プラセボ効果(病は気から):行動経済学とデザイン25
ニセモノの薬を売っている会社が日本にあります。この会社、あやしい会社ではなく、いたって真面目なビジネスをしています。
僕は偽薬を売ることにした
水口直樹
2019年7月 国書刊行会
社名はプラセボ製薬株式会社といって、設立は2014年、代表は京都大学薬学部卒、販売商品は食用偽薬で成分や砂糖や小麦粉などです。つまりニセモノの薬を売っています。
なぜ偽薬を売ってるか?わかりやすい例では、薬を飲まなきゃダメだと思い込んでいる認知症の人に偽薬を渡すことで、過剰な薬依存を避けることで本人の健康が回復したり、国の医療費削減に貢献ができます。
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プラセボ効果とは
患者は効き目があると思い込むと偽薬でも症状が回復する現象、のことをプラセボ効果といいます。
古くは1863年に細菌感染の病気を持つ患者に対して、アメリカ人医師が、効果も害もない偽薬を処方したところ、他の患者と同様に回復したという報告が残っています。(当時のこの病気は自然治癒がよしとされていたけど、それでは患者は納得しなかったことから偽薬を用いたのだそう)
行動経済学の観点で面白いのは、値段との関係。人は値段が高い薬の方が効果があると思い込み、実験でその差が証明されています。行動経済学者のダン・アリエリーが2008年にイグ・ノーベル賞を受賞しています。
有名なこの本にも書かれています。
薬以外にも効き目がある
価格だけでなく何かしらのありがたみを感じるほど効果がありそう、と思うことは誰しもあるはずです。例えば希少で入手困難なもの、神聖な場、裏話のあるもの、など。
間違うと悪徳商法にもなりかねないプラシボ効果ですが、僕なりの整理では次の3つで、商品やサービスに適応されている好例があると思います。
・ウンチク系:後付けの知識による効果
・おいのり系:宗教に通じる願掛けの要素による効果
・ありがた系:権威・希少性・高額による効果
では見ていきましょう。
1. ウンチク系の事例:瞬足
ご存知、小学生のなかで人気のロングセラーの運動靴です。アキレスの社員が運動会を観察した中から、靴底を左右非対称のグリップにしてコーナーを早く走れるようになる、というデザインが生まれました。
もちろん、科学的にこの効果があるかどうかは重要でありません。子どもがそれによって「速く走れるぞ」と思えるかどうかが鍵です。
ちなみに五年くらい前に、人間生活工学の関わりでアキレスに取材にいったことがありました。靴底だけではなく、当時は速く感じられるようにミニ四駆のデザインを研究していた、といった話も教えていただきました。(楽しそうな仕事だなー。)
2.おいのり系の事例:キットカット
合格祈願の代名詞的なおやつになったキットカット。郵便局と組んで受験生に送る取り組みが人気となり、長らく続いています。
チョコ自体に効果がないのはわかっていても、何の関係もないお菓子をもらうよりもキットカットをもらう方が合格しそうな気がします。
ちなみに僕は北海道出身なのでこちらを推したい。
3. ありがた系の事例:予約のとれないお店
一年待ちのお店にやっと行けたら、最高に満足するために心の準備をするはずです。
当日、お店での冷静な分析はナンセンスです。高いんだから、なかなか行けないんだから。満足できるために自分の感情をある意味だまして、すべていい方向に持って行こうと考えます。
ただの個人的な願望ですが、行ってみたくてしかたないお店。絶対に気持ちいいに間違いない。
価格との影響はこのカテゴリにあてはまります。
考察と応用テクニック
これらを通して考えてみると、プラセボ効果で行動を後押しする商品やサービスには、次のような要素が挙げられます。
・開発秘話などのストーリーがある
・納得したくなる因果関係を伝えられる
・相手とのつながりが感じられる
・ありがたみがある(例えば薬や宝石)
・希少機会を提供する
このあたりデザインを考えるときに参考にしてみましょう。
まとめ
冒頭の本の著者によると、プラセボ効果がはたらく原理は
ヒトはわからないことを嫌う(分かることがスキ)
といいます。ヒトは十分な情報がなかったり、どう反応するかわからないものには、恐れを抱きストレスを感じます。それに対して説明がつくことで安心して接することができます。因果関係だったり経験則だったり。
プラセボ効果はこういった説明原理に基づいているということです。自分が関わっている対象物が何かしら『わからないもの』であったなら、それを説明できるようにデザインで取り入れられると、ユーザーは本物か偽物かよりも「これに決めよう」という行動につなげられると考えます。
デザインとビジネスをつなぐストラテジーをお絵描きしながら楽しく勉強していきたいと思っています。興味もっていただいてとても嬉しく思っています。