。

 できれば、同じ「野性の恋」というテーマで、人間的な思考や感情が介する前に恋をしてしまい、たくさんの相手とセックスをしまくっている主人公の話とかも見てみたい。ハチャメチャにもできるし、同性愛とかも取り入れてテーマ性の強い作品にもできるよ。

作・演出 山崎彬
音楽 岡田太郎

出演
潮みか 六嶋こころ
植田順平 殻沢溜飲
山崎彬 食野工作
中西柚貴 植場雪
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畑中華香 味倉月
東直輝 枯木筈流
佐藤かりん 北風吹美
野村麻衣 殻沢窓
川人早貴 白羽根籠
(以上、悪い芝居)
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永嶋柊吾 傘々谷指雄
原田樹里 (キャラメルボックス) 植場光
清水みさと (オーストラ・マコンドー) 夏木煙子
大原海輝 殻沢軸
山本ユウ (ドライブイン札比内) 味倉明治
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松本亮 昼間太陽
大塚宣幸 鮫火幹太

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