認知的不協和(セルフ洗脳):行動経済学とデザイン:38
洗脳(Brainwashing)の語源は中国なのだそうです。
このことを知った下の本はとっても面白く、50の哲学(だけでなく心理学や社会学など幅広い教養を扱っている)が紹介されていますが、その中から1つ、今回は認知的不協和について取り上げます。
武器になる哲学
山口周
KADOKAWA 2018.05
思想主義の洗脳手法
認知的不協和は、レオン・スタフィンガーというアメリカの心理学者による提唱ですが、もとはCIAが作成した中国共産党の洗脳に関する報告書をもとに、ジャーナリストが本を出したことで広まったということです。
その洗脳方法は、一般的にイメージされるものとは違います。
1. 共産主義の良い点を書かせる
2. タバコなどの小さな報酬を渡す
これだけです。
この単純な仕組みに、認知的不協和が影響を与えています。まず1では自分が意図しない宣言をしています。このときは自分の認知と行動は伴っていないので「自分は無理やり書かされたんだ」という言い訳ができます。
ところが2で小さな報酬をもらってしまったために、言い訳が効かなくなります。この「小さな報酬」というのがミソで、大きな報酬だと「大金のために仕方なくやった」と別の言い訳ができますが、小さいので言い訳の理由がなくなる状態になります。
認知と行動が一致してないので、人はどちらかを合わせて協和させるようにします。報酬をもらってしまったことは変えられないので、その結果「共産主義にもいいところはある」と考えることで不協和の状況を解消する、その結果として相手の考えを受け入れていきます。
実は自分自身でしている「セルフ洗脳」が認知的不協和の仕組みです。
相手が意識していない場合もある
認知的不協和を提唱したスタフィンガーはこの考えに基づき実験を行いました。被験者につまらない作業をさせて、次の人に「面白かったよ」と伝えるよう指示をしたところ
A. つまらない→嘘をつかせる+少ない報酬にする
B. つまらない→嘘をつかせる+多い報酬にする
結果、Aの方が作業に対する満足度は高い結果となりました。金額が少ない方が効果が出たのは、冒頭に紹介したことが理由です。
思想主義の洗脳は明らかな意図があるけど、実際の社会では報酬を与える本人も自覚がなく、ちょっとした善意でやっている場合があります。かつ与える本人の財布はほとんど痛まず高い効果を得ているという。
なので仕事であたりの強い人が、たまに飲み物を買ってあげるような状況は注意すべきです。認知的不協和解消のトリガーになるので。(取調室での恫喝とカツ丼も、アメとムチも同じ仕組みです)
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このシリーズは「倫理観に基づいてデザインをする」ということを信条にしていますので、悪用せずにユーザーと社会のためにどう役立てられるかについてを考えてみたいと思います。観点は次の3つ
・導入:ギャップ萌え作戦
・習慣化:褒め続ける作戦
・洗脳解除:返報性を使う作戦
1.導入時:ギャップ萌え
僕がまだ社会人なりたてのとき、背伸びしていいレストランに行ったのですが、慣れないので緊張して不安な気持ちでした。
ただ、ウェイターの方がすごく気さくだったのが今でも印象に残っています。僕が慣れない客なのを見抜いたのか、品を保ちつつも気さくに話しかけてくれたことで「このレストランすごくいい!」と思い大満足でした。ウェイターは僕にとってのプチ報酬だっと思います。
なのでユーザーが不安な環境にいるときは、優しく親しみのあるプチ報酬の要素を入れることで、ギャップ萌えで魅力を感じてもらう効果が期待できると考えます。(表裏のないアメとムチ作戦)
2.習慣化:褒め続ける
ついさぼってしまいがちな勉強やつまらない事務作業、やる気を出して楽しんでもらうために認知的不協和を使ってみてはどうでしょう?
本人は「つまらない」「意味がない」と思ってもそれに対して「さすが!」「すっごい助かる!」と伝えることで認知が変わるかもしれません。サービスを使い続けてもらう習慣づけや、アカウント設定など面倒と感じる操作で効果がありそうです。
かくいう僕も勉強ではセルフ洗脳している気がします。割と本を多く読む方だと思いますが、読んだ内容をtwitterになるべくポジティブな感想を書くと蓄積の喜びがあり、次の本を読み続ける気持ちになります。(いい意味での豚もおだてりゃ木に登る)
3.洗脳解除:返報性を使う
洗脳というと大げさですが、例えば他社商品のファンをターゲットにする場合、正面から商品価値の訴求をはたらきかけるより、何でもいいのでプチ報酬を先に渡して返報性を使ったほうがいいかもしれません。
例えばビールだったら、まず1缶渡して、その場で飲んだ感想を聞きます。もらった手前、悪口はあまり言えないので「美味しい」などいうのかと思います。そうすると意図しなかった発言とプチ報酬がセットになり、「このビールも悪くないかも」と考えを改めるきっかけになります。(これは文字通り、恩を売る=少額をタダで売る、です)
返報性については以前書きましたのでこちら参照を。
ちなみにルサンチマンという概念がありますが、これは哲学者ニーチェが提唱した考え方で、簡単にいうとやっかみやひがみのこと。「武器になる哲学」ではこのように説明されています。
弱い立場にあるものが、強者に対して抱く嫉妬、怨恨、劣等感などのおり混ざった感情
代表例にイソップ童話の「すっぱいブドウ」がありますが、冒頭に紹介した本では、高級品はルサンチマンを生み出す装置、という考えが書かれています。例えば「高級イタリアンなんていきたいと思わない、サイゼリヤで十分だ」というように。(ちなみに僕はサイゼリヤ大好きです)
こう考えると、ルサンチマン(やっかみ)は認知的不協和を働きかけサービスの乗り換えを促すいいキッカケになります。
まとめ
活用案について書いてみましたが、それでも認知的不協和は避けるべきものだと思います。相手を操ることになりかねないので。あくまでサービスを利用する過程でくじけそうな時に適用する、くらいが望ましいかと思います。
ユーザーをそういった状況に置きたくない場合は、サードプレイスの考え方を入れるのが良いのではと思います。自宅と会社での役割が一致しないときに、第3の場所としてカフェに寄ったり、スポーツサークルに入って気分転換をしたり。
ホワイトボードを使った会議で、Parking Lotというテクニックがあります。ホワイトボードの端に小さいスペースを用意して、論点とずれた発言が出たときはParking Lotに書いて混ぜないようにする方法です。不協和を起こさないために端に置いておくと、心理的安全性が保てると考えます。
何においても、ユーザーと社会のためになるデザインを心がけましょう。
デザインとビジネスをつなぐストラテジーをお絵描きしながら楽しく勉強していきたいと思っています。興味もっていただいてとても嬉しく思っています。