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権威(服従してしまう心理):行動経済学とデザイン15

影響力の武器、5つ目は『権威』です。前回の『好意』とは対極の関係ですが、服従してしまう心理が、結局は好意と同じように相手に主導権を与えてしまいます。

影響力の武器

影響力の武器
ロバート・B・チャルディーニ (著)、社会行動研究会(訳)
1991.09(第一版) 誠信書房

権威がはたらく要素

例えば多くの人は、目の前の相手が医師や弁護士だとわかると、その時点で反射的に「この人の言うことは信頼できる」と思ってしまうはずです。相手が本当に信頼に足るかなんていう疑問を持つこともなく。

これは、すごく短絡的な思考(あるいは思考停止)で、ダニエル・カーネマンの名著ファスト・アンド・スローでいうところのシステム1が作動している状態です。

権威には例えばこんなことが影響します。シンボルの要素では、

肩書き:学歴、役職、仕事での実績、受賞歴(XX金賞とか)
服装:特に医師、警察、パイロットなどの制服は効果が高い
装飾品:高級な時計やメガネなど

例えば、制服を着てメガネをかけいる警察官だったら、規則正しく正義感が強く、この人の前では誠実に振舞おうと思ってしまうはずです。

情報の要素に関しても権威づけはあります。

所得や生活水準:お金の使い方や住まいなど
人間関係:血縁、普通では知り合えない人、有名人、成功者
ふるまいや話し方:堂々としている、専門用語を使う

ちなみに、このシンボルと情報の権威を組み合わせると、詐欺師が成立します。映画『Catch me if you can』でパイロット・医師・弁護士になりすましていたフランク・アバグネイル、軍人や王族の血筋という肩書きを利用して常に軍服を着ていたクヒオ大佐、海外の学歴や実績を偽ってテレビで流暢に話していたコメンテーター。みんな権威を借りて人々を騙しています。

なぜ権威には力があるのか

本書、影響力の武器では、1960年代に行われた有名なミルグラムの実験で服従してしまう心理を起点に考察しています。

ミルグラム実験:電気ショックを用いたテストで、役割を与えて権威を持ってしまうと普通の人でも偉そうに振舞ってしまうことを検証したもの。(この実験には今でも不確かさや反論があげられています)

権威者から圧力を受けると、服従することが正しいという考えを他の人にも植え付けようとしてしまうことが、権威に影響力を与えてしまうことに着目しています。なぜ権威がそれほど強いのかを考えると、

1. 専門性に頼るほうが楽だから
2. 競ってもかなわないから
3. 自分には縁のない世界だから

などがあげられます。これを一言でいうと「自分より上にいて距離が遠い」から生じることなのだと思います。つまりアンフェアな関係。

権威01

でも一方で、世の中はフラットでフェアな関係を求める傾向が強まっています。そもそも権威と服従で成り立っている社会は健全ではないし。

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前置きが長くなりましたが、今回はデザイナーが権威を使いつつもフェアな関係をつくるすることって可能なのか?について、対人コミュニケーションの観点で考えてみます。

応用1. 専門家としてふるまう

これはすべての職種に通じることですが、ミーティングの場で信頼を得たい場合は、相手と同じ視座になるよりも、専門家としての発言を意識することのほうが大事です。

話し方のポイントは「それは〜です、なぜなら〜だからです。」というように、感覚ではなく裏付けを付け加えることです。その裏付けが専門家でなければ語れないことほど、権威を高めることにつながります。

この権威の使い方は悪いことではありません。なぜなら相手はデザイナーに対して、自分にはない専門性を求めているからです。(ちなみに、この文章は上のテクニックを実践しています)

ただ気をつけたいのは、知識をひけらかさないことです。デザイナーとして信頼ができるかどうかは実績と経験に基づいるかであって、知っているだけで自分の言葉で語れない内容は、相手も実がないと感じ取ってしまうはずです。デザイナーに対する信頼とはそういうものだと思います。(自戒を込めて書いています)

応用2. 引用を使う

デザイナーの提案は主観的です。なのでその人がよっぽど相手の信頼を積み重ねてない限り、新しい考えをすんなりとは受け入れてもらえません。

そこで有効なのが引用(Quote)です。例えば偉人の名言をスクリーンに映して提案を後押しさせたり、ユーザーインタビューのコメントを取り上げて、課題認識を客観的に伝えたり。を起点にしているこのブログも同じことで、良い意味での『虎の威を借る狐』戦法です。

ビジネスシーンでは数値が多く用られますが、デザインでは確実性よりも納得性が重視されるので、引用は僕も重宝しています。

応用3. ライフスタイルの達人

「私はセンスがないから...」という人に対して、デザイナーが『いい暮らし』『豊かな時間の過ごし方』を知っていることは、権威になりえると考えます。

ビジネスの会話についていくことは難しくても、ユーザーの生活の話題については、デザイナーは他の職種よりもみんなからの信頼を集められます。なぜならいつもそのことを考えていて、日々の買い物や交流の1つ1つがデザインの実践で、お金だけではさし測れない価値観を習得し多くを語れる人たちだからです。

僕はデザイナーとはライフスタイルの達人と考えています。なのでユーザー視点で専門家として意見を求められることは、デザイナーとして認められていることの証明でもあるといえます。

なので、クライアントとの会話でも端々でそれが感じられるように(ただし嫌味でない程度に)なると、デザイナーに対する信頼は高まるはずです。

権威02

3つを図にするとこんな感じです。それぞれ専門性を持った高い位置から信頼しあおう、というのが権威のフェアな使い方だと考えます。

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今回は行動経済学とのつながりが弱い内容になってしまいましたが、上にあげたテクニックを使うことでビジネスを良い方向に推進することがきるのではないかと考えて、まとめてみました。

まとめ 〜 デザイナーの権威とは

と、ここまでデザイナーがどう権威を持ちつつフラットな関係をつくれるかを書いてみましたが、日本ではデザイナーは弱い立場にあることが多いかと思います。

思い返してみると、少し前のデザイナーは偉そうに振る舞っていました。例えば黒い服装をして他の人とは違う雰囲気をだしたり、デザインの話に文化的な考えを織り交ぜることで視座の高さを印象付けたり。それはクライアントと対等な関係になるために必要な権威だったのかもしれません。

でも今はチームで取り組むことが多いので、上にあげたような権威の主張は関係性の悪化にもつながりかねません。

応用1-3であげたようなテクニックを使うことで、デザイナーとしての信頼を獲得できます。また、数字を扱えたりビジネス観点で会話ができるデザイナーは経営にも関与できる時代の流れにもなっているので、デザインの軸を持ちつつも他の分野にも関心を広げてみると、今までとは違う信頼が得られるのではないかと思います。

権威というテーマで書きましたが、本質は『信頼』だと思います。

デザインとビジネスをつなぐストラテジーをお絵描きしながら楽しく勉強していきたいと思っています。興味もっていただいてとても嬉しく思っています。