シェア
現役探偵の調査ものがたり:小説
2020年12月1日 07:00
『現役探偵の調査ファイル 七人の奇妙な依頼人』 福田政史:著【第六話】薔薇7 冒頭で紹介した「強制退去・執行日」の一週間ほど前、私は浅田弁護士に呼ばれて彼の事務所を訪問していた。事務所には依頼人の岩井社長のほかに裁判所に所属する執行業者も在席し、佐伯家の立ち退きについて話し合いがなされた。「断行」という耳慣れない法律用語を聞いたのはこの時だった。 強制執行を行う場合、占有者の退去や明け渡
2020年11月29日 07:00
『現役探偵の調査ファイル 七人の奇妙な依頼人』 福田政史:著【第六話】薔薇5 翌日、同じ場所で再び木村と会った。私の方針は決まっている。一考の余地もなく返事は「ノー」である。このことについて、あえて岩井社長の指示も仰がなかった。仮に聞いても結果は分かりきっていたからだ。前述のように、岩井社長は経営手腕にも優れ、一代で「S沿線で彼を知らぬ者はない」というほどの会社を築いた人である。よく言えば
2020年11月27日 18:00
『現役探偵の調査ファイル 七人の奇妙な依頼人』 福田政史:著【第六話】薔薇3 競売にかけられた家の所有者は佐伯祥一(さえきしょういち)という名前で、渋谷区にある健康食品販売会社を中心に関連会社数社を経営する社長だった。 とりあえず会社の経営状態を調べてみると、家を競売に出すほど悪いわけではなかった。売り上げが前年と比べて格段に下がった様子もなく、それほど資金繰りが逼迫しているようでもない。
2020年11月27日 14:55
『現役探偵の調査ファイル 七人の奇妙な依頼人』 福田政史:著【第六話】薔薇2 これに先立つ半年ほど前、私は埼玉県T市にあるF建設工業を訪れていた。 同社に出入りするようになったのは、その三、四年前からで、前述した浅田弁護士の紹介で、ある調査をしたことがキッカケだった。F建設工業も私の探偵としての手腕を認めてくれたらしく、その後何度も業務関係の調査を発注してもらい、ついには年間契約をしてもらう