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『浅草キッド』柳楽優弥がビートたけしそのものだった件。

Netflix映画『浅草キッド』、いや〜泣いた。
そして柳楽優弥がビートたけしの若い頃そっくりでしたね〜。

映画冒頭、特殊メイクバリバリの現在のビートたけしのアップから始まって、もちろん中身は柳楽優弥なんですけどそんなの全くわからない、コレ柳楽くんがやる意味あんの〜?ってくらいの特殊メイクでキグルミ感がハンパなくて(笑)。この映画大丈夫なのかなー?とか不安になってると・・・時代はポンと昭和に戻って、今度はすっぴんの柳楽優弥が若い頃のビートたけしを演じているんですが・・・これが激似てるんですよ!ツービート直撃世代のボクには衝撃的に!あ!売れ始めた頃のたけしだ!って。

いや顔は柳楽優弥そのままのイケメンなんですよ。でもたけしにしか見えない。もちろん喋り方や動き方、それとチックで目をパチパチしたり首ひねったり、そういう形態模写もそっくり。

でも一番衝撃的にそっくりだったのは・・・ただタバコ吸ってるとか、人の話を聞いてるとか、何も言わずにただ目線を落として目をパチパチしてたりしてる・・・たけしの「なにもしてない時間」。

毒舌エンターテイナー・ビートたけしが、じつは強烈にナイーブな人間であることが伝わってしまう時間・・・コレを柳楽優弥が見事に演じているんですよねー。いや〜見事すぎるキャスティング。 今回はそんな『浅草キッド』柳楽優弥の、そしてビートたけしの「なにもしてない時間」の演技法 について語ってみましょう。

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俳優ビートたけしの「なにもしてない時間」

「なにもしてない時間」を演じるので最も有名な俳優は笠智衆でしょう(笑)。笠智衆は他の俳優のような大きくリアクションをしないで、ただ彼の内面では何かが大きく動いているんだろうなーってことだけが客席から見ていて伝わる芝居をしていました。だから我々観客はついそれが何なのか知りたくなって笠智衆の次の行動に目が釘付けになるんです。

樹木希林さん、役所広司さんなんかもそうですよね。つい目で追ってしまう。・・・海外の俳優だとアンソニー・ホプキンス、クリント・イーストウッド等がそうですが、日本の俳優で忘れてはいけない方がもう一人・・・それが俳優ビートたけしです。

『その男、凶暴につき』でのビートたけしの「なにもしない時間」の演技の出現は、それはそれは衝撃的なものでした。ほぼ無表情な状態のなにもしてない状態から、唐突に凶暴な暴力が発生する・・・説明的動作とか細かいリアクションとか小芝居が一切ないんですよ。笠智衆が唐突に暴力を繰り出してきたら怖いでしょ?(笑)
その「なにもしてない時間」の何もしてないのに観客の心をザワザワさせる芝居が凄いんです。

『その男、凶暴につき』を初めて見た時の・・・え?これがあのビートたけし?という衝撃が忘れられないですが・・・でもお笑いやってる時のビートたけしとやっていることは実はなにも変わらないのです。

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お笑いのビートたけしの「なにもしてない時間」

『オレたちひょうきん族』の『タケちゃんマン』で悪役ブラックデビルを演じる明石家さんまがオーバーリアクションで演技しているのを、素に戻って半笑い気味の表情で無言で見ているビートたけしの姿はとても魅力的でした。
で、いつまででも気持ちよさそうにボケ続けるさんまを、たけしは唐突に池に突き落としたりしますw。

これが『その男、凶暴につき』でのたけしが演じた主人公、唐突に暴力を振るう凶暴な刑事・我妻の芝居の原型と言えるでしょう。

『スーパーJOCKEY』で大騒ぎするたけし軍団を、唐突に巨大なハリセンで殴ったり、熱湯の中に突き落としたりするアレも同じで、その暴力ともお笑いともわからない衝動が発生する寸前、かならずビートたけしは黙って半笑い気味の無表情ではにかんでいます。

この「半笑い気味の無表情」こそがビートたけしの本質で、このたけしの「なにもしてない時間」のたけしを今回の『浅草キッド』で柳楽優弥が見事に演じているんです。

今回松村邦洋が「ビートたけし所作指導」で入って、柳楽優弥に1日8時間もたけしのモノマネの特訓をしたそうで(笑)、そのことも素晴らしいのですが、柳楽優弥があんなにもビートたけしそのものだったのは、モノマネのせいではないと思うんですよね。

だって柳楽優弥はそもそも、その「なにもしてない時間」の少年を演じることでカンヌ国際映画祭 男優賞を史上最年少受賞した俳優なんですから。

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映画『誰も知らない』の衝撃

思い出して欲しいのですが、そもそも『誰も知らない』という映画で、当時14歳の柳楽くんは「なにもしてない時間」のナイーブさで強烈な印象を放っていたんです。

親に育児放棄された四兄弟の物語。兄弟たちが何かをしているところを見ている長男の柳楽くん、建物の外で大人が来るのを待っている柳楽くん、お母さんが勝手なことを言ってるのを歩きながらただ聞いている柳楽くん・・・何もしないでただそこではにかんでいる柳楽くんは、なんだか凄い空気感を放っていました。

