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現役探偵の調査ものがたり:小説
2020年11月14日 07:00
『現役探偵の調査ファイル 七人の奇妙な依頼人』 福田政史:著【第一話】漁火(いさりび)6 後半 そこに、別の漁師が通りがかり「どうしたんだ?」と、その漁師に聞く。 二人はなまりの強い青森弁でなにやら話すと、通りがかった漁師のほうが私に言った。この漁師は若いころ東京で働いていたことがあったらしく、標準語に近い言葉で私に教えてくれた。「M丸なら、今日はKの港に入ると言っていたよ」 これでや
2020年11月12日 07:00
『現役探偵の調査ファイル 七人の奇妙な依頼人』 福田政史:著【第一話】漁火(いさりび)6 前半 この調査はかなり運がよかったケースと言える。聞き込み調査の段階で事件解決の鍵になる情報が得られず往生することも多いのだが、あの主婦のおかげで、マルヒが漁師として働いていることがわかった。きっと駒田は、今日も“出稼ぎをして買った”漁船に乗って漁をしているはずだ。 私はレンタカーでS港に行くと、
2020年11月11日 07:00
『現役探偵の調査ファイル 七人の奇妙な依頼人』 福田政史:著【第一話】漁火(いさりび)5 後半 私は最初に駒田の家を確認すると、少し離れたところに車を停めて、いかにも東京から来た風景写真専門のカメラマンがどこかいい撮影ポイントはないかと探している―そんな感じで集落をぶらぶら歩いた。幸いこの日は暖かく穏やかな天候だったため、軒先で立ち話している主婦も少なくない。 私は、竹筒から出る湧き水で野
2020年11月10日 07:00
『現役探偵の調査ファイル 七人の奇妙な依頼人』 福田政史:著【第一話】漁火(いさりび)5 前半 S港に近い民宿〈はまゆう〉に泊まった翌朝七時。部屋の外から、「お食事の支度が出来ました」 というおかみさんの声がした。私は一階の食堂に下りて食事をしたのだが、近くの海で獲れたという魚は美味しく、ご飯をおかわりしたほどだった。宿泊客は私だけらしく、おかみさん自身がご飯をよそってくれた。「北国の
2020年11月9日 11:20
『現役探偵の調査ファイル 七人の奇妙な依頼人』 福田政史:著【第一話】漁火(いさりび)4 最近はあまり人口に膾炙されなくなったが、かつてムチ打ち症という病気が話題になったことがある。自動車に後ろから追突されて首の骨が歪んでしまうなどして、外から見ると何ともないものの、本人は体の不調や痛みを訴える。実は、私も自動車ではないが同じような経験がある。小学生のころ、運動会の練習で騎馬戦の馬になってい
2020年11月8日 07:00
『現役探偵の調査ファイル 七人の奇妙な依頼人』 福田政史:著【第一話】漁火(いさりび)3 応接室で待っていると、私の事務所に電話を掛けてきた今井氏が現れた。「どうもご足労をお掛けしまして」 物腰も低く名刺を出すと、「お仕事の方はお忙しいんでしょうね」と本題ではない話を振り向ける。これは依頼先が企業である場合よくあることなのだが、初めて依頼する調査会社や探偵を、信頼できるかどうか観察してい
2020年11月7日 11:30
『現役探偵の調査ファイル 七人の奇妙な依頼人』 福田政史:著【第一話】漁火(いさりび)2 駒田某(以下、駒田とする)の調査は、もう十二年以上前(昭和五十九年)に新宿区大久保に本社があるY工業という会社から依頼されたものだった。 S港に出向く数日前、落ち着いた中年男性の声で「調査をお願いしたいのですが、社の方に来ていただけますか」という電話があり、その日のうちに担当の今井氏を訪ねたのだが、訪
2020年11月5日 07:00
『現役探偵の調査ファイル 七人の奇妙な依頼人』 福田政史:著【第一話】漁火(いさりび)1 前半 午前九時十五分、羽田発青森行きのANA401便は定刻通り青森空港に到着した。天候は良く、飛行中はさして揺れることもなかったが、飛行機が苦手な私は、ほーっと大きく息を吐いてタラップを下りた。 三月も半ばだというのに、空港は白い雪が残っている。東京は新緑が芽吹く季節なのに、飛行機で一時間飛ぶとまだ残
2020年11月7日 09:08
『現役探偵の調査ファイル 七人の奇妙な依頼人』 福田政史:著【第一話】漁火(いさりび)1 後半 私が豊浦町にあった祖母と叔母の家に預けられたのは、終戦後すぐのことだった。戦前、朝鮮に渡った私の祖父母は、京城(現ソウル)で私の母をもうけた。その母が結婚して生まれたのが私である。昭和二十年十一月、母方の生家だった豊浦町に引き揚げてきた。ところが、両親はそのあとすぐに離婚し、当時まだ一歳だった私