希少性(失いかけるとほしくなる):行動経済学とデザイン16
影響力の武器、最後の6つ目は「希少性」です。
影響力の武器
ロバート・B・チャルディーニ (著)、社会行動研究会(訳)
1991.09(第一版) 誠信書房
なんで品薄になるのか?
希少性は正しい判断をにぶらせてしまいます。例えば今の状況のようにマスクやハンドソープが店頭にないと、価格が高くても買おうとするし、家にストックがあるにも関わらず買わなきゃ、と思ってしまいます。過去にも
・スニーカーブームのときのNIKE AIR MAX95
・女子高生を中心に流行ったたまごっち
・東日本大震災のときのペットボトルの品薄
などがありましたが、実はこの現象は2つの層によって起こっています。(たまたまラジオを聞いて知った内容を思い出して書いています)
まずはじめに過剰に反応して極端な行動をする層が現れますが、その時点で多くの人はまだ落ち着いています。しかし、一部の過剰な行動がメディアを通じて知れわたると、多数層も「なくなるかもしれなから買わないと!」と思って追従してしまいます。本当に必要かどうかに関わらず。
これが品薄につながります。まとめると、
1.リーダー層の行動:流行を追う人、過剰反応する人、ブーム牽引者
2.情報の流布:テレビなど特に社会的地位の高いメディア
3.フォロワー層の行動:周囲に影響を受けやすい人
1ではまだ一部の範囲で止まりますが、2を通すと一気に希少価値が高くなると感じられて、3にまで広がっていきます。これは以前紹介したバンドワゴン効果の波及効果とも似ています。
なので変な話ですが、本当に希少だと誰も目をくれず、ある程度は市場に浸透していないと希少性の効果がうまれません。
希少性のメカニズム
少ない、ということに人が非合理に判断・行動してしまうのには、2つの理由があります。
A. 入手困難=重要なものに違いないと判断
B. 入手困難=自由を失うことへの反応
そしてこの根底にあるのは競争心理で、得られないと相手よりも不利な状況になってしまう、という不安から起こっています。
この仕掛けを利用したサービスは世の中にたくさんあります。例えば旅行サービスでの「残りx室」や服での「あとx着」はネット上で必ずといっていいほど目にしますが、それに反応してしまうのは「他者に取られて不利になりたくない」という心理です。
サービスのデジタル化とデータ活用により、数字をほぼリアルタイムに提示できるのは、ユーザーが検討判断をするうえで良い面もあるけど、損失回避の行動を促進していまいます。これについては前にプロスペクト理論のところでも紹介しました。
ただ、影響力の武器が出版されたときと違って、今は情報化社会でありシェア文化が浸透しているので、限定品や高額な商品に対する希少性の相対価値は下がってきています。
そんな中で希少性が機能していることは何か?を考えてみました。
現代の希少性1. フォロワー数
情報化によって希少性の価値はモノよりもヒトに移ってきました。人気のYou Tuberやブロガーなどは希少性の高い人たちと言えるでしょう。
彼ら/彼女らがいるからこそ、追従する人が増えてそのサービスは人気を集めていますが、そのためにはフォロワー数など数字なりステータスなりの何かしら可視化されている情報が希少性を発揮します。
フォロワー数が多い人の発言は強い影響力があるので、サービスに注目を集めるためにはこうした人のサポートが欠かせません。
現代の希少性2. 時間
ネットの普及によって場所の制約がなくなり、みんなが自由に情報にアクセスできるようになったことで、時間に対する希少価値が相対的に上がってきました。
例えば期間限定のオンラインセールや、ライブ配信をリアルタイムで観られてコメントを送れること、などです。時間は誰にとっても平等なので、個人的には時間に希少性を与えるのは健全なことだと思います。
現代の希少性3. リアルな接点
一方で、多くの情報がアクセスしやすいからこそ、デジタルではないリアルな場での出会いや体験はより希少性を増します。
講演会、店頭イベント、ライブ、アウトドア、オフ会などの市場はより活発になっていると思います。(市場推移を調べたわけではないので経済的裏付けはないですが)外出できない今のような状況では、より実感できることだと思います。
アフターデジタルから学ぶ質と量の関係
上の3つに対して、書籍『アフターデジタル』ではテックタッチとリアルタッチの関係性をわかりやすく説明しています。
テックタッチ(デジタルの接点)は数の接点を広げる量産が得意ですが、リアルタッチ(対面での接点)は深いコミュニケーションができる質の接点が得意です。アフターデジタルの世界はすべてデジタル化するのではなく、リアルな場を活用してデジタルとのつながりをつくることが重要であると述べています。(読書感想文はこちら)
デザインの分野でも近年はサービスやUIなど、デジタル領域でのテックタッチが主戦場になってきていますが、量だけではなく質を深めるリアルタッチの領域のデザインにも今一度着目してみましょう。
まとめとおまけ〜自身の希少性を高める
以上、希少性についての考察でした。単に限定品や高額といったことではなく、接点を持てる機会に対しての希少性を考えることで、人の関心を高めることができるのではないかと思います。
ちなみに、希少性の高いデザイナーになるには?ということを考える人もいるかと思います。他にいないけど必要とされている存在。
僕が参考にしているのは、藤原和博さんの考え方です。何かの専門性を極めるとともに専門性同士を掛け合わせて、自分をレアカード化させるという考え方で、この話の主軸となっているのが希少性です。
ちなみに僕はなぜか3番手あたりが好きで、巨人ではなく広島、ジョンレノンではなくジョージハリスン、工業デザインでも家電や車ではなく医療機器など。メジャー領域で戦わないことも希少性を高める1つだと思います。
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影響力の武器から6つのキーワードを紹介しましたが、次からはもう少し行動経済学の本筋に戻っていきたいと思います。