で、それをまた是枝監督が完全に面白がって編集で長々と使ってたんですよねー。ただ話を聞いている柳楽くんの顔をずっとアップで映してたり、ただ待ってる柳楽くんを引きの画でずーっと映してたり、ただ何のリアクションもなく女の子を見てる柳楽くんの姿を長尺で映してたり・・・芝居がもう終わってやることがなくなってただ中途半端な半笑いの表情で目をパチパチ瞬きしてる時間を編集で長々と使っていたり・・・そう、悲惨な状況下なのになぜか半笑い気味の無表情なんですよ、柳楽くん。

その彼の「なにもしてない時間」があの『誰も知らない』の深い描写となって、観客の心を打ったんです。これはやばい映画だ!と。これは凄い子役が出てきたぞ!と。

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『誰も知らない』の柳楽くんが帰ってきた。

・・・ところがこの『誰も知らない』以降の映画で、柳楽くんはこの演技法でほぼ演じることはなかったんですよね。

『星になった少年』などの映画では、柳楽くんが演じる人物の情感はほぼ全てセリフで語られてしまっているし、相手のセリフを聞いている時間では柳楽くんはずーっと頷いたり、細かいリアクション芝居をしています。つまり、そこには「なにもしてない時間」が存在しないんです。

柳楽くんがずっと説明的なリアクション芝居をしているせいで、もう観客には柳楽くんが演じてる人物が何を考えてるか、何を感じているかがバレちゃってるんですよね。だから次に柳楽くんが何かをしたり喋ったりしても「そうだよねー」って感じで、もう芝居に衝撃が出ようがないんです。

受動的に演じても大丈夫だった『誰も知らない』とは違って、おそらくそれ以降の仕事ではアクションもリアクションも能動的に演じることを脚本的にも演出的にも求められていたんだと思います。・・・そんな時代が長く長く続いて、ボクみたいな『誰も知らない』での柳楽くんファンは残念な思いをずーっとしていたのですが・・・ついに出ました!『浅草キッド』ですよ。

『浅草キッド』では、相手役が何かをしている時間、柳楽くん演じるビートたけしは説明的なリアクションを一切していません。ただ目をパチパチ瞬いていたり、首を回してたりしてるだけです。

だから観客はたけしの次の行動を予想できなくて、たけしが何かをしたり喋ったりする度に「うわ!」っとびっくりできるんですよね。

それがかつて『オレたちひょうきん族』や『スーパーJOCKEY』でビートたけしがお茶の間を沸かせていた芸風の再現になっていて・・・この辺は劇団ひとり監督がビートたけしの大ファンであること、そして彼自身も芸人であることが大きく影響しているんだと思います。だって柳楽くんの「なにもしてない時間」を編集で大きく大きく使ってますからね。

映画『浅草キッド』前半、地方営業で客とケンカした たけしときよしが楽屋から路地に叩き出されるシーン。花を見つめてリアクション芝居するきよしの次の たけしのただ目をパチクリしてるカット尻の長さ!・・・ボク思わず「きたーっ!」と叫んじゃいましたから(笑)

『誰も知らない』の柳楽くんの復活が、それくらい嬉しかったんです。

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師弟関係の芝居が素晴らしい

『浅草キッド』には“ハイヒールのくだり”が2回出てきます。1回目の鯨屋でたけしが深見師匠に「バカやろう!俺の靴を持ってくるやつがあるか!あのハイヒールを持ってくるんだよ!そしたら俺が履いて、あら背が伸びちゃったかしら…バカやろう!って笑いが取れるんじゃねえか!笑いが取りたかったら普段からボケるんだよ!」って説教されますよね。

あのシーンで柳楽くんは「はい」とも「いいえ」ともつかない態度でただキョドッてます。まだ深見師匠の意図をちゃんと理解できてないんですよね。何を言われてるのかはピンときてないんだけど、そんな師匠を見て「師匠、かっこいいなあ〜」「この師匠の弟子になってよかったなあ〜」って感動してる。・・・このシーン大好きなんですよね。

これぞ師弟関係だよな〜って思うんです。ボクにも芝居を教えてくれた師匠的な俳優さんがいるんですが、当時やはり話してくれてることの半分も理解できなかったですからね。レベルが違いすぎて(笑)。でもそれから10年後とかにふと「あ!あのとき師匠が言ってたアレってこのことだったんだ!」とか唐突に理解できたりするんですよ。だから師弟関係って一生モノなんですよね。

そして2回目の“ハイヒールのくだり”。

テレビで売れたたけしが深見師匠と再会してまた同じ鯨屋に飲みに行ったとき、たけしがさっとハイヒールを出す。そこで2人の長年のわだかまりが解けるんですよね。たけしは深見師匠を裏切ってテレビに行ったんじゃない、深見師匠のことを今も尊敬しているんだ・・・みたいなことが師匠に伝わって、師匠は嬉しくなって盛大にボケるわけです。

涙腺崩壊ですよ。

こんな嵐のようにエモーショナルなシーンの数々が、ほぼセリフによる説明なしに芝居だけで語られています。いやあ泣きます。劇団ひとり監督すごいなあ。

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とまあ、かなり長くなりましたが全然書き足りない(笑)。大泉洋や鈴木保奈美や門脇麦やナイツ土屋の素晴らしい演技についても語りたい。でもかなりの長文になってしまったのでこの辺にしておきましょう。
柳楽くんの『誰も知らない』での芝居の素晴らしさについては以前YouTubeでも語っているので、そちらも見ていただけると嬉しいです。

映画『浅草キッド』はNetflixで観れるので、この正月休みにぜひぜひ。超オススメですよ。

小林でび <でびノート☆彡>



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