ライムライト
言わずと知れた喜劇王チャールズ・チャップリンの名作です。
製作、監督、原作、脚本、音楽、主演を手がけたというのはすごいですね。しかも1973年のアカデミー賞で劇映画作曲賞を受賞しています。俳優、監督としてのイメージはありますが、音楽でもアカデミー賞って……。どんだけ才能あるねんって話ですよね。
物語はかつて人気のあった喜劇役者のカルヴェロが、リューマチで脚が動かないのを苦に自殺を図ったバレリーナのテリーを救ったことから始まります。実はテリーの脚が動かないのは精神的なものだと知り、カルヴェロはテリーを励まします。やがてテリーは歩けるようになり、踊れるようになり、遂には主役を勝ち取ります。テリーはカルヴェロを愛するようになります。しかしカルヴェロは、年齢、容姿、芸人としての境遇のいずれもテリーに釣り合わないと思っていて、彼女の愛を受け入れることができません。
終盤、カルヴェロは、ネヴィルがテリーに「君がカルヴェロに抱いているのは愛ではなく献身だ」と話しているのを聞いてしまい、姿を消します。
といっても彼はロンドンからは離れておらず、酒場で芸を披露して生活しています。芸人を辞めたわけではありません。本心ではテリーに見つけてほしいのでしょう。案の定、テリーと再会します。カルヴェロはテリーに「まだ諦めてない。とっておきのネタがあるんだ」と言い、芸人としての意欲を示します。
僕は終盤にカルヴェロが姿を消したところで終わった方が良いのに、と思いました。ただただテリーとネヴィルの幸せを願って姿を消す方が格好良い。何か残念な映画だなぁというのが観終わった直後の感想です。
しかしその後、構成について考えていると、「あれ? これって恋愛映画だっけ?」という疑問が湧いてきました。
恋愛映画としては、たぶんテリーとネヴィルの会話を聞いた後、テリーの幸せを願って姿を消す方が綺麗だし切ないんですよ。でもチャップリンは綺麗な恋愛映画が作りたかったのかと考えると、違うと思いました。
そこで主人公の願望に焦点を当てると、実はカルヴェロが終始願っているのは『芸人としてもう一度返り咲きたい』なんですよね。『テリーと結ばれたい』ではないんです。恋を成就させたいと思っているのはテリーの方で、カルヴェロはテリーとネヴィルが結ばれることを望んでいます。
で、『芸人としてもう一度返り咲きたい』という観点から見ると、構成は結構良いんですよ。『落ちぶれた芸人がラストチャンスに賭けて勝負に出て、再び喝采を浴びる』という物語としては、テリーとネヴィルの会話の後すぐに終わっちゃダメです。一回都落ちして下積み生活を送り、純粋にこの仕事が好きだということを再確認した上で、もう一度チャンスを得て勝負に挑むという流れでなければならないんです。
ただ惜しむらくは、芸人としての願望と恋愛のテンションがシンクロしていると良かったのに。序盤に『スッと終わった方がスマート』と書いたことと繋がるのですが、恋愛パートの描き方が雑なんですよね。
カルヴェロは基本的に恋愛からは一歩引いた状態ですし、テリーはずっとカルヴェロに「愛してる」と言いつづけていて、両者とも感情の起伏がほとんどありません。だから終盤で飽きてしまうんですよね。一回テリーとネヴィルが一夜をともにするくらいのこと、やっても良いと思います。
そうやって恋愛面でもカルヴェロとテリーの気持ちがくっついたり離れたり迷ったりして、最終的には芸人としての再挑戦と時を同じくして二人の恋愛感情が最高潮に盛り上がるようにすれば、もっとドラマティックになったんじゃないかと思います。
製作年 1952年
製作国 アメリカ
原題 Limelight
上映時間 137分
製作・監督・原作・脚本・音楽 チャールズ・チャップリン
撮影 カール・ストラス
美術 ウジェーヌ・ルリエ
カルヴェロ チャールズ・チャップリン
テレーザ・アンブローズ(テリー) クレア・ブルーム
カルヴェロのパートナー バスター・キートン
ネヴィル シドニー・チャップリン
ポスタント ナイジェル・ブルース
ボダリンク ノーマン・ロイド
オルソップ夫人 マージョリー・ベネット