創造性と教育の偉人-2. ジャン・ピアジェ(探究演習)
大学院で学ぶ「学習のデザイン」。教育のなかで創造性に関する代表的な3名の思想家や学者から、今回はジャン・ピアジェをご紹介します。
ジョン・デューイー(記事はこちら)
ジャン・ピアジェ(今回)
レフ・ヴィゴツキー
こんな人です
ジャン・ピアジェは1896〜1980年にスイスで活躍した心理学者です。次回に紹介するヴィゴツキーとは好敵手のような関係です。自分なりの見立てですが、ピアジェの視点が内に向いているのに対して、ヴィゴツキーは外に向いているという違いがあります。
シェマという概念を示して、認知学習の考えを広めたことが、ピアジェの代表的な研究です。
また、ピアジェは研究は後継者が系譜的に続けて発展している、という特徴もあります。これは後半の方で述べます。
子どもの認知モデルを解明した
ピアジェ以前の心理学は、行動主義という考え方が主流で、子どもは受動的で無能な存在だと見られていました。
それを「いやそうではなくて、子どもは主体的に学んでいるんだよ」という発見をしたのが、ピアジェの大きな功績の1つです。認知心理学の変遷については、以前書いた記事で紹介しています。
人の認知構造のことをシェマといいます。そして、現状のシェマから新しい情報を取り入れること(同化)と、新しい情報からシェマを変容させること(調節)を行って、再構成を繰り返します。例としてはこちら。
この研究で、ものごとの捉え方に着目する内側の視点に着目して、認知主義の考え方を広めました。内の人です。
主体的に学ぶと創造性につながる
シェマの理論をもとに、ピアジェはこのようなことを発言しています。
一方的な知識伝達は、いま多くの学校や塾で行われている教育方針です。それの教育が創造性を奪うと批判しています。そうではなく、創造性を育むためには、主体的な理解や発見に取り組むことだと言います。
引用した文章の本はこちら。
理解の仕方が主体的か受け身かで創造性に影響する、という点が興味深いと思いました。
効率的に理解するなら受け身で教えてもらう方が早いはずです。だから学校もそのような教え方をしています。対して、主体的な理解は時間がかかるし間違った理解をしてしまう可能性もあり、学びの品質がバラツキます。
でも代わりに、創造性を学べます。探究学習とかアクティブ・ラーニングとかアート思考とかが知られる100年前の時代にです。これは面白い。
後継者が創造性に発展させた
ピアジェはシェマ理論をもとに、構成主義の考えを広めました。それは
と考える立場のことということです。つまり、一方的に知識を教わるのではなく、自身で考えて理解・発見・発明することを意味しています。
ここから、ピアジェの研究の系譜は発展していきます。
シーモア・パパート(1928-2016)は、ピアジェの弟子としてMITでプログラミング学習を研究した人で、マインド・ストームに代表される一連の活動は、1970-80年代の教育学に大きな影響を与えました。
パパートは、ピアジェの構成主義から、構築主義という考えを発展させました。これは「つくって学びを構築していく」という考えです。前回紹介したデューイーの「Learning by Doing」の思想と似ています。
ミッチェル・レズニックはそのパパートの教え子です。子どもが積み木を組み立てるように操作してプログラミングを行えるScratchの開発者として知られています。レズニックについては以前に紹介しました。
レズニックは幼稚園での学びにも着目し、遊びによる活動から「クリエイティブ・ラーニング・スパイラル」という学習プロセスを示しました。
レズニックの研究と同時代には、メイカーズ・ムーブメントもありました。仲間とつくって遊びながら学ぶ、という視点は2000年以降により注目が高まっています。
このように、ピアジェの功績は今日にも多くの影響を与えています。
学んだこと
ピアジェの着眼点は人の内面でした。主体的に認知を再構築していくなかで創造性を身につけることに着目しました。その後に弟子の研究で、つくったり遊んだりすることと認知の関係から、創造性の学びが発展しました。
創造性というと、感性とかセンスとかの言葉で片付けがちです。でも物事をどのように認知するかということと、主体的に取り組み自分なりの新しい認知を獲得することで、創造性につなげられることがわかりました。
メカニズムや要因の関係を理解することで、創造性を学ぶための方法論を、ふわっとではなく論理的に考えることができるようになりました。
今日はここまでです。