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『SHOGUN 将軍』の3種類の演技法。
第84回ゴールデン・グローブ賞での浅野忠信さんの助演男優賞受賞のスピーチ、泣けましたね! 心の底から喜びが溢れ出していて、子供のようにはしゃいでいて・・・。
ここまで何十年もの長い長い鍛錬がようやく世界で相応な評価を貰ったのだから、そりゃ嬉しいですよね。 長年彼をウォッチしてきたボクもちょっと目頭が熱くなりました。
受賞後のインタビューで真田広之さんが
「最近は日本の映画制作者でさえ時代劇を西洋風や現代風に仕上げる。だから本物の時代劇ファンは離れてしまう。それを戻したかった。外国人に分りやすく、時代劇ファンも満足できるもの。それが私達の目標でした。」
とおっしゃっていて、それはまさに脚本作りからはじまり、小道具や衣装、画面に映るすべてのものがウソや間違いにならないように徹底されていて、俳優の芝居もまさにそこ「本物の時代劇」を演じようとキャスト全員がそれぞれに素晴らしい取り組みをしていました。
でも「本物の時代劇を演じる」とは???
その解釈の違いから、俳優たちの演技は主に3種類のタイプの演技法に分かれて取り組まれていたようにボクには見えました。
この『SHOGUN 将軍』における日本人俳優たちの3種類の演技法について語ってゆきましょう。
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① 「外面を演じる」タイプ。
過去の時代劇の様式としての「侍」のイメージをトレースして演じるタイプ。各俳優さんの思う「本物の時代劇の演技」を外面的にテクニカルにトレースする。
時代劇風の所作と喋り方、そして声も侍のイメージをトレースするような作り声になっていて、その俳優さん本来の声じゃない声で喋っている方も多かった。
表情も「侍」のイメージをトレースして作り込んでいるので、基本はかっこいい作り表情で、ゆえに俳優自身の個性が見えにくい。様式美。
② 「内面を演じる」タイプ。
俳優さん自身の「内面の真実」を演じることで本物性を演じるタイプ。
現代に生きる俳優さん自身の感情や感覚を使って人物のナイーヴさを切実に演じているので、当時の状況下における人々や戦国時代の侍というよりは現代の若者に見える。声も2020年代の若者風の自然な発声。
③ 「反応を演じる」タイプ。
浅野忠信さんなど、そして米国人俳優のみなさんはこのタイプ。
戦国時代に武将や侍として生きてきた自分として、物語内の状況状況の中でついつい出てしまった「反応や衝動」(感情ではない)に突き動かされている様をオープンに見せている。
演じて見せるタイプの芝居はかなり控えめで、ただその人物がウソをついていたり相手を丸め込もうとしている時には雄弁に「演じて見せ」ている。が、それは俳優が演じているのではなく、その役の人物が演じている構造なので、演技は大げさには見えずにあくまでリアルに見える。
当時の侍の感覚で動いたり喋っているので、ちゃんと当時の人に見える。声は心の動きと連動しているので不安定で生々しく、その場その場の状況にぴったりハマっている。が、セリフのない瞬間にこそ雄弁に人物を物語っている。
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この芝居、浅野忠信は20年以上も前から取り組んでいた。
この③の「反応を演じるタイプ」の芝居って、ここ10年くらいのハリウッドでの最新の演技にあたるんですが、じつは浅野忠信さんはもっともっと前からこの芝居に取り組んでいたんですよね。
『[Focus](1996)』『地雷を踏んだらさようなら(1999)』あたりからそうだったのではないかなとボクは思うのですが、今回の受賞の喜びの流れで『殺し屋1(2001)』を見返してみたんですよ。やはり浅野さんが演じた垣原の芝居は『SHOGUN 将軍』の藪茂の芝居と同じアプローチで演じられていました。
『殺し屋1』は三池崇史監督・佐藤佐吉脚本の大傑作で、海外でもいまだに人気を誇るバイオレンス映画なのですが、2001年当時といえば世の中がタランティーノ風のスタイリッシュな「演じて見せるタイプ」の芝居であふれていた時期で、『殺し屋1』でもほとんどの俳優たちがタランティーノ・フォロワー風のスタイリッシュなキメキメ演技でノリノリで演じまくってる中、浅野さんの芝居だけが異彩を放っていたんですよね。
浅野さんが演じていたのは垣原という、ある意味一番キャラっぽさを前面に押し出してキメキメで演じるべき人物なのだけど、なんと浅野さんは一切その方法で演じなかったんですよね。当時驚きました。
キャラを積極的に演じて見せるのではなく、なんと浅野さんは「垣原が何を感じているか」にフォーカスして、物語の各シーンの中で垣原としてただただ「反応」しまくるという芝居を展開したんですよね。
この芝居がホント魅力的で、日本の観客のみならず、世界の観客を魅了したんです。
つまり今回の『SHOGUN 将軍』での芝居と何ら変わるところないアプローチ・・・つまり今回のゴールデングローブでの助演男優賞受賞は、浅野忠信さんが長年取り組んできた芝居が「ようやく正当な評価を受けた」瞬間だったとボクは感じるのです。
正直③の「反応を演じるタイプ」の演技法って、日本の芸能界では長年全く必要とされていなかった演技法ですからね。「人間を反応で描写する」という演技法は世界標準になり始めていた芝居ではあったけど、日本の映画がそれを採用し始めたのはごくごく最近で、そんな芝居をするための鍛錬を浅野さんはひとり孤独にやり続けてきたわけですから。
泣けました。
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そして旅は続く・・・。
今回の『SHOGUN 将軍』の受賞はけっして「やっぱ日本人すげえ!」みたいなことではないし、「『SHOGUN 将軍』がこじ開けた道を通って、日本人俳優はこれからどんどんハリウッドに進出できるぜ!」みたいなお気楽なことでは無いと思います。
「ハリウッドで戦って正当な評価を受けるには、どんな鍛錬をすべきか、どんな努力をすべきか、そしてその上でどんな戦い方をすべきか」という手本を真田広之さんや浅野忠信さんたちが示してくれた、という事だと思います。
「個人を演じるのではなく、人や世界との関係を演じること」
これで日本の芸能界の芝居に対する考え方にも、よい変化が起きるといいなあと思っています。というくらいに今回のゴールデングローブ受賞が分岐点になるといいな、と思いました。本当に。
そして浅野忠信出演の最新作、北野武監督の『ブロークン レイジ』が早く見たくて仕方がない!先日ベネチア映画祭で上映されて、Amazonプライムで配信予定らしいけど・・・いや~楽しみ。どんな芝居をしていることやら。
今後も浅野忠信さんの芝居から、目が離せません☆
小林でび <でびノート☆彡>
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