好意(好きだからOKの錯覚):行動経済学とデザイン14
影響力の武器、4つめは『好意』についてです。
影響力の武器
ロバート・B・チャルディーニ (著)、社会行動研究会(訳)
1991.09(第一版) 誠信書房
好意とは、自分が好きだと感じている人に対して受け入れる傾向が強くなることを意味します。
顔のいい人や感じのいい人からの頼まれごとだと、ついつい受け入れてしまいます。高感度の高い芸能人がCMに出ていると、その人の言うことを信じて商品を買ってしまうというのは、多くの人が体験しているはずです。自分はそんなことないという人、正直になりましょう(^^) 。
瞬間的な好意
好意を引き起こす直接的な要因は3つあります。
1. 身体的魅力:見た目が才能・親切さ・知性なども評価を高める
2. 類似性:自分と似ている、共通点がある
3. 称賛:褒められると受け入れてしまう(露骨なお世辞は反感を買う)
1の身体的魅力は『ハロー効果』といわれます。HelloではなくHaloで、日本語だと「後光が差した」状態のことを表しており、何か1つが際立っていると他の特徴もそれに引っ張られて見えてしまうことを意味します。なので、ネガティブが際立っていたら他も悪く思われてしまいます。
2の類似性は前回の社会的証明にもありましたが、行動経済学では『親近感バイアス』という言葉があります。自分と近しい方を選ぶ傾向で、わかりやすい名前の株の銘柄の方が取引される、といった影響があります。
3の称賛は「イイね」のことです。周りが厳しい人たちばかりの中でやさしい言葉をかけられたら、ついお願いを聞いてしまいますよね。(たとえそれが危険な勧誘であっても)
時間的な好意
上の特徴は瞬間的な反応ですが、これに時間軸が加わり累積すると間接的な影響も及ぼします。
4. 親密性:触れる機会が多くなることで好きになり協力したくなる
5. 連合:関係性をつくることで分かち合う機会が増える
4の親密性は、前に紹介したアフォーダンスの応用(触れると好きになる)ともつながりがあるし、5の連合はファンベースの考えかたにも通じます。
理性的であろうと意識している社会人でも、こんな単純なことに影響を受けてしまっている人間は、とっても非合理な生き物です。
では早速、これをデザインの取り組みにどう活かせるのかを考えて見たいと思います。(ただカッコよくするという話ではないですよ)
応用1. 憧れと親しみのバランスをとる
人が「このデザインいい!」と思うときは、好意の法則から考えると次の2つが強い要因になります。
・身体的魅力 = 今の自分よりちょっと背伸びした憧れ
・類似性 = 自分との距離が近い
例えばappleの製品デザインはちょっと背伸びした感じがあって、GoogleのUIや製品は親しみやすさがあります。でもappleはハイクラスな人だけが使うわけではないし、Googleにも洗練された要素は感じられます。
このバランスを考えるには、扱っているデザインを友達に例えてみるとわかりやすいかと思います。素直に話し合える関係、でもちょっと尊敬できる相手。ユーザーにこのような関係を持たせられると、好意が持てるデザインになります。
応用2. 褒めたときにお願いする
最近のオンラインのサービスは、使うとたくさん褒めてもらえます。例えば初期設定をしたら「これでバッチリ!」と言ってもらったり、ちょっと達成したら「おめでとう!」と言ってもらったり。
これは3の『称賛』によるものですが、その効果は大きく2つです。
・サービスを使い続けてもらえる
・お願いごと(アンケート、情報入力、紹介)をしてもらえる
特に「お願いごと」はサービスを発展させるために欠かせないことです。お金をかけて広告を打つよりも、無料でもユーザーの体験価値が高まっているときにお願いするほうがきっと強い効果があります。ビジネス条件にとらわれないデザイナーだから貢献できる価値がここにあると思います。
ジャーニーマップを書くときは、どうしても困りごとの課題解決の注目してしまいがちですが、「嬉しい」と思う瞬間に着目してどこでお願いができるか?は、サービスの成長を考えるうえではより重要だと思います。
応用3. 協力して一緒に分かち合う
時間や集団が『好意』に関わると、ときに不思議なことが起こります。有名なのは、銀行強盗に人質となった人が犯人たちに協力してしまう『ストックホルム症候群』があげられます。
これを、よい目的のために対等な関係にすることで、よいサービスや社会の仕組みに『好意』を活用することができます。
例えば、スポーツにおけるファンと選手の関係。ファンが応援することで選手も期待に応えて、それによってチームが盛り上がり、観戦チケットやグッズの売上も増えてサービスが活性化していきます。横浜ベイスターズが復活したことを書かれたこの本は、ファンと選手の関係についてとても学びになるのでオススメです。
最近、注目されている、シェアリングエコノミー、D2C、コミュニティによるビジネスモデルなどは、いずれも『つくる人』と『使う人』とが相互に関係しあって成長しています。その関係の特徴は、
・双方向
・対等
・感謝しあっている
・交流している回数がすごく多い、
という点です。この4つはサービスを成長するうえで大事なことだと思うので、チェック項目として自身が関わっているサービスを見てみると、何か気づくことがあるかもしれません。
まとめ
書いてみて、好意はデザインでできることが多くあると気づきました。上にあげた3つの好意を育むアプローチをまとめてみると、
1. サービスを友達に例えてみる
2. タイミングを見計らって褒めてお願いする
3. ユーザーと双方向で、対等に、感謝し合い、交流を重ねる
となります。好意の関係性を集約してみると結局のところ「ユーザーに喜んでもらえるデザインとは何?」ということにたどり着きます。
なのでデザイナーの基本的な心構えとして、常にユーザーのことを考えてデザインをする、ということが大事だと改めて思った次第です。