『怪物』
素晴らしい作品でした。
母親と教師と本人。視点が変わるとこんなにもものの見え方が変わるのかということを実感させられました。単に映画を観たというだけでなく、"体験した"と思える凄みがあり、是枝監督ってここまで来たんだ!っていう感動がありました。
ジェンダー、いじめ、モンスターペアレンツ、教職者の質やモラルの低下、マスコミ報道の危うさ、メディアリテラシー、児童虐待、シングルマザー、冤罪、自然災害、放火、犯罪者心理、自殺、殺人、子育て、モノの見方は一つじゃないこと、輪廻転生、青春……。これら様々な社会問題を描きながらストーリーは少しも難しくない。というすごい映画でした。これはカンヌで脚本賞取りますわ。
またこの作品の『怪物』というタイトルがすごいんですよね。
僕は最初、主人公の少年が怪物だと思って観ていました。ところが途中で視点が変わって、本当の怪物は別の人物だったのだと知ります。しかしさらに見つづけていると、また別の人物が怪物候補として浮かび上がります。そうして徐々に怪物の定義が変わっていきました。
実はこの映画には、どこにも怪物などいないのです。その瞬間、瞬間で怪物に見えた人たちも、実は普段は普通の感情を持った心優しい人として生きているのです。
僕はずっと誰が"怪物"なのかを考えながら見ていました。しかし最終的には、そんな風に観ていたじぶんか怪物が誰なのか見つけだそうとしている自分こそが怪物なのではないかと思い知らされました。僕は自覚なしに魔女狩りをしていたのです。
この作品の内容を明確に言い表していて、それでいて我々に大きな課題を突きつけてくる。でもたったの二文字の極めてシンプルなタイトル。まさに様々な社会問題を描きつつ、ストーリーは極めてわかりやすいというこの映画そのものじゃないですか。
映画館で一回見ただけなので細かい分析はまだできていませんが、これは今後何回も観ると思います。そして気づいたことがあったら加筆修正していきます。
日本の映画の質が落ちていっている中、是枝監督がいるというのは救いだと思いました。制作者集団「分福」で若い監督や制作者を育てておられるので、是枝監督につづく世界で戦える監督が出てくるのを楽しみにしています。