思い出の場所に、恩返し 松本パルコ閉店前コピー続報
このたび、松本パルコの閉店前ビジュアルに、自主制作コピーを採用いただけることになりました。
きっかけは、こちらのnote。昨年秋、松本パルコ閉店に寄せて書いた記事でした。
今日はこの場を借りて、ことの顛末をお話したいと思います。
きっかけ
長野県松本市にある松本パルコは、2025年の2月に閉店が決まっています。1984年の開業以来、さまざまな人が集い、新たな価値が生まれ、多くの方から愛されてきました。学生時代を松本で過ごした自分にとっても、とても思い入れのある場所でした。
閉店のニュースを見たとき、私は衝撃&でっかいさみしさを感じると同時に、パルコで過ごした情景をぶわっと思い出しました。友人と待ち合わせたり、気になるイベントに参加したり、ちょっと背伸びしてショッピングしたり…。思い出す記憶は、どれも鮮やかでした。
閉店をただ嘆くのではなく、どうにか「ありがとう」を伝えられないだろうか。当時はパルコからもらってばかりだったけれど、今度は恩返しができないだろうか…そんな思いで、気づいたらコピーをつくっていました。
胸の内にしまっておくことも考えましたが、身内で供養してもらおう…と思いメンバーに共有したところ、「note記事にしてみたら?」と背中を押してもらいました。勇気を出してnoteで発信すると、思った以上に多くの反響をいただきました。たくさんの方が松本パルコへの思いを寄せてくださって、ああ、本当に愛されていた場所だったのだなと実感。この記事が松本パルコを思い出してもらうきっかけになれたのなら、書いてよかったと思いました。
一本の連絡
月日は流れ、今年の8月。
「noteを見た」という方から、自分宛に電話がありました。それが、「ありがとう松本パルコ実行委員会」の発起人でした。
この委員会は、「閉店前の松本パルコを盛り上げよう、みんなでありがとうを伝えよう」という意図のもと結成された、有志の組織です。私のnoteを見つけて、一員にならないかと誘っていただいたのでした。
「松本パルコに、ありがとうを伝えたい」。同じ思いを持った人に見つけていただいたことに、とても感銘を受けました。ぜひお手伝いさせてほしいと伝えたところ、近々記者会があるとのことで、自分も参加することになりました。
記者会は、松本パルコで行われました。お客さん以外の立場で行くのは初めてで、すこしどきどきしました。はじめましての方ばかりでしたが、当時好きだったお店の作家さんや、知っているイベントの主催者の方にお会いできたりと、はじめてなのに「再会」のような感覚もありました。
いろいろな方から、パルコの思い出をお聞きしました。私が知らなかったパルコの側面も、たくさん知りました。開店当時のこと、当時の盛況ぶりやイベントのこと、昔よく行っていたお店のこと…。それは時空を越えて思い出が溶け合っていくような、あたたかな時間でした。終わりをきっかけに生まれた集いから、新たな何かが生まれていくのを感じました。
松本パルコさんからの依頼
記者会のあと、自分はどんなことで手伝えるだろうかと考えていた矢先、記者会で名刺交換した松本パルコの方からご連絡がありました。
「閉店前のポスタービジュアルに、記事内のコピーを使いたい」
という依頼でした。
届いた、と感じました。松本パルコにありがとうを伝えたくて書いたコピーが、ちゃんと、届いた。それがほんとうに、うれしかった。伝えようとしてよかった、発信してよかったと思った瞬間でした。そして、自主制作で書いたコピーを見つけ、ビジュアルに採用したいと言ってくださるパルコの寛容さ、器の大きさに、感謝の気持ちでいっぱいになりました。もちろんOKですとお答えしました。
書きたかったのは、前向きなノスタルジー
コピーを書いたときのことをあらためて思い返すと、私のなかにあったのは
「かたちはなくなっても、思い出は残り続ける」
「思い出は、前を向いて生きる糧になる」
という思いでした。
私は今でも松本へ行くたび、行き交う人のなかに、かつての自分たちの姿を探してしまいます。パルコ前ですれちがった人のなかに、あの頃の私たちが混ざっているような気がして、思わず振り返ってしまう瞬間があります。
もちろんそれはただの郷愁に過ぎないし、戻りたいと思ったところで戻れるわけではありません。かつて同じ場所で過ごした私たちは、今はみんな別々の場所で、人生を生きています。でも、ここで一緒に過ごした時間は、たしかに存在していた。ここに来ればいつだって、当時の私たちに会える気がする。建物はなくなっても、思い出は私たちの中に残り、輝きを放ち続ける。そんな、ノスタルジーの先の希望を、書きたかった。そんな思いから、生まれたコピーでした。
完成したビジュアルは、かつてパルコで過ごした人が抱く情景や記憶をすべて受け止めてくれるような、懐の深いものなっていると思います。素敵な場所だったね、あのときあんなことあったね、楽しかったねと語らえるような、思い出の拠り所になれたらうれしいです。
ビジュアルは、2025年1月14日に解禁予定。館内エスカレーター周りのポスターや、吹き抜けへの特大タペストリーとして掲示されるそうです。お楽しみに!
思い出の場所に、恩返しする
私は仕事をするうえで、「思い出の場所や人に恩返ししたい」という思いが強くあります。これまで生きてきたなかで、たくさんの人から、たくさんのものをもらってきました。その経験や記憶は、私を支える一部になっています。
大人になって働くようになってからは、「今度は自分が与える側なのだ」と感じることが増えました。同時に、自分にできることなんてほんのわずかだ、無力だと悩むことも増えました。
それでも、ことばを扱う仕事をしている身として、ことばを使って、誰かの気持ちをすこしでもいい方へ動かすお手伝いができたらうれしいと常々思っています。それが、私にできる恩返しのひとつだからです。今回このような機会をいただけたのは、とてもしあわせなことでした。
コピーを書くなかで知ったのですが、「PARCO」はイタリア語で「公園」という意味だそうです。
それを知ったとき、とてもしっくりきました。
いろいろな人が訪れては去り、同じ空間で混ざり合い、新たな価値が生まれていく。とても寛容で、器が広く、いつも新しい景色を見せてくれる存在。だからこそ、多くの人に愛されてきたのだなと。
建物がなくなっても、松本パルコを通じて生まれた縁は続いていきます。松本も、人も、変わり続けます。新たな出会いや価値は生まれ続けます。
ただ、まずは2月で一区切り。
みんなで盛大にありがとうを伝え、最後に輝かしい思い出をつくれればと思います。
閉店まで、あと数ヶ月。ぜひ最後にもう一度、今の松本パルコに、そして思い出に、会いにきてください。
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